ビットコイン(BTC)の高い時価総額は、「夢と同じもの」でできている。
JPモルガン・アセット・アンド・ウェルス・マネジメント(J.P. Morgan Asset & Wealth Management)で、市場・投資戦略の責任者を務めるマイケル・センバレスト(Michael Cembalest)氏は、レポートでそのように言い放った。
「どんな結果がもたらされるかを無視して、ビットコインを買いたい気持ちもどこかにあるが、私がビットコインを買うことはない。暗号資産(仮想通貨)保有者の一部は最初から、そのような買いを当てにしているからだ」と、センバレスト氏は説明した。
映画『マルタの鷹(The Maltese Falcon)』にちなんで、『The Maltese Falcoin: On cryptocurrencies and blockchains(マルタの鷹コイン:暗号資産とブロックチェーン)』と名づけられた今回のレポート。映画は、最終的には偽物だと判明することになる貪欲さの象徴のような、非常に高価な芸術品をめぐる物語だ。
30ページにも及ぶ考察の中で、センバレスト氏は、価値の保管手段、国境を超えた送金、分散型金融(DeFi)、ノン・ファンジブル・トークン(NFT)など、誇張されていて、本当は根拠が薄弱と同氏が考える暗号資産のユースケースや、金融サービスにおけるブロックチェーンの普及について、手厳しい指摘を展開している。
価値の保管手段
センバレスト氏がまず触れるのは、価値の保管手段としてのビットコイン。2008年の金融危機後のペースを凌ぐような速さで、先進国が負債にまみれ、法定通貨を溢れさせている状況では、人々が供給量に上限のある暗号資産に、価値の保管手段として興味を示す理由は理解できると、同氏は述べる。
「中央銀行や財務省は、非常に大きな信頼の空白を生み出した。法定通貨に代わる何かが登場しなければ、逆におかしいだろう」
ビットコインを、金(ゴールド)を補完するものと考えれば、より多くの人が、デジタル版ゴールドとしてビットコインを捉えているという意味で、価値の保管手段という主張は成り立つが、ボラティリティや、他の体系的なリスクやインフレとの相関関係という意味では脆弱だ。
「ビットコインのボラティリティは、途方もなく高いままであり、株式市場のボラティリティが高まると、同時に高まることが多くある」と、センバレスト氏は指摘する。
そのようなボラティリティは、ビットコインが一部の人のもとに集中していることの副産物かもしれないと、センバレスト氏は指摘し、ビットコイン保有者の2%が、72%を保有していると説明する。
「反エリート主義リバタリアンの皆さんのために言っておくと、この数字はアメリカにおける富の集中よりもひどいものだ。アメリカの富の70%を保有するのは、わずか2%ではなく、10%の世帯である」と、センバレスト氏は語る。
国境を超えた送金
レポートの推計では、過去10年で年間5000億ドル〜6000億ドルの規模を持つ送金市場において、暗号資産はわずか1%ほどしか利用されていない。
暗号資産を現金に換金するために、受け取り手は受け取り国において銀行口座を持つ必要があるために、コストの安さという魅力が薄れているのだ。
「銀行口座を持つ人にとって、暗号資産から法定通貨へのオフランプコストは、ドル連動型ステーブルコインから現地通貨への換金コスト、そして法定通貨を引き出すためのコストと同等だ」と、センバレスト氏は指摘する。
DeFi
様々なフィンテックプラットフォームの台頭のおかげで、銀行や金融機関という仲介業者の排除は進んでいると、センバレスト氏は認めるが、DeFiにおいてそれがどのように行われているかについては、厳しい評価を下している。
「私たちの知る限り、大半のDeFi貸付は、過剰に担保された暗号資産ローンを、暗号資産保有者に対して貸し出す、というだけのものだ。これは借り手が(a)さらに多くの暗号資産を購入する、あるいは(b)キャピタルゲイン税を課されずに、価値の高まった手持ちの暗号資産に対して流動性を獲得することが目的だ。どちらにしても、暗号資産価格が継続的かつ大幅に値下がりした場合に存続できるような貸付行為とは思われない」と、センバレスト氏は指摘する。
フィンテックによって可能になったピアツーピア貸付のデータを引き合いに出しつつ、センバレスト氏は、伝統的な銀行ローンよりもローンの不履行率が高い事実を指摘。これはおおむね、引受基準が脆弱であることが原因である。さらに、プラットフォームのレンディング・クラブ(Lending Club)の株価が、最近の高値から65%も下落した事実も紹介している。
ブロックチェーン上でのピアツーピアの担保無し貸付の未来に関しては、伝統的な担保有りの貸付プールの「参加者を震え上がらせる」可能性のある特徴を指摘しながら、センバレスト氏は「(皮肉を込めて)健闘を祈る」と語った。
「暗号資産の担保は、担保を差し入れた行為のみに割り当てられていない場合がある。つまり、暗号資産の担保は、複数の行為を裏付けるために『再担保』されていることもあるのだ」と、センバレスト氏。「その言葉の意味が思い出せなければ、『再担保』と『金融危機』を並べてグーグル検索してみて欲しい」と続けた。
NFT
今でも多くの人が近付き難い、あるいは混乱させるものと考えている、20世紀のモダンアートの急速な台頭を引き合いに出しつつ、センバレスト氏は「不思議なことに」NFT現象を一笑に付すことはしない。
「『Bored Ape Yacht Club』のNFTの芸術的な価値を理解できないからと言って、他の人も価値を見出さないということにはならない」と、センバレスト氏は説明する。
しかし、ビットコインと同様に、所有が集中していることが、NFTの弱点の1つであると、センバレスト氏は指摘する。大半のアートをわずか4人のコレクターが保有していたという、NFTアートプラットフォーム「スーパーレア(SuperRare)」の検証結果を引き合いに出した。
「これは、アート市場の基準から見ても、非常に狭い世界だ。さらに、一次市場よりも二次市場の方が、さらに集中の度合いが高かったことも分かっている」と、センバレスト氏は述べる。一方で、アートは広範なNFT分野のわずか一部にしか過ぎないことも認めている。
反論
センバレスト氏の主張でしばしば浮かび上がってくるテーマは、現代における文化的好みの変化の加速だ。それでも、センバレスト氏が暗号資産支持者やベンチャーキャピタリストにこのレポートを見せたところ、最もよくある反応は、「近視眼的だ」というものだった。
例えばある識者は、センバレスト氏のレポートは、1995年にインターネットの価値を判断しているようなものだと述べた。検索エンジンが、1兆ドル規模の価値を持つものになるなんて、誰が想像できただろうか、ということだ。
ある人物は、1800年代の電流戦争を覚えておくのが賢明だ、と語った。
「あらゆるイノベーションサイクルの最初の段階は、インフラの開発だ」とその人物は語り、こう続けた。
「価値の高いの使い道は、その後にやって来る。これは、将来的なユースケースが大いに過小評価されていた電流戦争で起こったことだ。ジューニアス・スペンサー・モルガン(JPモルガンの父)でさえも、電気なんて一時的な流行品であり、灯油ランプで十分と考えていた」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:JPMorgan Asset Management Chief Slams Bitcoin in ‘Maltese Falcoin’ Report