国際金融システムからのロシア排除という驚きの展開は、あらゆるグローバル組織が資金を動かす方法を劇的に変化させるだろう。企業財務の専門家によれば、そのような変化の1つには、大手企業が世界中で事業を展開するための方法として、暗号資産(仮想通貨)に対してより開かれた姿勢をとることも含まれそうだ。
「(企業間での)普及がこの先進むだろう」と、企業財務サービスを手がけるフィンリンク(FinLync)のミッチ・トーマス(Mitch Thomas)氏は語り、「企業の金融や財務担当者の間で、暗号資産に関する議論が盛んになるはずだ」と続けた。
小国の法定通貨が抱えるリスクや、欧米諸国がドルを基盤としたエコノミーへのアクセスを制限する可能性を考慮すると、企業は非国家的で広くアクセス可能、検閲耐性を持つ通貨ネットワークである暗号資産に、「グローバル決済システム」としての期待をかける可能性があると、トーマス氏は説明した。
大手企業はすでに、「将来的に暗号資産で請求と決済を行う方法を検討するべきだろうか?」といった議論を社内で進めていると、トーマス氏は考えている。それは「(ウクライナでの戦争のような)状況のためだけでなく、企業が銀行との取引を行いたくないような地域や、中東、アフリカ、南米などのリスクが極めて高い通貨にさらされたくない場合のため」でもある。
しかし、トーマス氏は、支払いツールとして暗号資産やそれ以外のデジタルツールへとより広範なシフトが起こるとは予測していない。その一因は、ネットワーク効率を生むほどに、企業間での利用が浸透していないからだ。
「暗号資産で決済する方法について徹底的に考え抜いたり、請求を暗号資産でするほどに信頼している企業が十分には存在しない。(中略)そのため、企業の視点から言うと、広範に使われるとは思えない」と、トーマス氏は語った。
金融分断化の代償
小国との取引のための断片的な暗号資産の採用は、全体的に見ると、必ずしも良いことではない。「ディリスキング(リスク回避)」と呼ばれる、9.11以降の銀行規制によってすでに、地政学的に問題を抱えた地域の多くの銀行は、国際金融システムへのアクセスを失っており、一般市民にも深刻な影響が出ている。
ロシアへの経済制裁の迅速さが、ウクライナ市民の犠牲を抑える役に立つことが望まれるが、より長期的には、金融の分断化がさらに進むという、トーマス氏の予測に同意する人は多い。
そうなれば、グローバル経済に下方圧力がかかるのは避けられない。アダム・スミスの言葉を思い出そう。分業と専門化は生産性を高めるが、市場の縮小や規制は、専門化を妨げるのだ。締め付けはゆっくりとかすかに進むが、その影響は数年単位ではなく、数十年単位で広がっていく。
ロシアに対する経済制裁は、医薬品製造やその他の主要産業を中国から自国内に戻すための(これまでのところおおむね言葉だけの)アメリカの取り組みをはじめとする「脱グローバリゼーション」に向けたその他のトレンドとも一致する。
少量多頻度の脆弱な製造から、より短いサプライチェーンの世界へと回帰しようとしているのだが、それは同時に、コストの増大と利益の縮小も意味する。
暗号資産も、同じように捉えることができる。ブロックチェーンを理解する人なら誰でも分かっている通り、伝統的な信頼ベースの銀行と比べて、暗号資産は多くの意味で効率性において劣るのだ。
国際的な支払いという点においては少なくとも、暗号資産は希望に満ちた技術的進展というよりは、効率的だが政治的に脆弱な現行の銀行ネットワークを、人間の悪の面が弱体化させてしまった時の、緊急最終手段なのである。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Why Russian Sanctions Could Push Corporations Towards Crypto