テザーは日本で流通するか?法改正でステーブルコインが動き出す:河合弁護士に聞く

3月4日、資金決済法を一部改正する法律案が国会に提出された。改正案には、暗号資産業界から高い注目が集まった。一方、SNS上では業界関係者でも法案を誤って解釈するケースが見られるなど、正しく読み取るには難しい内容だった。

今回の改正では、「金融のデジタル化等に対応し、安定的かつ効率的な資金決済制度を構築する必要」があることが指摘されている。

日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は、ステーブルコイン部会を設置している。同部会で顧問を務めるアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健弁護士に、改正案の概要と提言を聞いた。

ビットコインとステーブルコインは別物

議論の前提として、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産と、法定通貨に連動するステーブルコインは扱いが異なる。通貨建てステーブルコインは、電子決済手段とみなされる。

電子決済手段:不特定の者に対して代価の弁済に使用すること等ができる通貨建資産であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの等(金融庁、安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案の概要より)

海外では、ステーブルコインの市場規模が拡大している。ノンバンクの事業会社、テザー(Tether)が発行するUSDTは時価総額が約796億ドル(9.15兆円)、サークル(Circle)が手掛けるUSDCは同470億ドル(5.4兆円)にのぼる。

ビジネスの観点からは厳しい改正に

河合弁護士は、「具体的に事業者の対応すべき内容が明らかになるのは、12月または1月頃に出されると考えられる政令や内閣府令の後になる」と前置きしながら、「ビジネスの実情を鑑みると、厳しい内容だ」と述べた。

新たに、電子決済手段等取引業等が創設され、通貨建てのステーブルコインを流通させる取引業者(電子決済手段等取引業者)などを登録制とする。また、銀行や資金移動業者と同様の監督が実施される。

海外のステーブルコインが日本で流通させられるかどうかという観点では、河合弁護士は「法文では明確ではなく、排除しているわけではない」としつつも、「ビジネスとして取り扱うための障壁は高くなるだろう」と指摘する。

資金決済法の改正法案の六十二条の十五では、発行者と電子決済手段等取引業者は、利用者に損害が生じた場合の賠償責任の分担などについて取り決めた契約を締結しなければならないとされている。現状の事業者で考えると、テザー社が各取引業者と契約を締結するような形式となる。

パーミッションレスのステーブルコインでは、これまで想定されてこなかった内容であり、海外の発行体が契約を締結しようとしない限り、国内流通は難しそうだと考えられる。

トラベルルールはステーブルコインから適用に

3月9日に、各暗号資産取引所から「トラベルルール」についての通知メールが一斉に送られた。これは、暗号資産の送付元となる取引所が、受取人に関する情報の取得・保存を行い、送付先の取引所に対して顧客情報を送付する内容である。

今回の法改正では、暗号資産へのトラベルルールの法適用は見送られ、当面は日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の自主規制で運営していくことが検討されている。他方、通貨建てのステーブルコインは、これが先んじて法的に適用される(犯罪収益移転防止法改正案 第十条の二及び三)。

犯罪収益移転防止法改正案の第十条の二では、電子決済手段等取引業者は、外国におけるステーブルコイン取引業者(外国所在電子決済手段等取引業者)と継続的に又は反復して取引を行う場合、当該外国業者が適切なマネロン対策措置を整備しているかを確認する必要があるとされている。

今後、政令や内閣府令が争点に

改正法は、成立後1年以内に施行される。パブリックコメントの期間も考慮すると、2023年1月までには政令や内閣府令が明らかになることが予測される。

ステーブルコイン部会では、海外発行のステーブルコインも日本で取り扱えるほうが望ましいという考えを表明している。暗号資産ビジネスのなかでパーミッションレス型が主流となっているためだ。

今後も、取り扱いの規制や金銭の預託に関して、ビジネスの実情に即した適切なルールとなるよう業界団体として金融当局に働きかけていく構えだという。

|取材・テキスト:菊池友信
|編集:佐藤茂
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