10日間にわたって開催された「ETHDenver」カンファレンスは、2月20日に幕を閉じた。最後を飾ったのは、バッファローユニコーンの格好をしたイーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリン氏による、ハッカソン決勝戦出場者たちの審査であった。
イーサ(ETH)は値下がりが続いているが、ETHDenverには今年、暗号資産(仮想通貨)業界では「BUIDLer」とも呼ばれる開発者たちが何千人も集結した。
暗号資産カンファレンスではお馴染みのお祭り騒ぎも見られたが、今年のETHDenverは、実際に行われた開発作業において突出していた。Tシャツを着た無数のエンジニアたちが、ホテルの会議室や、口コミで広がる開発者たちのたまり場、今回のメイン会場となったイベントスペース「Denver Sports Castle」のあちこちに置かれたソファの上に散らばっていた。
「ETHDenverはお気に入りのカンファレンスの1つだ。開発者に重点が置かれているからだ」と、暗号資産ウォレット「メタマスク(MetaMask)」の運営責任者で、ETHDenverのハッカソン審査員も務めたjacobc.ethは語り、「大半の暗号資産カンファレンスでは、自分のプロジェクトのトークンを宣伝する人たちばかりだから」と続けた。
ETHDenverは、開発者たちのためのカンファレンスなのだ。「ETHDenverの文化は、本当に楽しく、祝賀的な雰囲気の中でオープンソースで開発をする人たちを中心としている」と、jacobc.ethは説明した。
CoinDeskでは、プロトコルの立ち上げ人から高校生、ウェブ2を離反した人まで、幅広い参加者に話を聞いた。彼らはウェブ3と暗号資産の未来について、目を輝かせて楽観的に語ってくれた。彼らはここに、「BUIDL(開発)」のために来ていたのだ。
参加BUIDLerたち
時価総額55億ドルのニア・プロトコル(Near Protocol)の共同創業者イリア・ポロスキン(Illia Polosukhin)氏は、相方の共同創業者アレックス・スキダノフ(Alex Skidanov)氏と最後に直接会ってから、2年以上が経っていたと語る。2人は先週、ETHDenverでついに再会。昔のように、ともに開発作業をして、数時間を過ごした。
「ホワイトボードのある部屋で、一緒にニアを始めた頃のことを思い出していた」と、ポロスキン氏は語った。
今回のカンファレンスに参加していた著名な創業者は、ポロスキン氏だけではない。イーサリアムのブテリン氏も、開発者チームをサポートしたり、開発者たちのたまり場を訪れたり。さらには、カナダでのデモ参加者に対する政府の対応についての意見も表明した。
「ヴィタリックと話ができた」と、自らも高校生開発者で、25歳未満の若手暗号資産ファンがブロックチェーンカンファレンスに参加できるようスポンサーする自律分散型組織(DAO)「PadawanDAO」を立ち上げたビョンジュン・ムン(Byeongjun Moon)氏は語った。
「今年のETHDenverには、70人ほどの若者を送り込むことができた」と語る16歳のムン氏は、このカンファレンスが、「イーサリアムを前に進めるためには、多様な視点が大切であることに気づかせてくれた」と語った。ムン氏は2014年、わずか9歳の頃からイーサリアムに関わっているそうだ。
ウェブ2の世界を後にしてきた参加者もいる。開発者のコンラッド・ナット(Konrad Gnat)氏は、ウェブ2業界で長年働いた後、新しい挑戦を求めてETHDenverにやって来た。2021年5月以降、バーチャルのものも含めて、イーサリアム関連のハッカソンに参加するのはこれが10回目だと、ナット氏は語った。
「すでにウェブ2の世界でスキルセットを磨き、作りたいものは何でも作れる自信がある」と、ナット氏は語り、「ウェブ3では、制約となるのは想像力だけだ。(アイスホッケーの名選手が語った通り)パックが今ある場所に注目するのではなく、パックがこれから先に向かっていくところへ滑っていくことが大切だ」と続けた。
対面での人脈作り
新型コロナウイルスのパンデミック発生から2年、今回のカンファレンスは、多くのプロジェクト参加者たちにとって、バーチャルでともに作業してきた人たちと初めて直接顔を合わせる場でもあった。
「リモートワークにはメリットもあるが、開発の繰り返し作業はゆっくりとなる」と、ニアのポロスキン氏は指摘し、「このようなイベントが大切だ。多くのクリエイティブな人たちが、一堂に会することができるから」と続けた。
対面での共同作業に加え、対面での人脈作りの大切さを強調する参加者も多くいた。パネルディスカッションやワークショップがぎゅうぎゅうに詰め込まれた日程であったが、多くの参加者は、時間を見つけて無数の副次的イベントにも参加していた。
「ETHDenverは、人脈作りと結束を高めるための新しい次元のイベントという感じ」と、ユニット・ネットワーク(Unit Network)の共同創業者で、女性だけの「H.E.R. DAO」の代表としてハッカソンに参加したタイ-ディエップ・タ(Thy-Diep Ta)氏は語った。
各種イベントは通常、暗号資産取引所、ブロックチェーンプロジェクト、DAO、プロトコル、ベンチャーキャピタル企業などが共同で主催。気軽なカクテルパーティーから、有名DJが登場するクラブでのパーティーまで、様々であった。
タ氏がハッカソンで開発したのは、瞑想中のユーザーの心拍を使って、独自のアートNFTを生み出す分散型アプリ「Proof of Meditation」。こちらは「インパクト」のカテゴリーで、受賞を果たした。
期間中、早朝の水泳、または瞑想で1日をスタートさせていたタ氏は、「そのような健康を保つための時間が、混沌とした中でも落ち着きを保つために必要不可欠だった」と語った。
巨額のインセンティブ
タ氏のように、後援を受けて参加した人たちは通常、後援組織(その多くは資産を潤沢に持ったレイヤー1ブロックチェーンプロジェクト)から、航空券と宿泊費の提供を受けていた。
イーサリアムスケーリングソリューションのスケール(Skale)は18日、1億ドル規模のエコシステムファンドを発表。自らのエコシステム内でのプロジェクト開発に開発者を引き込むために、ブロックチェーンプロジェクトが利用するインセンティブの大きさを示していた。
「我がチームの開発者たちは、開発に打ち込んでいる」と、スケールの共同創業者ジャック・オホレラン(Jack O’Holleran)氏は語り、「これまでのところ彼らは、スケール上で20を超えるプロジェクトの開発を行なった」と続けた。
データクエリプロジェクトのザ・グラフ(The Graph)も17日、同プロジェクトのテクノロジーを使った分散型アプリ開発をサポートするために、2億500万ドルのエコシステムファンドを発表。
その翌日には、アルゴランド・ファウンデーション(Algorand Foundation)が、アルゴランド向けにイーサリアム互換ソリューションや開発者ツールを開発する開発者向けに、2000万ドルを与えると発表した。
「当ファウンデーションの仕事は、人々がアルゴランドに携わるための肥沃で良質な地盤を整えることだ」と、CEOのステイシー・ウォーデン(Staci Warden)氏は語り、「それはつまり、助成金の授与と技術的なものを含めたサポートの提供だ」と説明した。
その役割を担うのは、アルゴランドで「DevRel(Developers Relations)」と呼ばれるチームに属するライアン・フォックス(Ryan Fox)氏のような人たちだ。
彼らは、ニアのポロスキン氏が言うところの、「人と話すのも好きな開発者」であり、プロジェクトのブランドを広めるための大切な役割を果たす。ブースで技術系の質問に答えたり、ハッカソンの最中に、開発者たちに技術的サポートを提供するのだ。
「アルゴランドとイーサリアム向けに同時にスマートコントラクトを設計し、配備するためにリーチ(Reach)を使う開発者たちが、積極的に参加してくれた」と、フォックス氏は語り、「ウェブ3以外に注目が集まっていたのは、相互運用性だ」と続けた。
リーチとは、開発者がJavaScriptの数行のコードを使って、NFTから分散型取引所まで、あらゆるものの技術的基盤となるソリディティ(Solidity)のスマートコントラクトを記述できるようにするプログラム言語である。
ニアは20日、新しいウェブ3スタートアッププラットフォーム「パゴダ(Pagoda)」をローンチ。パゴダは、開発者たちがニア向けのアプリケーションをより簡単に開発できるようサポートする、一連のツールである。
「パゴダによって、JavaScript開発者たちにも、ニアへの扉を開いている」と、ニア・ファウンデーションのCEO、マリーク・フラメント(Marieke Flament)氏は語り、「それがメインストリームへの扉を開き、才能ある人材の数を全体的に増やすことになると、私たちは信じている」と続けた。
成長への弾み
多くの著名開発者たちは、今回のETHDenverに溢れていたエネルギーを、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどが支配したウェブ2の初期に似ている、と語った。
多くのプロジェクトにとってそれは、統合を目指した新しい製品のローンチや、エンジニア向けの開発プロセスの効率化を意味する。
jacobc.ethは、メタマスクの新システム「スナップス(Snaps)」は、グーグル・クロームが利用する戦略にインスピレーションを受けたものだと語る。彼は、ウェブ2の台頭の時期に、ウェブサイト構築のために最も優れた開発者ツールを提供していたのがグーグル・クロームだと考えており、「成長への弾みを生んでいた」と語った。
開発者向けにのみ利用可能な、先週ローンチされたメタマスクのスナップスは、ソラナやコスモスなどの外部プロジェクトが、メタマスク向けに独自のAPIを作れるようにするものだ。
「スナップスを使って開発しているチームがたくさんある」と、jacobc.ethは語り、「外部プロジェクトのチーム、匿名の開発者、自社の開発チームなどだ」と説明した。
イーサリアムのサイドチェーン、ポリゴンは22日、UI開発ツール「フィニティ(Finity)」のローンチを発表。プレスリリースによればこれは、ポリゴン開発者たちに、一連の「3Dデザインに特化した、十分にテストされたアセット、エレメント、テンプレート」を提供するものだ。
「とても面白い状況になっている」と、スケールのオホレラン氏。「大学の寮で開発する才能あふれる若者から、超巨大企業まで、多くの人がウェブ3での開発を行なっているんだ」と語った。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:BUIDLing Among the Chaos: What Devs Discussed at ETHDenver