アメリカの人気トーク番組『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』のクリップが先週、ソーシャルメディアで拡散された。
社交界の有名人から暗号資産(仮想通貨)プロモーターへと変身したゲストのパリス・ヒルトンが、買ったばかりの帽子とサングラスを身につけたBored ApeのNFTを披露する場面だ。
「本当にクールなの」と、カンペでも読んでいるかのようにゆっくりと話すパリス・ヒルトン。「帽子も、色合いも」と、彼女は続ける。
情熱に欠け、あからさまに宣伝のように見えるこの動画は、メディアのコメンテーターの怒りを買った。デジタルメディアのViceは「率直に言って、幻覚でも見えてきそうだ」と評し、ニューヨーク・マガジンは、悪名高きマルチ商法企業になぞらえて、「暗号資産界のハーバライフ的宣伝」と呼んだ。
左派雑誌「Jacobin」では、『NFTははっきり言ってデタラメだ(NFTS Are, Quite Simply, Bulls**t)』と題された記事が発表された。
ムーンペイのマーケティング戦略
確かにこの動画は見るに堪えないが、その元凶はジミー・ファロンでもヒルトンでもなく、このような著名人による宣伝に依存するマーケティング戦略を展開する、暗号資産カストディアンで支払い処理業者のムーンペイ(MoonPay)だ。
同社は、ポスト・マローンとザ・ウィークエンドのミュージックビデオに宣伝を組み込んだり、スヌープ・ドッグやグウィネス・パルトロウなどの著名人のNFT購入に「コンシェルジュ」として携わっている。
同社のメッセージはシンプルだ。イーサリアムやセルフホスト型ウォレット、シードフレーズ、NFTマーケットプレイスなどの取り扱いは厄介だから、ムーンペイがテック関係の厄介ごとをすべて面倒みます、というものなのだ。
同社は、暗号資産に詳しくない著名人が高額のNFTを取得することを支援しており、同社ウェブサイトには、有料サービスのターゲットは「富裕層の個人」と記されている。
著名人が暗号資産の世界に足を踏み入れるサポートをすること(そして彼らにトーク番組やソーシャルメディアで自社のサービスについて宣伝してもらうこと)自体、本質的に悪いことではないが、ムーンペイはその金銭的関係について、あまり多くを語りたがらない。
広告に対して報酬を支払っているのか、サービスの見返りに自社アプリについて投稿してもらうよう依頼しているのか明らかにしておらず、宣伝が見返りとして行われているのかどうか、謎のままなのだ。
胡散臭いフィンテック企業が、著名人を使って暗号資産の宣伝をしてもらうのは、長く続く伝統だ。トレンドに乗っていれば、何を買っても売っても、利益を出せる可能性が高いという格言の通り、著名人が一般市民を呼び込むことができれば、業界は拡大し、企業はますます利益を出せる、という考えなのだ。
NFTゴールドラッシュという幻想を生み出せば、「FOMO(機会を逃すことへの恐怖:fear of missing out)」を間違いなく引き起こせる。
しかし、ムーンペイが宣伝や広告に対価を支払っているかどうか分からないため、著名人のNFTへの情熱が本物かどうかもはっきりしない。
ムーンペイのCEO、イヴァン・ソト-ライト(Ivan Soto-Wright)氏は、デジタル資産関連の情報提供を手がけるザ・ブロック(The Block)とのインタビューで、誰が誰に話を持ちかけるのかについての質問をかわした。
そして同社の働きかけのプロセスを、「デジタルの権利や知的財産権を管理したり、ファンとの関係を取り扱う方法を変容させるというNFTの可能性にワクワクしている」著名人たちとのやり取りの中から自然と生まれてくる、「100%有機的」なものと形容した。
同様の戦略を採用している暗号資産投資家は、他にもいる。
ジャスティン・ビーバーとNFT
先週末、あるBored ApeのNFTが500ETH(現在約116ETHの底値をはるかに超えており、130万ドルに相当)で売却された時、ジャスティン・ビーバーが買ったのではとの憶測が流れた。彼は公式インスタグラムページにそのNFTの写真を投稿してさらに憶測を掻き立てたが、購入については何も語らなかった。
このNFT(オープンシーでは「JustinBieberNFTs」と呼ばれる未確認のアカウントと結びつけられている)と関連するイーサリアムウォレットを確認すると、2日前に、別のウォレットから900ETH以上が送られたことが確認できる。
そのもう1つのアドレスは、ジャスティン・ビーバーがツイッターやインスタグラムですでに何週間も宣伝しているNFTプロジェクト「InBetweeners」の作成者ジャンピエロ・デアレッサンドロ(Gianpiero D’Alessandro)氏と関連するもののようだ。そのアドレスは、オープンシーでのデアレッサンドロ氏の確認済みアカウントと結びつけられているのだ。
So who owns that address that sent “JustinBieberNFTs” 916 ETH 4 hours before it spent 500 ETH on an Ape? Looking up the address on OpenSea, it belongs to none other than Gianpiero D’Alessandro, creator of the Inbetweeners NFT project. pic.twitter.com/tKkZxcBQfH
— $𝐍𝐎𝐂𝐎𝐈𝐍 𝐞𝐧𝐭𝐡𝐮𝐬𝐢𝐚𝐬𝐭 (@interlunations) 2022年1月31日
「$NOCOIN enthusiast:
BAYC(Bored Ape Yacht Club)の移動を探ってみよう。500ETHがオープンシーに支払われたことが確認できる。その約4時間前、「JustinBieberNFTs」というアドレスが、別のアドレスから916ETH(220万ドル相当!)を受け取っている。その取引はこちら etherscan.io/tx/0x19af3ec62…では、Apeに500ETHを支払う4時間前に「JustinBieberNFTs」に916ETHを送ったアドレスは、誰のものなのか?オープンシーで検索すると、NTFプロジェクト「InBetweeners」の作成者ジャンピエロ・デアレッサンドロ氏のものであることが分かった」
Bore ApeのNFTが売却された後、InBetweenersのツイッターアカウントは、(おそらく)ジャスティン・ビーバーが保有しているそのNFTが、InBetweenersのNFTの価格を高めているのを喜ぶツイートを投稿し始めた。
著名人は本当にNFTに投資したいのかもしれないし、ムーブメントに参加しているつもりなのかもしれないが、何か意図を持ったマーケティング担当者のターゲットにもなっている。
それでも著名人たちは、お金のために、大げさな宣伝文句を喜んで語ってみせるのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:パリス・ヒルトン(DFree / Shutterstock.com)
|原文:NFTs, Celebrities and Perverse Deal-Making