ステーブルコイン・白石部会長:過剰な規制が日本の「選択肢を狭める」

日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)内に設置されているステーブルコイン部会は1月、米ドルなどの法定通貨に連動するステーブルコインに関する提言を公表した。日本における規制の厳しさを指摘するとともに、イノベーションの阻害について懸念を表明している。

ステーブルコイン部会で部会長を務め、ARIGATOBANK代表取締役CEOでもある白石陽介氏は、過剰な規制が「国民の選択肢を狭める」と指摘する。アンダーソン・毛利・友常 法律事務所の河合健パートナーとともに話を聞いた。


──1月11日、金融庁の金融審議会が「資金決済ワーキング・グループ」報告を公開した。これを受けてステーブルコイン部会は、日本が「海外市場から分断されてしまい、ガラパゴス化が進展してしまう」といった強い懸念を表明されているが。

白石部会長:利用者と事業者のどちらも不利益を受ける可能性がある。メタバースやNFTをはじめとしたブロックチェーン上でWeb3の世界観で動いているサービスで影響が大きい。

NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン):ブロックチェーン上で発行される代替不可能なデジタルトークンで、アートやイラスト、写真、アニメ、ゲーム、動画などのコンテンツの固有性を証明することができる。

Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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海外ではパーミッションレス型のステーブルコインを使って、プラットフォーム上で決済したり、コンテンツを購入できたりする。グローバルで、統一的な仕様で利用できることが特長だ。

現状、日本においてパーミッションレス型のステーブルコインを流通させることは難しい。つまり、日本のユーザーはグローバルで提供されているサービスを使えない。ひいては、ユーザーがコスト負担を迫られる。

事業者サイドでも、日本から世界に進出するメタバースやNFTプラットフォームを生み出すハードルが高くなる。実際に、日本の事業者が決済で悩んでいることを目の当たりにしている。

──諸外国ではステーブルコインが広く流通している(1月26日時点で時価総額トップのテザー/Tetherが8.5兆円規模)。現状、ステーブルコインが日本国内で取り扱えないことによって生じている不利益はあるか。

白石部会長:規制によって、国民の選択肢を狭めている。一例を挙げると、DiFi運用・投資ができない。日本の銀行に100万円預けても、利息は年間500円程度にしかならない。一方で、ステーブルコインにして預け入れると4%の利息が得られるケースもある。

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ステーブルコインは、ほぼ法定通貨にペッグしている。投資家が比較的低リスクでリターンを享受できる。現状の日本の制度では、リスクが高い暗号資産の銘柄しか選択肢がないことになる。

──ステーブルコインの議論では、「口座振替やクレジットカードがあるから必要ない」といった誤解もあるようだが。

河合氏: P2P取引において、ステーブルコインは有効である。間に業者(エスクロー)を挟むことなく、取引を実施できる。ほとんどの個人はクレジットカードの加盟店ではない。

──今後、当局にどういった姿勢で取り組んでほしいか。

白石部会長:報告書が作成されたことは、ステーブルコインについてルールを整備するためのスタートラインに立てたという意味で前進があった。一方で、リスクがあって扱いづらい性質を持った商品であるような捉え方をされている印象がある。

アメリカは、次世代産業としてメタバースとWeb3にコミットメントを出している。産業が発展していくためには、決済領域の相互運用性が不可欠である。

日本はVRのアバターで強みを持つなど、世界で価値を発揮できる可能性がある。”気づいたときには日本だけ環境が違う”というような状況にならないよう、健全な議論を進めたい。

河合氏:なぜ、海外でここまで使われているかについて、しっかりと考えてもらいたい。使われていることには理由がある。それを分析できていれば、ユースケースから理解が得られる。

NFTの取り組みを進める経済産業省や事業者などにも、発言機会を与えてほしい。保守的になりすぎることなく、プラスの面に着目しながら、制度設計に取り組んでもらいたい。


1月26日には、JCBAがステーブルコインをテーマに定例勉強会を実施。『金融審議会 資金決済WG報告 ステーブルコインに関するパネルディスカッション』と題し、日本と諸外国のギャップや消費者保護について討議した。

JCBA ステーブルコインに関するパネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは白石氏と河合氏に加え、クラーケン・ジャパン千野 剛司代表や片岡総合法律事務所の佐野 史明パートナーが意見を交わした。

大きな盛り上がりを見せるNFTやメタバースにおいて、ステーブルコインが扱えないデメリットを指摘。佐野氏は「利用者保護に偏りすぎると、利便性を損なうことになり本末転倒となってしまう場合もある」と述べた。

JCBAでは、ステーブルコインの有用性を訴えていくとともに、リスクベースアプローチを前提とした考え方を周知していく方針。また、ビジネスの実態に即したルール整備を求めていくつもりだという。

|取材・テキスト:菊池友信
|編集:佐藤茂
|写真:ARIGATOBANK・CEOの白石陽介氏/撮影:多田圭佑(2019年)