アメリカの静かなるデフォルトとビットコイン【コラム】

第二次世界大戦後期の1944年7月、アメリカがニューハンプシャー州の華麗なリゾートホテルに連合国側の代表を集め、新しい金融システムに向けた話し合いを開いた。米ドルが基軸通貨となり、金本位制が採用されることとなった。

イギリスのある経済学者が声を上げ、代わりに法定通貨のバスケットから成る中立的な国際決済手段を提案した。ジョン・メイナード・ケインズという名のこの学者の「バンコール」というアイディアは、よりアメリカ中心的なシステムを好むアメリカ代表団によって却下された。

1944年から71年にかけて、各国の法定通貨はドルに対する交換比率が定められ、1オンス35ドルの比率で金(ゴールド)と交換することが可能だった。

しかし、このシステムは脆いものであった。基盤となるゴールドに対するドルの割合を高めないよう、米政府の良心と浪費をしない決意に依存していたのだ。

アメリカがジョンソン大統領の偉大な社会計画とベトナム戦争に途方もない資金を使った時に、この問題が顕在化。各国は、要求に応じて通貨をゴールドと交換するという約束をアメリカが誠実に履行するかについて、疑問を持ち始めた。そして1971年8月、フランスはアメリカの誠実さを試すために金との交換を要求したのだ。

ニクソン大統領は、アメリカがその約束を守れないことを知っており、アメリカは1944年から維持してきた約束の不履行に陥った。アメリカはもう、金本位制を維持できなくなったのだ。

ドルと米国債を中心としたアメリカの優位

その後10年間、ひどいインフレが続き、アメリカは大幅な金利引き上げと、独創的なオイルマネー構想を組み合わせて、なんとかドルを安定化。後者の構想によって、アメリカはサウジアラビアなどの産油国と同盟を結び、石油を独占的にドル建てとする見返りに軍隊による防衛を保証し、利益を米国債へと再循環させた。米国債が安定したため、ニクソン・ショックで失われたドルへの信頼も回復した。

国際貿易においてドルの地位を再び強固なものにするのには、その他のツールも役に立った。アメリカは安価な債券を軍事支出へと注ぎ込み、国際的市場における事実上の保証人となり、外洋海軍で貿易ルートを保護することによって、世界的なエネルギーと食の安全保障を確保した。

そしてアメリカは、主権国家への短期貸付のためのIMF(国際通貨基金)、長期的開発金融のための世界銀行と、国際的金融機関のコントロールを通じて、世界の金融におけるルールを設定。さらに、オープン資本勘定を維持し、自国の証券市場が、世界中の預金者のための国際的な貯金箱になれるようにした。

現在、世界の公開市場と比べたアメリカの公開有価証券の規模は、世界的GDPのアメリカのシェアをはるかに上回っている。国際貿易の大半は、アメリカ国外で発生するものも含めて、米ドル建てだ。

アメリカは債務不履行のリスクがまったくないとされ、米国債は、各国にとってグローバルなリスクフリーの貯蓄手段と考えられるようになった。米連邦準備制度理事会(FRB)は、非常時には世界的に市場を支えるために無制限に流動性を生み出すことを厭わない、各国中央銀行にとっての、最終的な頼みの綱となる貸し手になったのだ。

海外で進んだ米国債離れ

金本位制抜きでも、ドルは国際的な主要決済手段として繁栄し、米国債は国際的な貯蓄手段の標準となってきた。しかし2014年頃、何かが変化し始めた。外国政府による米国債の購入が低迷し始めたのだ。2018年には、海外からの米国債購入は絶対数では増加したが、アメリカの負債の拡大のスピードにはまったく追いついていなかった。

つまり、米国債を熱心に購入することでアメリカの気前の良さを長年支えてきた外国人たちは、新規に発行される米国債をますます購入しなくなっていったのだ。米国債の海外での所有は、2015年の34%から2021年24%まで減少。中国による所有は、2015年の1兆2500億ドルから2021年の1兆1000億ドルへと減少した。

海外での関心の低下を埋め合わせるために、アメリカは新規債権者を求めて国内に目を向けた。FRBは2009年、米国債の約4%を保有していたが、現在ではその割合は19%まで上昇した。

何もないところから生み出されたドルによる国債購入には、大きな但し書きがついていた。有機的な需要から生まれてはいなかったのだから。このような手法は、インフレが許容できるほど低い場合にのみ持続可能なものだが、インフレ率はもう、そのレベルを超えてしまっている。(2月には、7.5%という40年ぶりの高さを記録)

海外におけるドルや米国債への関心の低下の理由を特定することは難しい。FRBが国内市場を支えるために無制限にドルを増刷できる力があることを明らかにした、2008年の金融危機への遅れて現れた反応かもしれない。あるいは、2014年のクリミア半島併合に対する、アメリカによる厳しい対露制裁の影響かもしれない。アメリカがこのような形で標的にした国家としては、ロシアは経済的に最も強力な国家であった。

それまで、制裁対象は小さく、経済的に重要ではない国だけに限られていた。その時も、アメリカは国際送金・決済システムのSWIFTからロシアを完全に排除すると脅したが、その厳しさから、結局実行することはなかった。ロシアはその脅迫を肝に銘じ、ロシアの中央銀行はその米国債のほとんどを売却。SPFSと呼ばれる、SWIFTに代わるシステムも立ち上げた。

ロシアがドルシステムへの依存から自由になるための措置を講じる一方、アメリカは、欧米の銀行がロシアの銀行と救いようがないほどつながっていることに気づき、この危機から学んで賢くなった。

当時のオバマ大統領は、恣意的に国家を排除することが、ドルシステムにもたらすリスクに関して、予見的な警告を発していた。オバマ元大統領は2015年、一方的な対イラン制裁に関して、次のように警告している。

「私たちは、世界の主要国家すべての、外交、経済、エネルギー政策を決定することはできない。(中略)中国などの国家をアメリカの金融システムから切り離さなければならないのだ。中国は米国債の主要な買い手であるため、そのような行動は、我が国の経済にも深刻な混乱を引き起こし、世界の準備通貨としてのドルの役割について、国際的に疑問を引き起こすことになる」

アフガニスタンとロシアの外貨準備凍結

バイデン現大統領は、副大統領として支えたオバマ元大統領の警告を聞き入れなかった。まずアメリカは、ニューヨークに保管されていたアフガニスタン中央銀行の資産を凍結し、奇妙なことにその半分近くを、訴訟を起こしている9/11同時多発テロ犠牲者遺族の賠償に充てる予定だ。

資産凍結は予測可能だったかもしれないが、アフガニスタンの一般市民の預金を取り上げ、テロの被害にあったアメリカ国民に分配するとは、非常に変わったやり方である。この凍結を一因として、アフガニスタンの金融システムは混迷を深め、人道危機に拍車がかかっている。

バイデン大統領はそれだけでは満足せず、外貨準備の凍結によってロシアにも金融攻撃を仕掛けた。

不当な侵攻への反応であったこの措置の道徳性、それが思慮深いものだったかについて、検討することが大切だ。アフガニスタンやロシアの外貨準備を凍結することは、正しく正当な措置のように感じられたとしても、それがもたらす即時的な影響は、国際的な貯蓄手段としての米国債の信頼性を弱めるものだ。

さらにアメリカは、同時に2つのものを手に入れたがってもいるのだ。米政府が組織的な高水準の支出をまかなえるよう、外国に米国債を買ってもらう必要がある。しかし、その国債を保有できるのが誰かについて、倫理的な条件を課そうとしているのだ。

アメリカの債権者はますます、このような倫理テストを受けたがらなくなり、米政権の最新の政治スタイルに合うことを求められない資産を保有することを選ぶようになるだろう。

作家のルーク・グロメン(Luke Gromen)氏は、FRBと欧州中央銀行は「外貨準備としての国債の信頼性を完全に失墜させた。完全にだ」と、手厳しく指摘。「複数通貨によって多極化した世界が、その夜(中央銀行資産凍結の発表された時)に完全に生まれただろう」と続けた。

元FRB職員のジョセフ・ワン(Joseph Wang)氏は、外貨準備の凍結を「金融における大量破壊兵器」と呼び、「主権国家は国家安全保障の問題として、市民は自己防衛の問題として、投資を分散させなければならない」と指摘した。

ロシアによるウクライナ侵攻に対する国連の非難決議の採決を「棄権」したインドと中国は、外貨準備に大いに依存した準備資産を保持しており、現在はそれを不安に思っているはずだと、ワン氏は指摘。

ロシアは、保有するすべての外貨準備がリスクにさらされていることを見落とすという、根本的な間違いを犯した。アメリカと衝突する他の国民国家は、同じ間違いを繰り返すことはないだろう。

ブレトン・ウッズ2の終焉

クレディ・スイス(Credit Suisse)の金利ストラテジスト、ゾルタン・ポズサー(Zoltan Pozsar)氏は、オイルマネーと国債の再循環を基盤とした、1971年以降の純粋な法定通貨の期間であるブレトン・ウッズ2の終焉を宣言。

「ブレトン・ウッズ2は、インサイド・マネーの上に築かれていた。先週、G7がロシアの外貨準備を凍結した時に、その基盤は崩壊した」と、ポズサー氏は指摘した。

金本位制支持者やFRBに批判的な人たちの影響力は、ツイッター上の狭いエコーチェンバーにしか到達しないかもしれないが、ポズサー氏の発言は、金融コミュニティ全体に響き渡っている。

ゴールドとドルの違いがここに来て、完全に明らかとなったのだ。『ジェームズ・ボンド』シリーズの世界以外では、ゴールドを離れたところから使えなくすることはできない。ドルとドル資産の場合は、それが可能なのだ。

ニクソン・ショックほど劇的ではないかもしれないが、バイデン政権による経済制裁は、同じくらい真正の債務不履行だ。1971年以降、米国債は国際的なリスクフリー資産であり、信頼できる価値の保管手段として、敵にも味方にも利用されてきた。

ロシアの足をすくうことは、正当だったかもしれないが、アメリカが外国の債権者に対して誓う確約の質に、はじめて確かな疑念を生み出すものでもあった。

完全な資産の無効化という可能性は、受け入れられないテールリスクである。とりわけアメリカがより気まぐれになり、かつて支配していた国際経済の健全性への関心を失うに連れ、アメリカと衝突することを恐れる国民国家は、米国債やその他の凍結可能な資産から離れ、資産を分散することを検討するようになるだろう。

2022年においては、ポザー氏の言う「アウトサイド・マネー」(マネー以外のゴールドや他のコモディティ)が最上だ。今のところそれはゴールドであるが、かつて暗号資産(仮想通貨)に懐疑的だった彼も、次のように締めくくっている。「ビットコインは(ウクライナ戦争後も存在していれば)おそらく、このような展開から恩恵を受けるだろう」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:America’s Quiet Default