暗号資産の光と闇を浮き彫りにしたウクライナ侵攻

ロシア軍が原子力発電所を制圧するなど、次々と事態が展開するロシアによるウクライナ侵攻の中、暗号資産(仮想通貨)は衝撃的なほど重要な役割を果たしている。

プーチン政権とその取り巻きたちに対して課された過酷な経済制裁を回避するために、暗号資産が有用だろうかと考える人たちもいるが、その答えは恐らくノーだ。

さらに広範に言うと、今回の一連の経済制裁は、国際金融の政治化を象徴しており、それは暗号資産が前提としてきた多くの主張を裏づけることになっている。

暗号資産コミュニティは、本当に素晴らしい寄付集めの取り組みによって、好印象も与えている。ウクライナ政府がビットコイン(BTC)とイーサ(ETH)を受け取るための公式ウォレットを立ち上げると、約4000万ドル相当の寄付が寄せられたのだ。

比較のために見てみると、米政府は現在、60億ドル規模のウクライナ支援を検討している。つまり、暗号資産の保有者たちはすでに、アメリカが提供する可能性のある額の0.75%ほどを、寄付したのだ。

そして、軍事作戦が進行する中、暗号資産は付帯条件無しで瞬時に届いた。そして寄付された暗号資産はすでに、重要物資を購入するために使われたと報じられている。

そうなると、いつかはやって来るであろうアメリカ政府からの支援よりも、暗号資産での寄付の方がはるかに有益ということになる。これはテクノロジーとしての暗号資産の有用性を裏づけるもので、暗号資産コミュニティの社会的評判にもマイナスとはならないだろう。

欲深さの露呈

しかし、少なくとも1つ、好ましくない兆候も現れている。他人の不幸を利用して利益を得る、悪名高き暗号資産界の便乗主義者たちによる、下品で道徳心の欠如した欲望が露呈しているのだ。

ウクライナ政府は2日、寄付をした人を対象にエアドロップ(トークンの無償配布)を行うと発表した。どのようなトークンになるのか、詳細はほとんど明らかとなっていなかったが、通貨としての価値はほとんどないような、何らかの感謝の印を表すものとなるだろう、と推測された。

しかし、明確な価値がほとんど、あるいはまったくないトークンでさえも、暗号資産市場では非常に奇妙な値動きをすることがある。例えば、米国憲法の原本を落札するために結成されたDAO(自律分散型組織)の「ConstitutionDAO」のPEOPLEトークンは12月、時価総額が8億ドルを突破。当初の寄付金わずか4000万ドルを管理するために立ち上げられたのにも関わらずだ。

この事例が、ウクライナによるエアドロップを巡って次に起きたことを理解するのに役立つ。ウクライナ公式アドレスへの少額寄付が急増したのだ。エアドロップ発表前は1時間に数百件の寄付だったのが、数千件へと、大幅な増加。

表面的には、善意が波のように押し寄せたように見えるかもしれないが、実際にはそんなことはまったくなかった。

「暗号資産界の現状
(暗号資産による寄付件数を示すグラフのうち、エアドロップ発表前の部分には「心ある人」、発表後の部分には「お金に目が眩んだ人」と書き足されている)」

寄付件数の急増はその大部分が、ある関係者の言葉で言うと「エアドロップから一儲けするため」の動きだったようだ。寄付額はおおむね、30ドル相当未満のETHと少額。あるアナリストによれば、20%は今回の寄付のためだけに作られた新規ウォレットから寄せられたものであった。

つまり寄付者たちは、最小限の寄付を行なって、その見返りに、結果的に寄付額よりも価値が高まるかもしれないトークンを獲得しようとしていたのだ。新規ウォレットが大量に作られたことは、シビル攻撃の可能性も示唆している。複数の人間であると装ったユーザーが、エアドロップでトークンを繰り返し獲得しようとした可能性がある、ということだ。

このような行動は、暗号資産システム全体をまたいで、あらゆるリターンを最大限にすることを目指す自称「ディジェン」という人たちによって、多かれ少なかれ標準的なものとされてきた。

開かれた金融システムのユーザー間で、乱用と紙一重の行動を推奨することは、確かにそれなりに理屈が通っているのだ。システムがまだニッチで実験的な段階で、そのレジリエンスを試すことになるからだ。

しかし、そのようなシステムが、戦争という残酷な現実に突然直面すると、何でもありの西部開拓自体のような行動は、実験的システムのテストと言うよりは、古めかしい、戦争から不当に利益を上げるための行動のように見えてしまう。

もしあなたが、残酷な独裁者の命令による軍事作戦の犠牲となっている民主的国家の寄付集めの取り組みにつけ込もうとしたと人の1人ならば、そのことについてゆっくり考えてみて欲しい。

永遠に残る、不名誉な記録

そして、あなたがしたことの記録は、イーサリアムが存続する限り、ブロックチェーン上に残り続ける。好奇心を持って、十分にやる気のある人ならば誰でも、戦争から利益を上げようとしたのが誰なのか、突き止めることは可能なのだ。自分の不名誉な欲まみれの行動を、永遠に記録させてしまったのだから。

しかも、それと引き換えに手に入れたものは何もない。シビル攻撃の試みがあったことが一因となってか、ウクライナの副首相兼デジタルトランスフォーメーション大臣のミハイル・フェドロフ(Mykhailo Fedorov)氏は3日、エアドロップの中止を発表したのだ。

ウクライナがNFT(ノン・ファンジブル・トークン)を発行するとの噂もあるが、エアドロップとなるのか、別の寄付金集めの取り組みになるのかは不明だ。

ということで、エアドロップで利益を上げようとした人たちよ、おめでとう。金銭面だけでなく、倫理的にも墓穴を掘ることになったのだ。

今回のエアドロップをめぐる一連の騒動は、本当に有益な暗号資産寄付が急増していることに比べると、些細な出来事として扱われる可能性が高いのは朗報だ。

そのことは、暗号資産と開かれた金融の力を証明する、最も重大な証となるだろう。なぜなら、確かに身勝手な悪人はたくさんいるが、人々が自分で決断できるようにしてあげれば、大半の人は正しい判断を下せるからだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Ukraine Fundraisers Bring Out the Best, and Worst, in Crypto