大統領令で米国のクリプト業界はどう変わる?【コラム】

「政府一丸となって」

背景

バイデン米大統領は、暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーンに関する具体的な疑問を解決するよう様々な政府機関に指示した包括的大統領令の中で、デジタル資産規制において「全政府的」アプローチをとることを表明した。

これはおそらく、アメリカの暗号資産界における先週最大のニュースだったはずだ。大統領は政府機関に対し、魔法のインターネットマネーを理解するための仕事に取り掛かるよう命じたのだ。

暗号資産がもはやニッチな分野ではないと証明するのに、昨年のインフラ法だけでは十分ではなかったとしても、今回の大統領令がそのような疑念を解消してくれるはずだ。

大統領令を読み解く

バイデン大統領が大統領令を発表したのは9日。その後、私のメールの送信ボックスには、怒涛のようにメールが殺到した。

ついにこの時が来たのだ。現職の米大統領が、暗号資産業界に関する大統領令に署名したのである。しかも、酷評している人は誰もいないようなのだ。

私の知る限り、今回の大統領令はほぼ満場一致の称賛を受けている。批判と言えば、「十分に踏み込んだものではない」といったものや、主要な未解決の問題に実際には答えていない、と言ったものだ。しかし全体的には、反応はかなり好意的だ。

当時の大統領が「ビットコインのファンではない」とツイートするような状態から、暗号資産業界は成長していて監視が必要で、ガイドラインを整備するべきであり、アメリカがデジタル資産セクターにおける責任あるイノベーションのリーダーになるべきだと述べる公式文書に大統領が署名するところまで、アメリカがやって来たという事実は、噛み締めるに値するだろう。

ここで真の問題は、この大統領令が本当に何か意味を持つものなのか、という点だ。

実務的なレベルでは、今回の大統領令は各機関に、これまで通りの取り組みを継続するよう伝えているようなものだ。イエレン財務長官は、大統領令とともに発表された声明の中で、「大統領令に沿った作業は、既存の取り組みを補完する」として、事実上そのように述べている。

大統領令はまた、暗号資産規制における商務省と国家安全保障局の役割も一段と明確に定義している。この先半年ほどで、様々な機関が多くのレポート作成を義務づけられている。

明白に述べられている訳ではないのだが、主要な目標の1つは、暗号資産規制における各州と連邦政府の分裂を解消することのように、私には思われる。州と連邦政府の隔たりについて簡単な例を出しておくと、暗号資産取引所はおおむね、マネーサービス業者/送金業者として州レベルで規制を受け、証券と捉えられる可能性もあるデリバティブやトークンは、連邦レベルで規制を受けている。

ここで鍵となるのは、これらのレポートがどのように使われるかを見極めることだと思われる。規制当局や財務省などの政府機関はすでに、ガイダンスを発表したり、具体的な法律を求めている。例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)は再三にわたって、デジタルドル発行を検討する前に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の作成を承認する法律を議会が可決することを望むと表明している。

さらに多くのレポートが作成されれば、より具体的な提言が生まれるかもしれないが、それは議会と行政府、彼らがレポートをどのように活用するか次第だ。現時点で変化が生まれる可能性は、現状が続く可能性と同じくらいである。

率直に言って、実務的なレベルでどのような影響が出るかを見極めるのは時期尚早だと私は考えている。規制が集約されたり、州と連邦の分裂が解消されるかもしれないし、そうはならないかもしれない。現時点では、どちらも同じくらい可能性がありそうなのだ。

このため、今回の大統領令があまり意味を持たないという主張も、ある程度理解できる。

しかし、象徴的なレベルでは、この大統領令は重大なものだ。

「アメリカはこの急速に成長する分野において、技術的リーダーシップを維持し、消費者、企業、より広範な金融システムや気候へのリスクを軽減させつつ、イノベーションをサポートしなければならない。民主的価値観や、アメリカの国際的競争力と矛盾しない形で、国際的な関わりや、デジタル資産のグローバルなガバナンスにおける主導的な役割も果たさなければならない」と、大統領令発表のためのホワイトハウスによファクトシートには記されている。

大統領令はさらに、デジタル資産についてお馴染みの懸念も取り上げている。金融を不安的にしたり、消費者を害するかもしれない、という懸念だ。これに関しても、政府機関に対して、これらの問題を検討するよう大統領令は命じている。

大統領令の中では、政府機関に採用してもらいたいとバイデン政権が望む規制について、具体的に述べられてはいない。

次なるステップは、レポートの発表を注視することだ。

プルーフ・オブ・ワークの禁止

一方のヨーロッパでは、EUの暗号資産規制法案「Markets in Crypto Assets(MiCA)」が、成立に一歩近づいた。何年も前から準備の進んできたこのMiCAは、27のEU加盟国で事業を行おうとする暗号資産企業に対する、共通の規制枠組みを生み出すものである。

EU議会の経済・金融問題委員会は14日、この草案を賛成多数で通過させた。この草案には、相場操縦や違法行為の阻止、一国で申請し、他のEU加盟国でも有効なライセンスの整備のための条項が含まれている。

これ自体かなり大きなステップのように見えるが、MiCA関連のニュースで話題の中心となったのは、別の事柄であった。

プルーフ・オブ・ワーク型暗号資産の規制が、再び議論に上がったのである。

CoinDeskのサンダリ・ハンダガマ(Sandali Handagama)記者は、次のように報じている。「EUが暗号資産規制のために提案する法的枠組みMiCAの最新版の草案には、プルーフ・オブ・ワーク型暗号資産の利用を制限するかもしれない条項がいまだに含まれている」

MiCAの様々な草案には、プルーフ・オブ・ワーク型暗号資産がEUのエネルギー消費に与える影響を制限するための、様々な条項が含まれていた。

エネルギー消費に関する懸念は、かなり深刻なものであり続けている。特にヨーロッパは、ヨーロッパ全体が依存するロシアの石油に対して、EUとアメリカが制裁を発動した場合に、どのようにエネルギーを調達するかという問題に頭を悩ませているのだ。

エネルギーを「浪費している」とされる暗号資産を禁止することは、自分たちができることをしていこう、という気候変動に対する取り組みの中でも、かなりお手軽な戦略だ。

しかし、14日に行われた投票では、この条項が草案から削除されることが決定した。

草案は今後、EU委員会、EU理事会、EU議会で審議される予定だ。

ブロックチェーンのブリーフィング

バイデン米大統領は、ウクライナへの追加支援を含む1兆5000億ドルの予算案に署名した。

この予算案には、2つの興味深い条項が含まれていた。1つは、企業に対してランサムウェア攻撃に対する暗号資産での支払い報告を義務づけるもの。石油パイプラインや食肉加工業者など、複数の重要なサービスを手がける企業も犠牲となった、昨年発生した一連のランサムウェア攻撃がきっかけとなっている。

もう1つの条項では、国家情報長官に対し、暗号資産とブロックチェーンに関して議会にブリーフィングを行うよう命じている。

予算案には次のように記されている。

(a)ブリーフィング:当法律の施行から90日以内に、国家情報長官は(b)に書かれているトレーニングを提供することの実現可能性、メリットについて、議会諜報委員会に対してブリーフィングを行うこと。

(b)トレーニングの内容:当項で言うトレーニングとは、次の基準を満たすトレーニングである。(1)暗号資産、ブロックチェーン、あるいはその双方に関するトレーニング。(2)大学や民間セクターと共同で提供されることもある。


私の取材では、大統領が署名した予算案に含まれていたバージョンが上記である。つまり、6月までにこのようなブリーフィングが行われる見込みだ。現時点では、誰がこの条項を提案したのかなど、これ以上の詳細は分かっていない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ジョー・バイデン米大統領(lev radin / Shutterstock.com)
|原文:Joe Biden’s Crypto Executive Order Is a Symbol