こんなことを聞かされる必要がある人がいるのか分からないが、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を保有しているということは、プロジェクトの著作権や知的財産権を所有していることと同じではない。これが、最初に伝えておきたいポイントだ。
NFTとは、ブロックチェーン上に存在するデジタル資産の一種だ。金銭的な価値があり、デジタルメディアの来歴を証明し、追跡するのにも便利だ。デジタルメディアとは、JPEG画像でも、音楽ファイルでも、ハードドライブに保存できるものなら何でも大丈夫だ。しかしNFT自体は、その基盤となるメディアではない。これがが2つ目のポイントだ。
NFTとして競売に出されたり、取引されているものに、5ドルであれ、4000万ドルであれ、お金を支払うことは、NFTに関連づけられているメディアの法的な所有権を与えてくれるものではない。
NFTを購入した時に所有することになるものは、ノン・ファンジブル(交換不可能)なトークンへの鍵だ。NFTを取引しようが、保有しようが、ディセントラランド(Decentoraland)で飾ろうが、あなたの自由だ。しかし、NFTに関連づけられているデジタルファイルは、他のどんなファイルとも同じように、簡単にコピー&ペースト、ダウンロードできてしまうものだ。これが、3つ目のポイント。
皆の役に立つ公共広告と思って聞いて欲しい。NFTとデジタル作品との関係は微妙なものだ。
暗号資産(仮想通貨)が実世界に交わる場合には、しばしば混乱が生じる。NFTは既存の著作権法の中にうまく収まるものだが、この新しいテクノロジーの産物が、既存の知的財産権保護の基準をより良いものにする可能性があるのだ。
オープンシー(OpenSea)といったプラットフォームやNFT関連のツイッターを見ても、このようなことは自明ではない。だからこそ、はっきりと伝えておきたかったのだ。
NFTはしばしば、無限に複製可能なデジタルアイテムに「希少性」や「永続性」を与えるための方法として宣伝されている。ある意味では、この見方は正しい。NFTは確かに、デジタルアイテムに希少性をもたらすが、その希少性はブロックチェーンベースのトークンに限定されたものだ。
さらに、「Bored Ape」のNFTを買えば、そのApeは自分のものになると考えるのも当然に思える。前述の通り、基盤となっているアイテムの知的財産権はBored Ape Yacht Clubのクリエーターたちにある。
しかし、買い手は自分が所有するNFTのキャラクターに対して心理的に密接なつながりを感じるかもしれない。このことが、人々がBored Apeキャラクターをツイッターなどでプロフィール画像として使っている理由かもしれない。
SpiceDAOの計画に暗雲
12月、自律分散型組織のSpiceDAOが、クリスティーズのオークションにおいて、フランク・ハーバートによるSF小説『デューン』をもとにしたが、未完となった映画化作品のための、アレハンドロ・ホドロフスキー監督による未発表の絵コンテを300万ドルで落札した。
そのオークションからひと月経った先週末、SpiceDAOは落札した絵コンテに関する計画をツイート。「絵コンテを(法律で許可される範囲で)公開」し、「それをもとにしたオリジナルの限定アニメシリーズを製作し、ストリーミングサービスに売却」して、「コミュニティによる派生プロジェクトのサポート」をするとのことだった。
SpiceDAOが当初1180万ドルをクラウドファンディングした時には分かっていたこの計画のツイートを見て、ウィキペディアへのコントリビューターで、ウェブ3批評家のモリー・ホワイト(Molly White)氏は、ブログ記事を発表。
その記事には、「SpiceDAO wins a $3 million auction to buy an extremely rare storyboard book of Dune, only to learn that owning a book doesn’t confer them copyright(SpiceDAOが超希少なデューンの絵コンテを300万ドルで落札したが、絵コンテを所有しても、財産権は手に入らないことを学ぶことになっただけだった)」とのタイトルがつけられた。そして他のメディアも、このチャンスに飛びついた。
「(SpiceDAOは)実際の絵コンテを買うことが、著作権やライセンス権を与えるものではないことを、まもなく知らされた。(NFTを買うことで、自動的に基盤となっている作品の権利を手にできないのと同じように!)そんなことは、最初に確認したはずだろうと、普通なら考える」とホワイト氏は指摘した。
その後も、人々はツイッターで追い討ちをかけた。希少な本を買うことは、その中身を所有するのとは同じではないと指摘する人もいた。SpiceDAOが、絵コンテのNFTを買ったと勘違いしていた人もいるが、そうだとしても、デューンの知的財産権が手に入る訳ではない。ちなみに私が確認した限りでは、NFTも、それを作る計画も存在しない。
「ホドロフスキーのバイブル」とも呼ばれるこの絵コンテ集は、歴史的な重要性を持った絵コンテと文書がまとめられた本である。可能な限り公開することは、正しいことのように思われる。
中身の大半が既に、オンラインで(例えばGoogle Photos上で)ホストされていることを多くの人が指摘しているが、グーグルはいつでもファイルを削除できるため、SpiceDAOとしては、公有された状態をより永続的なものにしたかったのだ。
SpiceDAOのメンバーたちは、適切な尊敬を持ってこの絵コンテ集を取り扱いと考えていた。クラウドファンディングは、絵コンテ集が一般市民にとってどれほど価値があるかを示す、1つの方法に過ぎなかった。モチベーションの高いファンによる派生作品を作り出すことも、別の方法だ。
SpiceDAOはどうやら、何を購入したのか、自らの計画をめぐる法的考慮を認識しているようだ。SpiceDAOの共同立ち上げ人ソバン・サキーブ(Soban Saqib)氏はバズフィードに対して、所有権を永続的な保管へと移行している最中であり、アーティストやその遺族が権利を主張できる絵コンテ集の中身の複数の著作権を管理する方法を検討中であると語った。
小説『デューン』の著作権が切れるのは、アメリカでは2060年、EUでは2054年だが、SpiceDAOができることは他にもある。ファン・フィクション(ファンによる二次創作)をめぐる法律は少し緩いものであり、「公正な利用」という例外が、ある程度の自由を与えてくれる。
SpiceDAOには、公開市場で取引されるガバナンストークン(SPICE)があるが、このグループがそこから利益を上げることを目指しているのかは不透明だ。証券関連の規制にぶつかるかもしれない。著作権上の申し立てを受けて、DuneDAOからの改名を余儀なくされたのだから、SpiceDAOは制約があることを認識しているのは間違いない。
SpiceDAOの担当者は、コメントの求めに応じていない。
NFTには何を意味するのか?
NFTやDAOの最大級の計画は現状では、法律に取り囲まれており、テクノロジー的には比較的シンプルなものだ。NFTは、来歴を示すためのトークンだ。そのために、デジタルアイテムに価値を割り当てるのがより簡単になる。DAOは人々を組織し、資金をシェアし、計画を実行するための方法だ。多くの期待があるが、制約も多い。法律は必ずしも、制約の1つではない。
NFTやDAOは、人々がウェブやデジタルオーナーシップについて考える方法における大転換の一部だ。人々は自らの労働から収益を上げ、より効率的に協働するべきだという包括的な信条、「公共財」の考え方である。
このような考え方にぴったりと当てはまる法的立場がすでに存在する。オープン著作権だ。NFTクリエーターたちの間では、プロジェクトを(最も緩い著作権である)CCO(クリエイティブ・コモンズ)としてリリースするトレンドが広まっている。
こうすると、デジタルアイテムを誰もでダウンロード、リミックス、改変することが可能で、収益を上げても構わない。トークンには所有者がいるが、作品は全員に属するということだ。
アメリカでは、楽曲、写真、3時間の人気映画など、あらゆるメディアは、作り上げた人の財産となる設定になっている。ツイッターでは、ツイートをすればその知的財産権を所有することになる。ツイート主だけが、そのツイートを所有するのだ。ブログの記事も同じこと。写真のアップロードもだ。デフォルトとして、それを保有することになる。
フランク・ハーバートの遺産管理人は、『デューン』から収益を上げ続けたいと思うかもしれないし、その権利がある。次なる偉大な文学作品が、DAOあるいはNFTでクラウドファンディングされる可能性も大いにある。本当に世界のすべての人に権利があるものとなることを願おう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What You Own When You Own an NFT