暗号資産決済:そのテクノロジーが影を潜める時【コラム】

カンファレンスがすべて、ハードウェアとソフトウェアだけに特化したもので、人々が気になる成果には焦点が当てられていないのを見ると、その新しい業界はまだ初期段階にあるのだということが分かる。

マイアミでの「Bitcoin 2022」が終幕したばかりの今、サトシ・ナカモトが約束した、ピアツーピアの電子キャッシュシステムが実現するのか、改めて問い直して見るのも良いだろう。ビットコインマキシマリストたちは、ビットコイン(BTC)こそが、未来の唯一の通貨だと宣言しているが。

暗号資産による支払いという約束の実現は、サトシ・ナカモトによるホワイトペーパーによって、ブロックチェーン革命が始まってから13年経った今でも、雲行きが怪しく思えるかもしれない。

しかし、よりメインストリームな決済関連のカンファレンスに参加して、、暗号資産が「非主流派金融」のままであるのか、メインストリームへと食い込んできているのかを感じをつかむことは有益だ。

昨年ラスベガスで開かれたフィンテックカンファレンス「Money 20/20」では、かつては脇に追いやられていた暗号資産関連の議論が、主役となっていた。大手決済、銀行、伝統的金融サービス企業と合同でのイベントの多くでも、立ち見席しか残っていない状態だった。

かつては暗号資産に対して頑なに懐疑的な人たちに支配されていた、伝統的金融(TradFi)の世界における暗号資産への好奇心から、コミットメントへのシフトはおそらく、この業界でも最も大切な動きだろう。

デジタル資産に、ウォール街からのお墨付きが必要だったからではなく、ウォール街が、オープンブロックチェーンネットワークによる、常時オンの状態のパワー、信頼、ビジネスモデルの変容を必要としているからだ。

暗号資産にまつわる、最も顕著な方針転換の例は、米銀最大手のJPモルガン・チェースだ。CEOのジェイミー・ダイモン氏は、暗号資産を取引していることが分かった従業員は解雇すると脅したことで有名だ。しかし、JPモルガンは今では、ブロックチェーンや分散型金融(DeFi)を受け入れている。世間でもお馴染みの金融サービス企業で、このような動きを見せたところは他にもある。

競争か、集約か?

しかし、ここで疑問となるのは、暗号資産決済が既存の決済や銀行サービスと競合するのか、それとも集約のトレンドによって、暗号資産決済が、伝統的企業にとっての代替的決済レイヤーとなって、日常的な利用の架け橋となるのか、という点だ。

このトレンドが最も顕著に現れているのが、ステーブルコインの分野だ。ステーブルコインとは、資産連動型の暗号資産で、基盤となる資産に対する価格の安定性を維持するように作られている。

ステーブルコインは、日常的な経済活動のために何十億人もの人々に使われるという目標を掲げているため、国際的に政策や規制の見直しが活発となった。

すべてのステーブルコインは同じように作られてはいないが、買い手の後悔という暗号資産の原罪を解決することで、USDコイン(USDC)などのステーブルコインは、引受を必要とするユースケースへと入り込んでいる。つまり、その価値をしっかりと示すことのできる能力が、実世界での決済におけるステーブルコインの利用にブレイクスルーをもたらしたのだ。

ソラナなどの好成績なブロックチェーンや、より新しいブロックチェーンなど、ブロックチェーン開発競争が激化する中、すべてを超越しているイノベーションが、誤解や時折見られるFUD(恐怖、不確実性、疑念:fear, uncertainty and doubt)にも関わらず、ステーブルコインなのだ。

この先

この先私たちは、伝統的エコノミーに見られるウォールドガーデンのような、マルチチェーンの未来へと向かっていくのか?それとも、1つのチェーンが支配する世界へと向かっていくのだろうか?

ブロックチェーンやウェブ3市場における、創造的破壊のサイクルを考えると、価値のインターネットはすでに誕生しているが、まだ初期段階にあるというだけのことだ。

「メイストリームへの普及」というものが何を意味するにしても、そこへの移行はどのようなものになるだろうか?暗号資産決済という約束が、遅れてやってきた伝統的企業に吸収されてしまうだけになるのだろうか?

それとも、メインストリームへの普及というのは本当に、摩擦や、相互運用性の欠如が目立たなくなり、同時に国境もそれほど気にならなくなる、全国民規模でのピアツーピア決済を意味するのだろうか?

テクノロジーがすっかり目立たなくなる頃には、ブロックチェーンはこれまでに世界を変えた以上に、世界を変えているだろう。同様に、暗号資産決済は、国境を超えた支払いについての議論がなくなり、信頼できる参加者間の即時の価値の移動を可能にするものになるだろう。グローバル規模の低コスト決済ネットワークが整備される頃には、世界を変えているはずだ。

このような状態を実現するのは、どれほどの大きさでも、技術的に進んでいても、独自テクノロジーや政治的便宜のおかげで、規制や事業運営の面で守られていたとしても、1つの企業には不可能だ。

むしろ、世界中のインターネットに接続されたあらゆるデバイスを、暗号資産に対応する決済エンドポイントとすることの方が、世界で最も大切な技術的優先事項の1つとなるかもしれない。

このようなデバイスを結びつけようと取り組んでいるプロジェクトもあるが、未来の金融インフラとして、オープンソースイノベーションやパブリックブロックチェーンに専念して邁進を続けるプロジェクトもある。

暗号資産という賭けでロングポジションを取った人の数は、2億人を超える。今や、ステーブルコインでコーヒーを買うことのできる場所もあるのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Payments: When the Tech Fades to the Background