ウェブ3がスティーブ・ジョブズから学ぶべき3つのこと【コラム】

伝説的な実業家でアップル元CEOのスティーブ・ジョブズは、デザインはさることながら、言葉の扱いにも優れていた。

時折、すべてを変える革新的な製品が生まれることを、彼は認識していたのだ。印刷機から電報、iPhoneまで、これらの発明は業界を変えただけではなく、世界と、私たちが世界と関わる方法を変えた。

スティーブ・ジョブズが2007年にiPhoneを発表した時、それまで一般的だったスマートフォンのキーボードに代わって、ワイドなマルチタッチスクリーンを採用した革新的なユーザーインターフェイスを強調していた。

ジョブズの予想通り、この画期的な製品は、消費者向けハードウェアに新しい基準を打ち立て、それと競い合うように新たな革新が生まれていった。iPhoneがなければ、スナップチャットやワッツアップも存在しなかったと言ってもいいだろう。

現在、ウェブ3支持者たちは、ウェブ3がすべてを変えるものだと期待している。ウェブ3を他とは違うものたらしめる、ブロックチェーン上の変更不可能なコードとデータから構成されるスマートコントラクトというテクノロジーは、クリエーターが所有権を維持できるよう、金融における仲介業者の必要性を排除することなどを目指している。

iPhoneがたどった道のりと同じように、スマートコントラクトという革新が、新しくより良い業界や在り方を生んでいくと、支持者たちは考えているのだ。

消費者に優しくない現状のウェブ3

しかし、スマートコントラクトを使って開発された製品は、iPhoneというよりも初期のスマートフォンに近い。分散化からはほど遠く、過剰なほどに専門的で、調和を欠いたユーザーインターフェイス(UI)からできている。

まず、使おうとしているブロックチェーンに合ったウォレットをリサーチして、選ばなければならない。

次に、12〜14文字のシードフレーズ(パスワード)を書き留めて、安全な場所に保管し、決して紛失しないようにしなければならない。それから、法定通貨を暗号資産へと交換するのだが、住んでいる国や地域によっては、規制の隔たりにも注意しなければならない。

上手くいく可能性も、失敗する可能性もある。もし投げ出さなかった場合には、ガス代にスワップ、ブリッジをはじめ、トークンの購入や取引のためのコンセプトを勉強する必要がある。人々は、美しくデザインされた摩擦のない製品に慣れてしまっているというのが現実だ。ほとんどの人が、投げ出してしまうだろう。

端的に言って、現在のウェブ3製品はスマートではなく、使いにくい。開発者たちがすべてを考え直し、消費者を念頭に開発を行わなければ、広範に普及することはないだろう。

そう言うと支持者たちは、ウェブ3をより安価でシンプルにしてくれるこの先の技術アップデートを挙げてくるだろう。私も楽観的に見ているが、それらのアップデートはまだ開発途中のままである。開発者たちは、3つの主要な点を再考するべきだ。その3つとは、言葉、カストディ、実用性だ。

1. 言葉を再考する

暗号資産からウェブ3へのリブランディングは、イーサリアムの革新について私たちが議論する方法に、驚くような変化をもたらした。しかし、開発者たちが使う言葉はいまだに、ほとんどの人にとっては理解不能だ。

コンポーザブルとはどういう意味か?非許可型?トラストレス?これらの言葉は、その意味するところよりも複雑に聞こえる。

私のお気に入りのウォレットは、かなり消費者フレンドリーなものなのだが、ポリゴンを「独自のコンセンサスメカニズムを持ったサイドチェーン」と説明している。これでは、イーサリアムネットワークについてしっかりとした知識を持たない一般人には、さっぱりである。

むしろ、そのような言葉選びは敵対的で不可解と言ってもいいだろう。好奇心を持った新規参入者を門前払いしてしまわないためにも、ウェブ3製品やテクノロジーについて語る方法を変える必要がある。

2. カストディを再考する

2019年にGoogleが実施した調査によると、回答者の75%がパスワードの記録にまつわる不満を感じていた。ウェブ3では、人々がどうやって12文字以上のデタラメな文字列であるシードフレーズの安全を確保し、覚えていられると思っているのか?

短期的には、開発者たちは消費者行動に融通をきかせ、徐々にそれを変えていくような、独創的なカストディソリューションを検討するべきだ。例えば、インターネットレジャー企業プールスイート(Poolsuite)は昨年、メンバー限定のNFT(ノン・ファンジブル・トークン)をローンチしたが、そこには素晴らしいメリットがついていた。モバイルウォレットとの統合だ。

iPhoneユーザーは、保有するプールスイートNFTをAppleウォレットに追加し、そこから体験を利用することができたのだ。このアプローチは、ウェブ3が分散型の未来を目指しながら、人々の現状にも合わせる方法を提示している。

3. 実用性を再考する

ここ数カ月で発表された複数のウェブ3プロトコルや製品は、既存のプラットフォームや機能を真似していた。なぜそんなことをするのだろう?私たちには第2のツイッターも、模造ウォレットも、人気NFT「Bored Ape Yacht Club」の派生品も必要ない。

開発者たちは斬新なテクノロジーを使って、消費者のために新しい体験を生み出すべきだ。

ストーリーやアイデンティのためのジェネレーティブ(プログラムで自動生成されるタイプの)人工知能NFT、オンラインアイテムと実際のアイテムをつなげる方法、トークン化された経済などは、検討が始まったばかりだ。これらのアイディアがどのように具現化するかは、ソフトウェアとハードウェアの可能性の限界を押し広げようとする開発者たちにかかっているのだ。

摩擦は革新にとって良いものだと主張することもできるだろう。しかし、現在のウェブ3の世界には、あまりに摩擦があり過ぎて、広範な普及にとっては有害だ。

ウェブ3は最終的に、iPhoneのようになるべきだ。つまり、直感的に使えて、暮らしに欠かせない一部となるということだ。私たちがコミュニケーションをとる方法や、製品を保有、利用する方法の変化、ウェブ3が実現させる価値によって、それが可能になるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:DenPhotos / Shutterstock.com
|原文:What Web 3 Can Learn From Steve Jobs