ウクライナ危機が続くなか、暗号資産と株式市場ではともに相場の乱高下が続いている。
2月26日には、国際決済ネットワークであるSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアを排除することが決まった。資金面で苦境に立たされるロシアだが、以前から金現物などの保有量を増やしてきたともいわれている。
「経済制裁慣れしてきている」と分析するのが、立憲民主党・中谷一馬衆議院議員だ。中谷氏は1月、国会答弁で日本銀行の黒田東彦総裁から、2026年までに日本がCBDCを発行するか判断できているだろうという認識を引き出した若手議員だ。
CBDC(中央銀行デジタル通貨):(1)デジタル化されていること、(2)円などの法定通貨建てであること、(3)中央銀行の債務として発行されること──の3つを満たすもの。(日本銀行より)
緊迫した地政学リスクが顕在化するなか、金融や通貨をどう捉えるべきだろうか。経済安全保障のあり方から、誕生に期待がかかるデジタルYenの取り組みまでを中谷議員に聞いた。
経済安全保障とデジタル通貨
──CBDCやステーブルコインは各国の経済安全保障に関わってくるか。
中谷議員:「世界と繋がるインターネットを中心とした通貨」、すなわち「WEB3時代の基軸通貨」を誰が担うのか、世界中で研究・実装が始まっている。
Web3:Web3.0とも呼ばれ、ブロックチェーンなどのピアツーピア技術に基づく新しいインターネット構想で、Web2.0におけるデータの独占や改ざんの問題を解決する可能性があるとして注目されている。
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その一方で、最終的には、通貨発行国の信用が貿易決済通貨の選択に影響を及ぼすことになる。我が国の中央銀行制度に強い影響を与えたドイツでは、「通貨発行権が国家の主権」ともいわれている。日本においてもWeb3時代に、通貨を時代のニーズに合わせて、どのように発展させていくのかということは、国家戦略上においても重要なテーマだ。
──アメリカがロシアに経済制裁を課す構えだが。
中谷議員:経済制裁慣れしてきており、ユーロや人民元を貯めたり、金を保有したりしている。制裁をかわすための手段を研究している。
自らの通貨で貿易圏を広げていくことは、対米ドルに関する依存度を抑えることになる。ひいては、金融制裁などの影響を軽減させることにつながる。
デジタル人民元と米ドル覇権
──デジタル人民元は、米ドルとの覇権争いという見られ方もしている。
中谷議員:中国がデジタル人民元を発行するのは、米ドルを基軸通貨とする国際金融システムを介さずとも貿易できる国を増やすためだ。米ドルへの依存度を減らして、金融制裁などの影響を軽減することが一つの目的だろう。
メディアなどでは、米ドルと中国人民元の覇権争いが取り沙汰されることが多い。しかし、米中は互いを戦略的競争相手としてベンチマークし合っているが、本質的な競争ではないと考えている。
また中国は、民間企業が独占しているデータを政府が使えるようにすることで、多様な政策にエビデンスをつけていく狙いがあるのではないかと推察している。今後、デジタル人民元は、中国が積極的に投資を行っている一帯一路の地域などで利用を推奨され、ユーラシア大陸の多くの地域で、事実上の共有通貨として使われる可能性も考えられる。
日本においても、インターネットで利用できる限り、デジタル人民元が使用されるケースも想定される。仮に、日本人が何かしらの決済で使うようになれば、データが中国の政策決定に利用される可能性もあり得る。
中国では、これまで個人情報の過度な収集、利用が見られた。国民の匿名決済に対する需要が高まっていることもあり、デジタル人民元については「制御可能な匿名性」という方針を打ち出して試行している。しかし、現実的に個人情報が保護されているかは未知数だ。
──北京冬季オリンピックでは、デジタル人民元が利用可能になった。
中谷議員:デジタル人民元(e-CNY)の実証実験を始め、ウォレットアプリの個人ユーザー数は2億6000万人を超えた。デジタル人民元が持つ潜在的な可能性は経済安全保障上、とても大きな脅威となる。
日本においても、CBDCを発行する際に匿名性の有無やバランスなど、熟議が必要になるだろう。私からの提言では、欧米と連携してCBDCの国際標準について主導権を持って進めていく国家戦略が求められることを指摘している。
いつになる、デジタルYen・CBDC発行
──諸外国のCBDCの検討状況は。
中谷議員:パウエルFRB議長は、デジタルドルを「優先度の高いプロジェクト」だと述べた。ヨーロッパでは、ラガルド氏がECB(欧州中央銀行)総裁が就任して以降、デジタルユーロの発行に積極的な姿勢を示している。すでにプロジェクトを立ち上げ、2021年10月から発行に向けた2年間の調査フェーズに入った。
その後、もし正式に発行すると決まった場合には、調査フェーズを終えた後に約3年をかけて発行準備を行う見込みであり、デジタルユーロの研究・開発が計画通りに進む場合には、2026年頃に発行される見込みだ。
2021年3月時点では、ラガルド総裁も「4年以内に実現することを望む」と述べ、早期発行のスタンスをみせている。
──日本ではどうか。
中谷議員:私的には、欧米の動きを見て、最短のフローを考えた時には、2026年頃にデジタル円をできる能力があるかの「能否」については、判断できているだろうと想定していた。
そのことを国会で日本銀行の黒田東彦総裁に尋ねたところ私見として同意された。目安が見えたことによって、日本国民がデジタル円という新たな価値について、実感を持って向き合うこととなる。
今後、国際競争環境を見据えた時に円の信任確保と利便性の向上を両立させる必要がある。日本にとって最善の決済インフラを官民協力して作っていくことが重要だ。
|テキスト・構成:菊池友信
|インタビュー:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑