コインベース(Coinbase)が4Q(10月~12月期)の決算を開示した。北米で暗号資産取引サービス最大手の収益構造をひも解くと、グローバル市場で過去1年に起きた急激な変化が見えてくる。
コインベースが報告した4Qの主な業績指標をまとめると、純収益(Net Revenue)は24.9億ドル(約2875億円)で、前年同期の4.97億ドルから5倍。純利益(Net Income)は同期間で1.77億ドルから8.4億ドルに膨れ、4.7倍増を記録した。
グローバル企業が用いる業績指標のEBITDA(調整済み)は、12.05億ドルで、前年同期の2.88億ドルから4倍増。コインベースを利用するユーザーの数(月間取引ユーザー=Monthly Transacting Users)は4Qで1140万人に達し、1クオーターで400万人増加。2020年4Qの280万人からは同じく、4倍増となった。
EBITDA:Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益のこと。
暗号資産の取引所ビジネスは、その収益がビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの暗号資産の価格変動(ボラティリティ)に大きく左右される。変動幅が大きくなると、取引所における取引量は増加する傾向にある。
暗号資産の中で最大の市場を抱えるビットコインの価格は、昨年3Q(7月~9月)初めの35000ドル近辺から上昇を始め、4Qの中間地点にあたる11月9日に67500ドルを突破した。
その後、ビットコイン相場はダウントレンドに突入し、2月27日16時45分現在(日本時間)、38800ドル近辺で取引されている。チャートの上では、昨年の3Qと4Qは、ビットコイン価格曲線の山を分け合うかたちとなった。
①機関投資家の取引が急拡大
決算報告の中で注目すべき一つ目は、コインベースにおける総取引量に占める機関投資家による取引の割合だ。コインベースの4Qの総取引量は、5470億ドルで、20年4Qの890億ドルから6倍となった。前四半期の3Qからは67%の増加を記録している。
この指標を、個人投資家と機関投資家にわけて見てみると、暗号資産市場に参入した事業会社などの機関投資家が、取引量を大幅に増やしていることが分かる。
コインベースにおけるQ4の総取引量のうち、68%にあたる3710億ドルが機関投資家による取引で、個人投資家のポーションは1770億ドル。機関投資家の取引量は、前年同期比で6.5倍に増加しているのに対して、個人投資家分は5.5倍増で、機関投資家の取引の増加ペースの速さが分かる。
②収益拡大のカギはコインの多様化
コインベースの収益構造が変化しているもう一つのポイントは、取引利益をもたらす暗号資産の種類の変化だ。2020年4Qでは、総取引量に占めるビットコインの割合は38%で、一番の稼ぎ頭だった。続いて、イーサリアムが14%で、その他の暗号資産が48%。
直近の4Qでは、約4割を占めていたビットコインが16%に急降下し、イーサリアムと同率となった。一方、その他の暗号資産の割合は、68%に拡大した。
コインベースは、暗号資産市場の取引トレンドを反映するための戦略として、「合法的なあらゆる資産を取り扱う(上場する)」と、報告書の中で強調している。「2021年通年で、機関投資家による『その他の暗号資産』の導入が進んだ」と述べている。
③収益の源泉はやはり個人投資家の取引
上表が示すとおり、コインベースの収益の大きな源泉は依然として、個人投資家による取引である。コインベースの純収益の91%は取引サービスによるもので、4Qの取引収益は約22.77億ドルを計上した。その取引収益の96%は、個人投資家による取引が占めている。個人投資家の取引収益は、前年同期比で約5倍増え、3Qからは倍増した。
4Qの機関投資家からの取引収益は、9080万ドルで、3Qからは34%増加したが、2Qに記録した1億ドル超えには届かなかった。前年同期の2460万ドルからは、3倍以上に膨れた。
通年で見ると、コインベースが2021年に稼いだ機関投資家の取引収益は、3.463億ドルで、前年の5590万ドルから6倍以上となった。
④マーケティング予算の確保を徹底
最後に、コインベースが費やす販売・マーケティングコストに注目したい。2020年4Qから2021年4Qまでの1年間で、このコストは10倍に増加している。
コインベースの収益は過去1年で大幅に増加しているため、同社が販売・マーケティングに費やすことのできる予算が増えるのは驚くことではない。直近の4Qでは同費用は約5億ドルで、前年4Qは4990万ドルだった。
直近の4Qにおける販売・マーケティング費用は、コインベースの純収益の10%にあたる。前年の4Qでは、純収益の5%にとどまっていた。
この1年間、北米市場では暗号資産の導入が進み、コインベースやその競合取引所は、TVコマーシャルなどを利用するなどマーケティング戦略を強めてきた。
米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)が開催するスーパーボウルは、アメリカで最も高い視聴率を稼ぐスポーツイベントと言われるが、今月に行われた第56回スーパーボウルでは、コインベース、FTX、Crypto.com、eTroroなど、北米の暗号資産業界をリードする企業のCMが放映された。
インフレ、ウクライナ…市場は混沌
2022年、多くの先進国(日本を除く)では、インフレを抑制する動きが活発となり、これまで行われてきた金融緩和は引き締め政策に移行しようとしている。この経済状況の大きな変化に伴い、世界中の投資家は、グロース株や暗号資産などのリスク資産から一定の資金を引き揚げる動きが見られるようになった。
2月24日、ロシアがウクライナに対する攻撃を開始すると、世界の主要株式市場と暗号資産のローラーコースター相場が始まった。当然、取引収益に依存する暗号資産取引所における1Q(1月~3月)の収益には、大きな影響を与えそうだ。
|決算レビュー・テキスト:佐藤茂
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