もしかしたらあなたは、イーロン・マスク氏は地球を破滅から救ってくれる先見性のある起業家と思っているかもしれない。あるいは、向こうみずなナルシストか。それとも、もう彼にはうんざりしてしまっているだろうか。
しかし、彼についての個人的な見解に関わらず、彼が2021年に暗号資産(仮想通貨)界にもたらした特大の影響を否定することはできないだろう。特に、ビットコイン(BTC)とドージコイン(DOGE)の価格については。
ツイート1つで乱高下
マスク氏はビットコインが大のお気に入りだ!となれば、価格は急騰。マスク氏は、ビットコインが環境を破壊していると批判的だ!となれば、価格は急落。
そのパターンはあまりにもあからさまであり、米紙ワシントン・ポストは「暗号資産はイーロン・マスク問題を抱えている」という見出しの論説を掲載したほどだ。
この論説を書いたのはCoinDeskのエミリー・パーカー(Emily Parker)で、「単独の存在の影響力に左右されないように作られた、分散化されたはずの業界において、1人の人物のツイートの力に基づいて市場価格が急騰、急落しているようだ」と彼女は指摘した。
2021年、マスク氏は明らかに、暗号資産業界において(良かれ悪しかれ)「最も影響力のある」人物の1人であっただけではなく、人類史上全体を通して、あるいはカエサル以降、資産の価格にこれほど直接的な影響をもたらした人物は彼以外に1人もいなかったとも言えるかもしれない。
6500万のフォロワーにミームをツイートするだけで、マスク氏は即座に、時価総額で何千億ドルもを生み出す、あるいは消し去る力を持っていたのだ。
今年の夏に誰かがツイートした通り、彼のビットコインへの態度の移り変わりは、「『好き』『嫌い』と言いながら、 花びらを 1 つ 1 つむしる」花びら占いのようであった。
マスク氏は、ビットコインが好きなのか?それとも嫌いなのか?この複雑な関係のハイライトの一部を、振り返ってみよう。
1月29日:好き。ツイッターのプロフィールを「#bitcoin」というシンプルな言葉に変更。価格は瞬時に、13%跳ね上がった。その後、「振り返ってみれば、不可避であった」という謎のツイートを投稿。いったい何が、不可避だったのだろうか?彼のビットコイン支持?ビットコインの台頭?
誰にも確かなことは分からないが、マスク氏は正式に、チーム・ビットコインの一員であったように感じられた。メインストリームへの普及は今や、不可避だ…。
2月4日:好き。「ドージ」と、マスク氏はツイート。ただそれだけだ。それがツイートだった。(彼は、一言ツイートの王様だ)
『ライオン・キング』をモチーフに、マスク氏がラフィキ(ヒヒのキャラクター)、柴犬がシンバ(主人公のライオン)に扮したミームを含めた、たくさんのドージ関連ツイートが続くことになる。
このライオン・キングのツイートは、ドージ価格が高騰した後に投稿されたもので、「どういたしまして」という言葉が添えられていた。2つのことが明らかとなった。1)マスク氏は自分が何をしているか分かっている。2)そしてそれを最高に面白がっている。
2月8日:好き。テスラがビットコインに15億ドル投資したと発表し、それが強気相場を支える「機関投資家への普及」というトレンドを加速させた。ビットコイン価格は1日で約8000ドル上昇し、初めて50000ドルを突破。暗号資産トレーダーの多くがこの日を「イーロンのロウソク」と呼んでいる。イーロンのロウソクTシャツまで発売されている。
3月24日:好き。関係は続いている。真実の愛かもしれず、マスク氏とビットコインは永遠に一緒かもしれない。「これからはビットコインでテスラが買える」とマスク氏はツイート。暗号資産の世界にとって希望の光となるような、はっきりとした宣言を行った。
4月28日:好き。暗号資産の大半が強気相場の真っ只中にいる中、マスク氏は「ドージパパ」とツイート。米人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の司会を務めると発表した。
2021年なのだから、マスク氏がこの番組の司会を務めるのも当然だ。ツイートは興味をそそるものだった。彼は国民的人気番組の視聴者の前でドージコインを宣伝するのだろうか?ドージコミュニティは熱狂した。
5月8日:嫌い。多くの人は『サタデー・ナイト・ライブ』出演を失敗だったと考えた。マスク氏はドージは単なる「いかさま」と呼ぶキャラクターを演じたのだ。
5月12日:嫌い。暗号資産界をがっかりさせるツイートの中でマスク氏は、テスラのビットコイン支払い受け入れ中止を発表。環境への影響に関する懸念が理由であった。
「暗号資産は多くのレベルで良いアイディアであり、期待できる未来があると信じている」と、マスク氏は泣きじゃくる恋人に語りかけ、「しかし、それは環境を犠牲にしてもたらされる訳にはいかない」と続けた。ビットコイン価格は下落。それから1週間で56000ドルから30000ドルまで急騰した。
5月13日:ドージが好き?マスク氏は「システム取引の効率性を高めるためにドージ開発者たちと協力している。期待できるかもしれない」と発表。ということは、ビットコインは妻で、ドージは新しい愛人?
5月24日:好き…かもしれない?マスク氏は、ビットコインをよりエコフレンドリーにするための方法を協議するために、ビットコインマイナーの一団と会談。「期待できるかもしれない」とマスク氏はツイートし、ドージコイン支持の時のツイートと華麗に重ねてみせた。
この時の価格高騰はより控えめなものだった。暗号資産界はマスク氏のツイートといった出来事に対して、イーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリン氏が「免疫システム」と呼ぶようなものを構築しているのかもしれない。ブテリン氏はCNNに対して、「マスク氏がこのような影響力を永遠に持つことはない」と語った。
6月3日:嫌い。またもや胸の痛むツイート。マスク氏は当記事を書くきっかけとなった、ビットコインのロゴとヒビの入ったハートマークの破談ミームをツイートしたのだ。
6月13日:彼は私のことを忘れてはいない!マスク氏は、彼が価格操作とビットコイン売り叩きをしていると非難するツイートに対して、「これは不正確だ」と反応。
「テスラはBTCが市場を動かさずに簡単に清算できることを確かめるために、保有分の10%未満を売却しただけだ」とツイートした。さらに、「マイナーがクリーンエネルギーを適正(〜50%)に使用し、将来的にプラスの傾向が確認できれば、テスラはビットコイン決済を再開する」と続けた。ビットコイン価格は即座に回復し、その後6時間で10%上昇した。
7月21日:好き!本当に好き!カンファレンス『The B World』においてマスク氏は、どちらもビットコイン強気派の、当時のツイッターCEOジャック・ドーシー氏と、アーク・インベストメント・マネジメント(ARK Investment Management )を率いるキャシー・ウッズ氏とともに、暗号資産についての議論を展開。
暗号資産界は固唾を呑んで見守った。マスク氏はビットコインをけなすだろうか?正式な支持を表明するだろうか?マスク氏は、ビットコイン、イーサ(ETH)、そしてもちろんドージコインを保有していることを認めた。
「ビットコイン価格が下がれば、私はお金を失う。価格を吊り上げることはあるかもしれないが、売り叩きはしない」と、マスク氏は語った。「価格を高めて、売却しようといったことは、決して考えていない。ビットコインが成功するのを見たい」と。ビットコイン価格は瞬時に急騰し、6万9000ドルという史上最高値まで達する新たな強気相場が始まった。
10月20日:好き。マスク氏は暗号資産の史上最高値をベッドから見つめるカップルのミームをツイート。ビットコインは6万9000ドルで、イーサは4200ドルだ。
12月2日:ドージが好き。今回は、CoinDeskが直接関与している。CoinDeskのオムカー・ゴッドボール(Omkar Godbole)は、「イーサリアムの取引手数料の高さが、小規模投資家にとってDeFiを手の届かないものにした」と指摘。マスク氏は解決策を持っており、それが何なのか、推測できるだろう。「ドーーージ」と、マスク氏はCoinDeskに返信した。
これは、部分的なリストに過ぎない。完全に記録するとなると、3万文字の記事になってしまうだろう。
ということで、マスク氏は暗号資産が好きなのか、嫌いなのか?この関係は情熱的でワイルド、心理的に消耗するものだ。しかし、最も情熱的なロマンスというのは、熱したり冷めたりする傾向にある。
次のメッセージで締め括ることにしよう。ビットコインとの破局を発表した後にマスク氏は、悲しみ動揺するビットコイナーに返信。そのメッセージはシンプルで、彼の本当の胸の内を示すものだったのかもしれない。「仲直りするのは、最高だ」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Most Influential 2021: Elon Musk