ウェブ3.0革命の最も重要な目標かつメリットの1つは、世界の情報テクノロジーエコシステムの再分散化だ。インターネットは当初、非常に分散化されたシステムであった。中央集権化システムが時とともに、この分散化されたエコシステムの上に自らを重ねるることに大いに成功したのだ。
ソフトウェアビジネスの経済力とネットワーク効果の力が、ウェブ2.0時代の中央集権化の基盤であり、それらはユーザーに対するダークパターン(人々に個人情報を明け渡させるウェブ2.0の手口)の利用によっても助けられてきた。気をつけなければ、ウェブ3.0の時代にも同じパターンを繰り返してしまう恐れがある。
API統合に潜むリスク
持続的に分散型な未来に対しては、2つの大きなリスクがあると私は考えている。1つ目は、2つの中でもはるかに大きなリスクで、それは優れたブロックチェーンとのやり取りツール開発にまつわる果てしない複雑性だ。
分散型システムとのやり取りは複雑なもので、そこに複数な署名の管理や、プライバシー維持のためのゼロ知識証明の使用といった追加の要件が加わればなおさらだ。
ゼロ知識証明:暗号学において、個人が他の人に、自分の持っている命題が真であることを伝える時、真であること以外の知識を伝えることなく証明できる手法のこと。例えば、特定のウェブサービスにログインする際、ユーザーはパスワードを入力する代わりに、パスワードを知っている事実の証明を送る。また、本人確認を行う際、ユーザーは第三者に母親の旧姓などを伝達する代わりに、自分が本人である事実の証拠を送る。
そのような複雑性を管理するための最も簡単な方法は現在、APIを通じて行うことだ。トークンを作りたい?そのためのAPIが存在する。取引履歴を手に入れたい?そのためのAPIも用意されている。
そのようなAPIがブロックチェーンへの書き込み・書き出しを行い、関連する複雑性すべてに対応してくれる。APIはブロックチェーンツールの開発を簡潔化するが、そのほとんどすべてが、中央集権型のソフトウェアとインフラに依存している。
つまり、APIの広範な利用は、極めて重要なブロックチェーン機能の多くの中央集権化につながるのだ。
EYのブロックチェーンインフラも例外ではない。他社のAPIベースのサービスを大いに利用するだけでなく、複雑性を管理しきれないと感じる企業ユーザーに対して、APIとしてのサービスも提供している。
とりわけ、ウェブ3.0の世界をウェブ2.0の世界とインターフェイスでつなげることに関して、APIが将来的に役割を果たすのは間違いないと感じる。しかし、多くのアプリケーションがブロックチェーンエコシステム内でネイティブに実行、やり取りされる未来を私は望んでいる。
EYにおいても、ブロックチェーンビジネスにより分散化されたインフラを投入し続けることが優先事項となっており、他社もそのようにすることを私は願っている。
APIやSaaSアプリケーションへの依存を通じた過度の中央集権化を防ぐために最も重要なのは、直接ウェブ3.0にアクセスし、APIに依存せずにコードを最新のものにすることを簡単にするライブラリや、ツールを開発者たちが開発することだ。
これは簡単に聞こえるかもしれないが、実際には非常に難しい。私はこれまでのキャリアを通じて、ソフトウェアの流通を管理するのがどれほど難しく、SaaSのAPIを通じた管理や一貫性の維持がどれほど簡単かを理解してきた。
イーサリアム財団も出資するプロジェクト「Stereum」などは、良い出発点である。自宅で自分のノードを立ち上げて実行することを、パッケージソフトウェアのインストールと同じくらい簡単にしてくれるからだ。
ウェブ2.0とは異なる未来を見据えて
私の2つ目の懸念は、ウェブ2.0の製品やサービスと同じように実行でき、機能するウェブ3.0の製品やサービスを開発しようとする中で、ウェブ3.0をかなり中央集権化したものにしてしまうのではないかという点だ。
「分散型」演算やファイル保存に対応するプロトコルは、最も利用しやすく、最も機能性の高いシステムで参加者に見返りを与えるよう作られている。それらは通常、大手企業が運営する中央集権型データセンターに存在している。
これは、ウェブ3.0を、ウェブ2.0のアプリケーションと同じくらい高速で、反応の良いものにしたいのならば、非常に大切である。しかしそれは、有益な目標だろうか?
最も成功する新しいテクノロジーとは、古いプラットフォームを新しいものに移行させるのではなく、新しい課題に対処するものだ。トークン化によって価値を移動させたり、スマートコントラクトで複雑な統合を可能にするなど、ウェブ3.0は非常に具体的ないくつかのことに優れている。
もしかしたら、同時的なやり取りやユーザーインターフェイスから得られる即時の満足は、ウェブ2.0の世界に残していけば良いのかもしれない。企業の請求書における「30日以内の支払い」の「30」は、ミリ秒ではなく、日数の話しだ。
大半の企業、ビジネス、金融アプリケーションにとっては、数分から1日のサイクルタイムで十分だ。ゲームやバーチャルリアリティは、ウェブ2.0に任せておけば良いのかもしれない。
真に分散型な未来を望むならば、常時稼働しているデーターセンターのみがもたらせるような、ユーザーインターフェイスから即時に得られる喜びと、極めてシンプルなAPI統合という2つの誘惑に抵抗しなければならない。
その見返りには、より公平で競争力があり、よりレジリエント(弾力性のある)金融、テクノロジーエコシステムが手に入るだろう。
ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Web 3.0 Is Too Complicated