暗号資産(仮想通貨)をめぐる議論の多くが、その指針としての「分散化」を中心としたものだが、NFTセクターはすでに極めて中央集権化しているのではないだろうか。
具体的に言うと、販売の側で中央集権化が進んでいる。ブロックチェーン分析企業DappRadarのデータによると、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)の売上高の大半は、2つのプラットフォームに集中している。
ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が支援する大手、OpenSeaと、数カ月前に登場してきた挑戦者のルックスレア(LooksRare)だ。
ルックスレアの売上高の大半は、ルックスレアのトークン報酬システムにつけ込むための、自分のNFTを自分に対して販売する取引「ウォッシュトレード」から来ており、本当のNFT取引は、ほぼ完全にOpenSeaで発生していると言っても良いだろう。
このような状況は変わらないのだが、NFT市場は最近、コンテンツの面で二次的中央集権化のようなものを始めている。
CryptoPunksの買収
人気NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」を手がけるユガ・ラボ(Yuga Labs)は11日、2つのNFTプロジェクトの「ブランド、アートの著作権、その他の知的財産権」を買収したと発表。ラーバ・ラボ(Larva Labs)が手がけ、NFTブームの先駆けとなったクリプトパンクス(CryptoPunks)と、その3Dバージョン、ミービッツ(Meebits)だ。
クリプトパンクスは、Bored Apesに追い越されるまで、2021年のほとんどにおいて、世界で最も価値のあるNFTであった。
この買収は、ある意味では理に適っている。ラーバ・ラボは常に、ジョン・ワトキンソン(John Watkinson)氏とマット・ホール(Matt Hall)氏2人のプロジェクトだった。彼らは2017年、実験としてクリプトパンクスを生み出した。
2020年から2021年にかけて、クリプトパンクスをめぐる盛り上がりが本格化する中でも、2人はGoogle Creative Labでの本業を続けていた。同僚たちは、彼らがなぜ暗号資産ゴールドラッシュの波に乗っていかないのか、不思議に思っていたはずだ。それでも2人は実験を続け、昨年5月にはミービッツを立ち上げた。しかし、クリプトパンクスに専念するつもりは、最初からなかったのだ。
時間とともに投資家の一部は、クリプトパンクスの知的財産権に対する不干渉主義的アプローチを快く思わないようになっていった。現在、Bored Ape Yacht Clubのビジネスモデルの成功のために、主要NFTコレクションは、オンラインのソーシャルクラブのように機能することを期待されている。
贅沢な招待制のコンサートや対面での集まりを開催したり、独自コミュニティが生まれる可能性を秘めた、派生的なNFTプロジェクトを誕生させることが、望まれるのだ。
Bored Apeの保有者たちは、主要なレコード会社や代理店と契約している。クリプトパンクスを保有することで得られる特典は、どこにあるのだ?と、不満の声が出るようになっていた。
クリプトパンクスには、ソーシャルな仕組みは必要ないというのが、暗黙の了解だった。Bored Ape Yacht Clubにとっては、「コミュニティ」の要素が常に、価値提案の重要な部分を占めていた。
お揃いのパーカーを着て、パーティーに参加するのが大切なのだ。一方のクリプトパンクスは当初、純粋なコレクション品とされていた。組織的なマーケティングキャンペーンではなく、有機的な投機によって、値上がりしていったのだ。
ワトキンソン氏とホール氏は、奇跡的な成功を成し遂げた。一方のユガ・ラボは、アンドリーセン・ホロウィッツとの資金提供の交渉中で、評価額は50億ドルになると報じられている。ラーバ・ラボが手にした未公開の買収額は、断れないほど魅力的なものだったのだろう。
独禁法不在の暗号資産界
結果として、価値の最も高い2つのNFTコレクションが、私たちがほとんど知らない単独の企業によって保有されることになった。バズフィードの報道によって、それまで匿名であった幹部の名前が、先月明らかになったばかりだ。
ラーバ・ラボは独立した企業のまま残り、もう1つの主要NFTプロジェクトAutoglyphsの権利を維持する。ユガ・ラボは、プレスリリースの中で「歴史的なコレクション」と呼んだクリプトパンクスで、Bored Apesのビジネスモデルを再現する直近の計画はないとしている。
ユガ・ラボの計画は、コレクションにユーティリティを追加することだ。「ユーティリティ」とは、NFTセクターでますます漠然と使われるようになっている流行りの言葉で、将来的に投資家が享受できるメリットのことを指すことが多い。
非公開のディスコードチャンネルにアクセスできたり、別のNFTの事前承認されたリストにアクセスできたり、メタバースプラットフォームでの特別な3Dアイテムが手に入ったりすれば、それが「ユーティリティ」と言うことだ。
ユーティリティはまた、一部のトークンを米証券取引委員会(SEC)からの監視下に置く可能性もある。ユーティリティによって、NFTが投資契約のような性格を帯びるからだ。
クリプトパンクスの価値は、ユガ・ラボの価値に密接に関係する可能性が高い。ラーバ・ラボは家族経営の小さな事業という訳でもないが、ユーティリティ付加によってトークンの価値を吊り上げることを頑なに拒む姿勢は、広範な暗号資産コミュニティの「価格アップ」精神とはある意味対立するものであった。
だからと言って、ラーバ・ラボの意図が常に純粋なものだった訳ではない。クリプトパンクスの初期バージョンである「V1パンクス」をめぐる騒動は、ラーバ・ラボがコミュニティとの関係を、必ずしも上手く扱えていなかったことを示唆している。
Bored Apeは、NFT市場を先導している。好むと好まざるとに関わらず、クリプトパンクスの保有者たちは、Bored Apeの保有者たちと、切っても切れない関係になってしまった。
これが、NFT市場のマトリョーシカのような構造だ。アンドリーセン・ホロウィッツは暗号資産界の多くの価値ある企業に投資している。アンドリーセン・ホロウィッツが投資するOpenSeaは、NFT市場をほぼ独占。こちらもアンドリーセン・ホロウィッツが投資していると言われるユガ・ラボは、最も価値ある知的財産の一部をコントロールすることになった。
暗号資産の世界には、独占禁止法は存在しないが、それこそが核心なのかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:人気NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」(mundissima / Shutterstock.com)
|原文:The First NFT Monopoly