米ソフトウェア企業マイクロストラテジー(MicroStrategy)が、2500万ドル相当のビットコイン(BTC)を1月に購入したと発表した。CEOのマイケル・セイラー(Michael Saylor)氏は、暗号資産(仮想通貨)をテーマにしたポッドキャスト『UpOnly』に出演し、2020年から2021年にかけて12万5051BTCを集めた同社の戦略について語った。
セイラー氏が1980年代後半に創業したマイクロストラテジーは、ビジネス情報・ソフトウェアを手がける上場企業。今では、バランスシートで47億ドル相当のビットコインを保有する企業としての顔の方が、有名だ。
それだけのビットコインを買い集める前に、同社はすでに業界では最大規模の独立上場企業であった。2020年の収益は約4億8000万ドル。初めてBTCを購入するまでの12カ月間のEBITDAマージン(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は、うらやましいほどの8.29%であった。
セイラー氏は同社の状況について、「利益を上げていた。それが私たちの在り方で、最高の気分だったし、それを続けていくつもりだった。しかし、その規模を拡大することはできなかった」と語った。
ドルから離れ、ビットコインへ
そしてセイラー氏は、同社は儲けを出していながらも、その利益を過剰なほどの採用や、市場での支出増大へと再投資することは、現実的ではなかったと主張する。そうなると同社は、バランスシートでキャッシュを集め続ける、ただの金のなる木になってしまう。
贅沢な悩みのように聞こえるが、そのように集められたドルが、インフレによって価値を失い始めれば、深刻な問題となる。
2020年、パンデミックに起因する不況への対応策として、米連邦準備制度理事会(FRB)が実施した量的緩和政策によって、投資家たちはテスラなどのグロース株や、アップルやアマゾンなどのテック大手を好むようになり、株式市場は新たなる高値へと登っていった。
高騰する株価によって、これら企業はより大規模な買収を行うことが可能となり、歴史的にコストの安くなった資本とその高い時価総額を使って、事業を拡大。さらに株価が高まり、また同じことの繰り返しというサイクルを生んだ。
そんな中、値上がりしていないのがマイクロストラテジー株だった。実は、パンデミック前から数年間停滞していたのだ。2017年初めから2020年の3月まで、S&P 500は31%近く値上がりしたのに対し、マイクロストラテジー株は31%の値下がり。
FRBによる量的緩和政策も、マイクロストラテジーにとって変化をもたらすことはなかった。S&P 500や多くのグロース株が、2020年3月の市場暴落からわずか3カ月で高値に近づいていったのに対し、マイクロストラテジー株は下落を続けた。
航海に関する例え話が好きなセイラー氏は、自社の状況を、漕げないほどに厳しく吹き付ける風の中で、ボートを漕ぐことに例えた。さらに、インフレが加速し始め、株式や、その他あらゆる資産に対する同社の現金の購買力は下がっていた。そのため、ビットコイン購入はまるで、ボートを逆向きにし、風と同じ方向に進んでいくようなものだったのだ。
2020年8月11日、マイクロストラテジーは、2億5000万ドルで2万1454BTCの購入を発表。セイラー氏はこの投資を守りの動きと考えていたが、2020年8月11日から2021年の第1週までに、同社の株価は146.63ドルから531.64ドルへと、263%値上がりした。
ビットコインを買う企業に投資したくない投資家に対しては、セリ下げ形式のような形で、2億5000万ドルの現金によるテンダーオファーを通じた清算の機会が与えられ、約6000万ドルが償還された。
初めてのビットコイン購入以降も、マイクロストラテジーは勢いを弱めていない。これまでに、ビットコインの供給量全体のうち0.66%を、平均価格約30000ドルで購入。これには5万7000ドルでの購入も含まれるが、これは今考えると、今回のサイクルでの最高値近くである。
インフレに打ち勝つか?
マイクロストラテジーが、局地的な最高値で買うという評判を集めるようになっていることを、セイラー氏は認めた。同社のビットコインにまつわる考えが正しいとすれば、高値で買うことは、短期的には会社の利益に打撃を与えるとしても、長期的には非常に多くの利益をもたらすと判明する可能性のある戦略の一部となる。
一般的に受け入れられている会計の原則に基づけば、保有しているデジタル資産の市場価格が、購入した時の価格よりも下がれば、企業は減損損失を計上する必要がある。一方で、その資産を売却するまでは、利益を実現することはできない。つまり、数字上は分かりづらいが、マイクロストラテジーは昨年の第4四半期で、1億4700万ドルの減損損失を被ったのだ。
さらに重要なことは、すべて望み通りに展開すれば、マイクロストラテジーはその購買力を維持し、インフレに対してヘッジを行い、より広範な株式市場よりも良いパフォーマンスを残すことになるかもしれない、という点だ。
セイラー氏とマイクロストラテジーの最高財務責任者は1月下旬、同社はビットコインを買い続け、株主により価値をもたらすような生産的な方法で使っていくと語った。
ビットコインのボラティリティや、気まぐれで50%も値下がりしてしまう傾向を批判する声は多いが、セイラー氏は気にしていないようだ。そのような批判に対する同氏の言い分は、価値の下がるドルと高騰する株式市場からダメージを受けて、ゆっくりと死んでいくこともできるし、戦うこともできる、というものだ。
ビットコイン価格がインフレのペースを凌いで上がれば、現金を保有するよりも優れた投資ということになる。大きな賭けかもしれないが、ビットコインが近い将来に広範に普及すれば、マイクロストラテジーは上場企業の大多数よりも、優位な立場に位置することになる。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:JOCA_PH / Shutterstock.com
|原文:The Corporate Argument for Bitcoin