現在ウェブ3の世界には、それぞれ完全にオープンソースで、競合プロジェクトからコードをフォーク(コピーを作成)されてしまう可能性のあるプロトコルがひしめいている。
ウェブ3(分散化やトークンベースの経済といったコンセプトを組み込んだインターネット)の世界では、似たようなプロジェクトを開発することが容易なため、どのプロトコルが長期的に見てより価値のあるものになるのかを見極めるのが、困難だ。
しかし厳密に言えば、長期的な価値を高めるのはプロトコルの人気ではなく、人気と防御能力の組み合わせだ。人気を測るのは簡単だが、防御能力は様々な形態で現れる複雑なものだ。いくつものプロトコルを評価してきた私は、防御能力の最も望ましい形態は、競合プロジェクトに簡単にフォークされないような有用性だと考えている。
私はこのような特徴を、プロジェクトの「フォーク不可能な有用性」と呼んでいる。フォーク不可能な有用性は、プロトコルユーザーに対して、複製困難な価値を示してくれる。
フォーク不可能な有用性をより簡単に見極めるために、私は6つの最も一般的な形態を特定し、それに具体例を組み合わせた。興味深いことに、6つのすべてのタイプが、より広範なネットワーク効果の範疇に収まる。
このフレームワークは、まだ開発途中である。他の人たちが私のアイディアに批評を加えたり、それを基盤にして発展させていくことを願って、ここに紹介しよう。
フォーク不可能な有用性の6つのタイプ
・プロトコルの担保/流動性(資本)
・プロトコルの流動性(コンテンツ)
・ネットワーク参加者のクリティカルマス(アプリレイヤー)
・スケーリングされた価値 + ネットワーク参加者のクリティカルマス(セキュリティ)
・資産の受容
・資産の流動性
担保/流動性(資本)
フォーク不可能な有用性の1つ目のタイプは、資本という形での担保と流動性だ。資本というのはつまり、市場の効率的な運営を助けるオンチェーン資産である。
例えば、貸付/借入プロトコルのアーベ(Aave)のフロントエンドとスマートコントラクト機能は簡単にフォーク可能だが、プロジェクトの担保と流動性は、複製するのがはるかに困難である。
プロトコル上での借り手の担保は、マーケットプレースの片側を形成し、貸し手からの流動性が、もう反対側を形成する。担保資本も流動性資本もフォーク不可能であり、2つを組み合わせると、ユーザーに対してフォーク不可能な有用性をもたらすことになる。
最も有名な貸付/借入プロトコルであるアーベは、当記事執筆時点での預かり資産(TVL)が11億ドル相当と、すべての貸付プロトコルの中で最も多くの担保/流動性を抱えている。
結果として、ローンを受けるユーザーは理論的には、大きな取引を実行するのに最適で、最も効率的な市場を使っているということになる。スケーリングされた担保/流動性が生む効率性が、プロトコルのフォーク不可能な有用性として機能するのだ。
コンテンツの流動性
資本の流動性と同様に、コンテンツという形での流動性も存在する。アーベと同じように、LBRY(ウェブ3のYouTube)も2つのサイドを抱えたマーケットプレースだが、貸し手と借り手の代わりに、LBRYはコンテンツのクリエーターと視聴者をつなげる。
しかしアーベとは異なり、LBRYのフォーク不可能な状態は、マーケットプレースの片側、つまりコンテンツクリエイターと彼らの生み出すコンテンツの側にのみ見られる。
LBRYプロトコルとGUIのそっくりそのままのコピーを生み出すことは可能だが、そうして生まれた新たなプロジェクトは、コンテンツクリエイターたちを説得して、自分たちのプロトコルでコンテンツを発表してもらう必要がある。
これまでの歴史を振り返れば、視聴者たちはコンテンツの最も多いプラットフォームを好むことが分かる。そのため、幅広いコンテンツの蓄積が、フォーク不可能な有用性として機能するのだ。
より多くのコンテンツがより多くのクリエイターを呼び込み、さらに多くのコンテンツが生まれるという、好循環をもたらす。ウェブ3でのコンテンツ流動性の例は他にも、ライター向けのプラットフォーム、ミラー(Mirror)や音楽配信プラットフォーム、オーディアス(Audius)などがある。
ネットワーク参加者のクリティカルマス(アプリレイヤー)
ボブ・メトカーフという有名なコンピューターエンジニアは、ネットワークされたデバイスの価値は、ユーザー数の2乗に比例すると語った。ネットワーク上の参加者が多ければ多いほど、各ユーザーに対するネットワークアクセスの価値は高まるということだ。
ウェブ3の世界で例を挙げるとしたら、架空の分散型メッセージプロトコルが考えられるだろう。プロトコルの参加者が増えるに連れ、各ユーザーに対する有用性も高まる。あるネットワークがクリティカルマスに到達すれば、徐々により優れたプロトコルが生まれたとしても、参加者を抱えたネットワークと、参加者のいないプロトコル間の有用性の差はあまりに大きく、移行が起こる可能性は低い。
メッセージプロトコルの例で言えば、フォーク不可能な有用性は、ネットワーク参加者の集団にある。別の例としては、分散型支払いネットワークなどが挙げられるだろう。
ネットワーク参加者のクリティカルマス(コンセンサス/セキュリティレイヤー)
フォーク不可能な有用性の4つ目は、スケーリングされたネットワーク価値と、ネットワークコンセンサス参加者のクリティカルマスが支えるネットワークセキュリティである。
ビットコインのようなプルーフ・オブ・ワーク(POW)レイヤー1チェーンであれ、アルゴランドのようなプルーフ・オブ・ステーク(POS)チェーンであれ、価値が高まるに連れて、51%攻撃を実行するコストが高まるために、ネットワークはより安全になる。
さらに、コンセンサスに参加する参加者の数が増えるほど、単独のユーザーやユーザーグループがそのような攻撃を仕掛けることは、より複雑で困難になる。
投資家カイル・サマニ(Kyle Samani)氏が、以下のように述べた通りだ。「(レイヤー1が)より安全になるほど、次なるユーザーが自らの資産をそのチェーンに保管することを正当化するのがより簡単になる」
より多くの価値がより多くのユーザーをもたらし、それがさらなる価値をもたらすというこの好循環から論理的に推論すれば、非常に価値が高く、極めて安全なレイヤー1チェーンは、ごくわずかとなるはずだ。
資産の受容
「通貨」の定義と似ているが、資産が「支払い手段として、額面通りに受け入れられる」ならば、フォーク不可能な有用性を持つことができる。暗号資産の世界には、USDCやUSDT(いずれも米ドルに連動するステーブルコイン)など、この定義を満たす多くの資産が存在する。
これらコインのプロジェクトチームやコミュニティは、大半の人がその価値を疑わずに資産を受け入れるところまで、流通や需要を拡大したのだ。
例えば、あるユーザーがソラナUSDCを手にしたとすると、このコインに対応する取引所か、受け入れてくれる業者を見つけられれば、そのユーザーにとってはより便利だ。この課題は、新しいプロジェクトトークンにとっては、より深刻だ。この場合、フォーク不可能な有用性は、他者や他のエコシステム、アプリケーションによって受容されることにある。
資産の流動性
ある資産がより多くのエコシステムやアプリケーションで流動性を持つほど、その資産はより有用になる。
異なるブロックチェーン間の互換性技術を手がけるワームホール(Wormhole)のソラナ-イーサリアムブリッジ(異なるトークンを交換する機能)を例に取ってみよう。
ユーザーはイーサリアムのERC-20規格のトークンを、ワームホールを使ってソラナに持ち込んだとすると、ユーザーはワームホールがラップしたイーサ(wwWETH)を受け取ることになる。これは、ソラナ上でイーサ(ETH)を表すソラナネイティブの資産である。この新しいwwWETHはよくできたものだが、その有用性の鍵となる要素は、そこに流動性があるかだ。
流動性がほとんどないとすれば、ユーザーにとってその使い道は限られてしまう。wwWETHのような新しい資産をローンチする場合には、パートナーシップや報酬によるインセンティブを使わなければならなかったとしても、流動性を生み出すことが、初期段階では非常に重要だ。
資産にとってこの場合、フォーク不可能な有用性は流動性の深さ、その深い流動性が見つけられる場所の数にある。
これまでに挙げた例が、完全にオープンソースなウェブプロトコルでも、頻繁なフォークの試みにも関わらず、長期的に大きな価値を実現できることを示すことを願っている。フォーク不可能な有用性を実現することは困難だが、そのメリットはとてつもなく大きい。
一方、価値を生み出すことに成功することが頻繁に証明されてきたコミュニティや、ブランドといったソフトな形態の防御能力も大切である。ウェブ2にもウェブ3にも、このような例は数え切れないほど存在する。
至高のプロジェクトたちがこの先、ソフトな防御能力と、当記事で紹介したようなよりメカニカルな防御能力を組み合わせ、極めて価値のあるプロジェクトを生んでいくだろう。
パーカー・マキー(Parker McKee)氏は、ベンチャーキャピタル企業Pillar VCのプリンシパル。暗号資産とウェブ3投資を専門にしている。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Which Web 3 Protocols Are Most Likely to Succeed? A VC Suggests a Common Thread