アメリカ経済全体で、金利がじわじわと上がり始めている。高騰し始めているところもある。
金利はもちろん、ローンを借りる人たちに影響を与えるが、比較的安全な資産も含め、貸し手にとってはリターンが高まることも意味する。そのような資本をめぐる競争が、他の要因とも相まって、すでにテック系のグロース株を含めた投機資産に苦境をもたらしている。
いくつかの指標によると、暗号資産(仮想通貨)は驚くほどよく持ち堪えているが、それでも同じような未知なる力が忍び寄っていることに、変わりはない。
ほんの始まり
最も特筆すべき金利の上昇は、住宅ローン市場に見られる。30年間固定金利住宅ローンの金利は4月19日、平均で5.3%と、12年ぶりの高水準を記録。同じ日、10年米国債の利回りは2.94%と、歴史的に見ればまだ低いが、2018年以降最高レベルに達した。
そして、最も驚くべきで、投機投資を行っている人には最も恐ろしいことに、リスクフリーでインフレ調整済みのアメリカの貯蓄国債の利回りが、5月には10%に達すると見込まれているのだ。この金利上昇はもちろん、現在のインフレによって相殺されてしまうが、それは他のあらゆる投資も同じことだ。
これらはまだ、資本コストの高まりの一時的なサインに過ぎない。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)のフェデラルファンド金利の変更による影響が、広範な経済へと広がるのは、未来に関する人間の複雑な判断に沿った形となるからだ。
例えば、利上げが一時的と考える銀行は、金利を早々と上げる競合の銀行から顧客を奪うために、より低い金利での貸付を続けるかもしれない。つまり、FRBが計画された一連の利上げを始めてひと月経った現在現れている変化は、始まりに過ぎない可能性があるのだ。
金利の上昇によって、投資家、とりわけヘッジファンドのような大口投資家はすでに、リスクリワードの計算に変更を迫られている。国債のような「安全」な投資が、よりリターンも高いがリスクも高い資産へと流れ込んでいたはずの資本を簡単に集められるようになるので、計算は複雑だ。ここで言うリスクの高い資産には、すべてとは言わずともほとんどの暗号資産や、その他のトークン資産も含まれる。
よりリスクの低い資産への緩やかだが確実なシフトを示唆する力強いサインはすでに存在している(が、その影響は現在進行中の、いわゆるステイホーム株式投資からの反落と完全に分離することは困難だ)。
ナスダック100は、アマゾンやNvidiaなどを筆頭とする、いまだに少しの「グロース」の期待が織り込まれた株式。言い換えるならば、現在の低迷前の価格が、将来的な著しい成長を示唆していた株式のバスケットである。ナスダック100は1月以来、12%の落ち込み。一方、より成長のゆっくりな銀行、小売、製造業の株が比較的多めのダウジョーンズ工業株価平均の下げは4.4%だ。
より投機的なカテゴリーを見てみると、さらに心配な状況だ。
リスクオフ
その筆頭は、アーク・イノベーション。キャシー・ウッド氏が率いるアーク・インベストメントが運用するファンドだ。ウッド氏は、ロビンフッド、スポティファイ、ユニティ、ブロック、テスラ、そして最も重きを置いているズームなど、真に投機的なテック、フィンテック、バイオテックのグロース株に大いに賭けている。
これらの企業は、まだ利益が出ていない(バイオテック企業の大半)、はるかに収益性が上がることが望まれる(ズーム)、あるいは挑戦的な会計のおかげで収益性がある(テスラ)のいずれかだ。
ウッズ氏が構成した大博打株のバスケットは、2021年のピーク時から、驚きの60%も下落。2021年ピーク時から約38%安となっているビットコイン(BTC)と比べても、はるかに悪いパフォーマンスだ。
ちなみに、イーサ(ETH)の下落幅はさらに小さく35%。コインゲッコー(CoinGecko)のデータによれば、すべての暗号資産の時価総額計は、36%近く下がっている。
暗号資産の方が、より伝統的なテックグロースファンドよりもよく持ち堪えているのは、驚異的だ。その一因は間違いなく、暗号資産やブロックチェーンに関する投資家の楽観が継続していることであり、その楽観的姿勢がもちろん、リスクとリターンの細かい判断に勝ってしまうこともあり得る。
しかし、暗号資産には、影響をもたらす可能性のある、大きな構造や透明性の違いもある。収入を上回る高い支出を伴う、バーンレートの高い従来型のスタートアップは、より金利の高い状況では、その株式の価値がより速く下がることになる。「バーン」とは、将来的な借入を示唆するからだ。
暗号資産の世界では、ブロックチェーンの「バーンレート」は、一カ所に固まってはいない。むしろ、維持や貢献を行う様々な部分に拡散しており、読むのが難しいのだ。つまり、ブロックチェーンエコシステムの真の金融実態を見極めるのは、より困難ということだ。とりわけ、外からの資金に依存しているかどうかを見極めるのは、証券の場合よりも難しい。
一方、プロトコルが明らかに外部資金に依存している状況もある。例えば、ハッキングの被害にあったワームホール(Wormhole)が、ジャンプ・トレーディング(Jump Trading)に救済された事例など、深刻な出来事を理由にした場合もある。より心配なのは、様々なステーキングや貸付プールによる債務だ。
例えば、テラ(Terra)の貸付プロトコル「アンカー(Anchor)」での利回りは、多くの補助を受けたもので、貸し手へのリターンの約半分は、借り手ではなく、外部資本由来だ。今のところ創業者たちはそれを、価値のあるマーケティング支出として考えているが、別のところで利上げが起これば、押し退け効果があるのはほぼ避けられないだろう。
気を引き締めて
大きな金利のうねりの中、今のところは、楽観が暗号資産を支えているのかもしれない。しかし、根拠のない希望には限界もあり、将来的な低迷をはるかに激しいものとするような大きなテールリスクを、暗号資産は抱えている。特に、ステーキングやイールドのプールはしばしば、競合によって資本が引き抜かれてしまった場合に安定性を失うような、他のプロダクトを支えている。
それらのリスクの中でも、「アンカー」は特に危険な位置にある。急速に成長するステーブルコインUSTを支えるエコシステムの主要な柱となっているのだ。USTの「アルゴリズム」モデルの内的脆弱性については、すでに殺気立ったとも言える議論が存在する。
より安全かつハイリターンな投資からの外部圧力がそこに加われば、破滅的な事態がそこまで迫っていると想像するのも、難しくはない。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Will Rising Interest Rates Sink the Crypto Ecosystem?