デジタルアーティストのロイス・ヴァン・バーレ(Lois van Baarle)氏は、自分の作品がすべて無許可で132点もNFTマーケットプレイス「オープンシー(OpenSea)」に出品されていたとツイッターに投稿した。
「ノンファンジブル・トークン(NFT)は本物であることを保証するものだが、こうしたプラットフォームは、画像がオリジナルの作者によってアップロードされたかどうかの確認については、最低限のことしか行っていない」と同氏は投稿した。
today I found out that searching my own name on @opensea brings up 132 instances where my art was minted as NFTs without my permission. apparently the only way to get them removed is by writing individual emails for each listing, which I literally don’t have the time for.
— Loish (@loishh) December 13, 2021
ヴァン・バーレ氏はオンライン上では「ロイッシュ(Loish)」と名乗っている。オープンシーで「Loish」と検索すると、多数のNFTが見つかるが、その多くは同氏のツイートをきっかけに削除された。
横行する詐欺NFT
作品が勝手にNFTマーケットプレイスでNFT化され、販売されたアーティストは他にもいる。オバマ前大統領の選挙ポスターのアーティストとして人気を集めたシェパード・フェアリー(Shepard Fairey)氏も、作品がNFTマーケットプレイス「Rarible」でNFT化されたと述べている。
出品されるNFTのチェックは、ヴァン・バーレ氏が指摘するように確かに問題だ。信じられないほど憎悪と偏見に満ちたNFTをオープンシーで、2秒もかからず見つけることができる。だがより大きな問題は、NFTのエコシステム全体を支える市場力学に関係している。
NFTは画像や動画などのファイルに紐づくトークンに過ぎない。NFTは誰でも作成でき、販売できる。トークンに紐付けられた動画や画像、音楽の真正性(正当な権限で作成されたものかどうか)を判断するメカニズムはない。
作品の真正性は保証できない
NFTの場合、真正性の保証は完全に外部に依存する。Raribleは、本物と判断したクリエイターのページに「検証済み」マークを付けることができるが、プラットフォーム上のアーティストの大半は未検証のままだ。さらに、検証済みのアーティストの作品をダウンロードして、別のNFTとして同じプラットフォームに再アップロードすることを実際は誰も止められない。
「所有権」とはNFTでは、ブロックチェーンにアドレスを記録することだ。Etherscanのような情報サイトを使えば、誰がトークンを発行し、その後、誰が購入したかを皆が確認できる。だが、作成者のアドレスを確認できても、アドレスが実際に作成者のものかどうかは、常に何らかの形で確認が必要となる。
理論的には、以下のような真正性がNFTの価値を生み出す。4月、2010年代はじめに話題となった画像「ニャンキャット(Nyan Cat)」のNFTが約60万ドルで取引された。売り出しに際して、マーケットプレイスのFoundationは、作者の関与を前面に押し出してPRを行った。仮に誰かが同じ画像で別のNFTを発行しても、作者が関わっていないことは明らかになる。こうしたことが現状、大きな価値を生んでいる。
この取引は、NFTがアーティストの自律性を高める一例となるような枠組みで行われた。つまり、オンライン画像の無限の複製可能性によって失われた価値を取り戻すチャンスだ。
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プラットフォームの責任
だが往々にして、NFTは知的財産を盗む手段となっている。今朝、オープンシーに私の名前を入力したら、同僚のサム・エウェン(Sam Ewen)の記事がNFTになっており、メタデータに私の名前もあった。
もちろん、私たちはどちらも許可していない。
こうした問題はオープンシーに限らない。分散化は「検閲への抵抗」の同義語になっており、モデレーターがいなければ、スパム、偏見、盗用は避けられない。
いずれ、ブロックチェーンのフィルタリングサービスが登場し、電子メールのスパムフィルターのように、自分の画像がNFTとして発行された際に、アーティストに通知を送るようになるかもしれない。だがすべてのアーティストが、作品を盗用されるたびに個別に申立することは期待できない。盗用のレベルはすでにその域を越えている。
アーティストは、NFTに内在するリスクを強く意識する必要がある。仮にあなたがNFTに一度も触れていないとしても、作品が悪意ある詐欺師に盗まれる可能性がある。ある意味、NFTに接していないアーティストから作品を盗むことは簡単だ。今、多くのNFTアーティストが行っているようにブロックチェーンを監視していなければ、盗難に気づくことはない。
NFTを推進している会社は、こうしたことを防ぐ責任を負っている。各パーケットプレイスがNFTブームを支えている技術者や投資家ではなく、クリエーターと利益を共有したいと本気で考えているなら、クリエーターの利益も守る必要がある。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:NFT Forgeries Aren’t Going Away