2021年の主要投資テーマの1つは、分散型アプリケーションをめぐってイーサリアムと競合する、レイヤー1と呼ばれる各種代替ブロックチェーンネットワークであった。
ソラナ、ポリゴン、ファントム、ニア、アバランチ、アービトラム、コスモス、ポルカドットなどのプロトコルや、レイヤー2プロトコルへの投資は、ますますリターンの大きいものになっていった。
これらのプロトコルは、分散型演算を作り上げるものだ。そのような演算は、あらゆるタイプのソフトウェアを支えることができるが、デジタル希少性、所有権、来歴などにとりわけ向いている。
分散型演算は、供給、ある程度の需要、そしてガス代という変動する価格を抱えている。化石を元にしたガスではなく、ブロックチェーンというグローバルネットワークを動かすのに使われるデジタルのガス代だ。
特定の標準規格内でアプリケーションを開発する開発者をめぐる戦いという、別のフレームワークも存在している。これは、ベータマックス対VHS(ビデオカセット)、アップル対ウィンドウズ、iOS対アンドロイドと同じような構図である。
5つ未満の重要なプラットフォームが存在しており、特定のオペレーティング層の代替バージョンを提供できる。しかしこれらのプラットフォームは、アプリケーションを開発する外部の開発者が存在してのみ、価値がある。
多くのアプリケーションが存在すれば、ユーザーが現れて、それらを使う。ユーザーはしばしば、お金を出すことをいとわない。フェイスブックは無料だと思うかもしれないが、アップルに対して、スマートフォンを持つという特権のために1000ドルを支払っていることを忘れてはいけない。
そして、プラットフォーム内にユーザーがいれば、開発者はテクノロジーを可能にする存在としてだけではなく、分配経路として、ユーザーを尊重する。そのような循環は、プラスのネットワーク効果を生み出し、それが特定の均衡を維持し、他のものは破綻する。
つまりレイヤー1は、演算ユニットを提供するとともに、その演算ユニットが生み出され、実行される市場という文脈ももたらすのだ。
ということは、イーサリアムなどの既存ネットワークが、力の法則によって勝者となるべきではないのか?その戦いにおいて賄賂を渡したり、戦いそのものをひっくり返してしまう方法があれば、そうとはならない。
それが、テラやアバランチ、バイナンス・スマート・チェーンなどへと動いている、担保として預け入れられた資産の中に見られる。2020年9月、イーサリアムは市場の資産の90%を抱えていたが、現在ではその割合は約50%となっている。それがなぜ、どのようにそうなったかを理解するのは大切だ。
エコシステム戦略
例を示そう。アバランチは、ネットワーク上で開発されるアプリケーションを増やすために、2億9000万ドル規模のインセンティブプログラムを立ち上げた。アバランチの時価総額は現在、約300億ドル。つまり彼らは、プラットフォームの成長と、繰り返しの顧客獲得のために、時価総額の1%を支出しているのだ。
もちろんこれは、珍しい戦略ではない。ポリゴンも昨年4月、分散型金融(DeFi)の成長を目標とした1億ドルのエコシステムファンドを立ち上げた。ちなみにこれは、功を奏した。ポリゴンには今、相当のDeFiアプリケーションが存在している。
イーサリアムの場合は、コンセンシスが初期に、エコシステムファンドのような役割を果たし、開発とコミュニティへの普及を十分に生み出した。
高次のレベルでは、これらのファンドはマーケティングとユーザー獲得のために、プロトコルのトークンサプライの一部をコミットするということだ。ユーザーはアプリケーション開発者であり、彼らがその結果として、個人ユーザーを連れてくる。
ひとたびアプリケーションが開発され、人がプロトコルのプロダクト、すなわち演算能力を購入するのにお金を使えば、少なくともある程度の期間は、その演算の価値は上がるということが、繰り返されるのだ。
マイクロソフトやアップルが、新しいOSを一番に開発するために開発者に与える助成金と同じものだ。ペイパルやウェルズ・ファーゴが、アカウント開設に対して、新規ユーザーに100ドルの報奨を与えるのも同じこと。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドや、ビザやマスターカードの送金のように、イノベーションを捉えるために、企業がコーポレート・ベンチャー部門を立ち上げ、それを中核事業へと転用するのも同じだ。コンパウンドやユニスワップでの流動性マイニング報酬も同様である。
インフラのストーリー
これまでのポイントをまとめると、組織はマーケティングにお金をかけ、競合と比べて普及を拡大し、収益性を確率し、その収益性を活用して、シェアを拡大する。
イーサリアムがこれを確実に実行していると考えられていたが、現実には、レイヤー1への投資リターンを再現したいと考えるリスク資本が、はるかに多く存在している。2024年には、政府、巨大テック企業、その他の大口機関投資家をめぐって、100億ドル規模でエコシステムファンドが競い合っていることも想像に難くない。
このような助成金は結局、分散型演算の供給と需要の問題となる。演算能力を生み出す多くの競合が生まれれば、そこで生み出された演算能力は、消費されるかもしれないし、されないかもしれない。
ここで参考になるのは、2000年にテレコムの世界で起こったことだ。テレコム企業は、インターネットのために新しい回線容量を準備し、まだ現実化してもいない利用のために多くの帯域幅を生み出すのに忙しくしていた。このような物理的な投資が、供給過多を引き起こしたのだ。スタートアップが消滅していくに連れて、開発者たちからの需要は減少し、インフラの価値も下がった。
さらに視点を広げて、インターネットバブル崩壊の頃の収益を下記のグラフで見てみよう。明らかに、インターネットはこのまま存続し続けるもので、ある特定のバブル崩壊は、長期的かつ根本的なトレンドを伝えるような本当の意味は持たない。
2003年にインターネット投資に弱気となり、そのままでいることは、世界を理解するための思考がブロックされたことを意味する。しかし、特定のインフラセクターの収益や評価額に関して弱気であることは、別の話であり、合理的な見込みである。需要は急増したにも関わらず、コモディティ化といったトレンドやムーアの法則が、企業が価格を維持する力を打ちまかしてしまったのだ。
私もウェブ3に関して、他の誰とも劣らないくらい強気であり、ここで中核的な主張を繰り返すことはしない。しかし、洞察力のある人は、レイヤー1の構想を長期的な明晰さを持って観察するべきだ。
現在の成長の多くは、マーケティングや金銭的なインセンティブに支えられており、良い位置にいる人たちが、新しいトークン発行を通じて多くの富を創造できる。
言うならば、自らのテレコム事業の株を新規に公開し、その株を使って自社ネットワーク上のインターネットアプリに資金を提供するようなものである。短期的には伸びるかもしれないが、根本的な前進における、適切かつ持続可能で良識ある均衡ではないだろう。
さらに忘れてならないのは、最も価値のあるインターネット企業は、通信機器メーカーのシスコのような企業ではなく、グーグルやフェイスブックのようにメディアを提供したり、アマゾンのようにコマースを提供する企業であり、彼らはウェブ1とウェブ2の価値を支える中核的存在である。
アップル(ハードウェアのアクセス)やAWS(中央集権化された演算)の関係も考える必要があるが、これはまた別の機会に。ちなみにウェブ3の世界では、価値とは金銭的価値のことだ。
レックス・ソコリン(Lex Sokolin):CoinDeskのコラムニストで、ニューヨーク州ブルックリンにあるブロックチェーンソフトウェア企業、コンセンシス(ConsenSys)のグローバル・フィンテック担当共同責任者。この記事は、ソコリン氏のニュースレター『Fintech Blueprint』を転用したものである。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Layer 1 Protocols Must Learn From the Telecom Crash