ゲームの小売販売を手がける米ゲームストップ(GameStop)が、振るわない事業モデルを転換し、NFTに参入することが、最終的に効果を生むか予測するのは不可能だ。
しかし、これは間違いなくパラダイムシフトの象徴ではある。NFT(ノン・ファンジブル・トークン)のおかげで、何千もの企業が成功を収めるかもしれないし、何千もの企業が行き詰まるかもしれない。
固有のデジタル資産であるNFTは、新時代のテクノロジースタンダートだ。仲介業者を排除することで、クリエーターとファンをより密接に結びつけてくれる。
そうなると企業は、この新しいNFTの世界のどこに収まるのだろうか?私の経験から言わせてもらうと、企業はまだそれを見極めようと模索中だ。「ソーシャルメディア戦略」と同じくらい、多様なNFT戦略が存在するのだ。
オープンシーやダッパー・ラボ、NFTプラットフォーム「オートグラフ(Autograph)」などの暗号資産ネイティブ企業は、NFTの未来について、もちろん楽観的だ。
しかし、新しいNFT音楽グループと契約し、Bored Ape Yacht ClubのNFTも購入したユニバーサル・ミュージックなど、伝統的メディア企業も同様に楽観的なのだ。
ユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)やクリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)などの伝統的タレントエージェンシーも、NFTプロジェクトと契約を結び、さらなる派生的アート作品を生み出すためにその知的財産を活用する方法を模索している。
つまり、大手企業はNFTに真剣に取り組んでいるのだ。もちろん、すべての企業とは言わない。しかし、10年前には存在しなかった資産クラスだったことから、人々はいまだに、NFTを理解しようとしている真っ最中なのだ。
デジタルエコノミーから利益を上げようと狙う企業にとって、テーマを決め、フレキシブルでいること以外に前進の道はない。独自のNFTプロジェクトを立ち上げるか、人気プロジェクトに便乗するかのどちらかで、企業はNFTエコシステムの成長への関わりにコミットしているのだ。
NFT分野が変化を続ける中、新しいプロジェクトが技術的限界を押し広げ、その真の力と潜在能力を世界に示し始めている。
新しい事業モデル
インターネット時代の他の多くのディスラプティブなテクノロジーと同様、NFTも他の人やブランドと関わる方法に変化をもたらしている。インターネットの全般的なトレンドは、より多くの選択肢、より多くの可能性、そしてより多くの所有権である。
この論理は、保有者がサポートする企業に対する権利を獲得できるようにするNFTの世界でも展開している。
NFTテクノロジーの力を押し上げ、トークン保有者とクリエーターの関係を強化するプロジェクトが、複数存在しているのだ。
ユガ・ラボ(Yuga Labs)という企業が管理する「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」のようなプロジェクトは、知的財産権を、買い手へと委譲している。買い手側は、所有している猿のイラストから映画を作りたければ、それも可能。所有権は買い手にあるからだ。
そのような新しい所有権モデルを活用しているNFTプロジェクトの1つが、「Jenkins the Valet」である。BAYCコミュニティのメンバーが最近立ち上げ、現在ではタリー・ラボ(Tally Labs)という企業が運営するこのプロジェクトのビジョンは、クラウドソーシングによる知的財産ライセンス供与シンジケートを作り出すことだ。
Jenkins the Valetは、BAYCの世界に存在するキャラクターである。BAYCは、史上最も成功を収めたNFTプロジェクトで、最近では、大手ベンチャーキャピタル企業アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が主導する資金調達ラウンドで、40億ドルを超える評価額をつけた。そこから派生したJenkinsは急速に、独自ブランドへと成長しているのだ。
ハリウッドでは、UTAやICMパートナーズのような伝統的企業が俳優、アーティスト、その他のタレントと契約を結び、映画やテレビなどの様々なメディアで代理人を務めている。
Jenkinsは、そのビジネスに新しいビジョンを提示している。タリー・ラボは、トークンベースの知的財産の使用許可を与える権利を保有者に付与する、6942個のNFTを販売。そのNFTを持つ6942人の保有者からの指示で、新しい知的財産を生み出すのだ。
「Jenkins the Valet」のクリエーターたちは、その新しく作られた知的財産を管理するために、ハリウッド有数のタレントエージェンシーCAAと契約を締結。ベストセラー作家のニール・ストラウス氏を雇って、その知的財産に基づいた本の執筆を依頼した。その本の印税は、コミュニティへと還元される。タリー・ラボは、ポッドキャストやその他のメディアへの進出も目論んでいる。
タリー・ラボがしていることは実質的には、Web3におけるタレントエージェンシーの創設だ。NFTを買うことで、誰もがエージェントになり、手持ちのNFTをライセンス供与したり、Jenkins the ValetのNFTではない価値のある他のNFT知的財産を所有する人たちと、契約をすることもできる。
エンターテイメント業界を真に揺さぶることができるのは、このようなコミュニティ間の協調であり、クリエイティブで相互に関係しているプロジェクトの広範な世界へと道が開けようとしている。
企業や一般の人々が、NFTから利益を得ようとしているのも不思議ではない。新しいプロジェクトがそれぞれ、エコノミー全体を強化する存在なのだ。収入を獲得し、ブランドを築いていくためのコストゼロの方法となり得る。
BAYCは奇跡的な成功を収め、このエコノミーを軌道に乗せたが、今ではコミュニティにさらに恩恵をもたらそうと、暗号資産を活用したさらなる実験を続けている。
BAYCは、ユーザーが保有するBAYCのNFTを使ってビデオゲームをプレイできるようなプレイトゥアーン(Play-to-Earn=プレーして稼ぐ)ゲームを開発中だ。さらに、保有者がさらなるプロダクトやアイテムと交換できるネイティブトークン、「ApeCoin(APE)」も立ち上げた。ApeCoinは、コインベースやFTXなどの取引所で現金化も可能だ。
BAYC保有者は、ApeCoinをエアドロップで受け取ることができ、中には10万ドルもの利益を上げた人もいた。BAYCは、真のファン(トークン保有者)だけがエアドロップを受けられるよう、所有権を検証・証明するために、スマートコントラクト内の情報を活用した。
NFTビジネスの未来
NFTの非許可型の性質は、ファンとクリエーターの関係に革命をもたらす可能性を秘めている。ファンがプロジェクトの経済的成功の分け前を受け取ることができるようにするからだ。言い換えれば、NFTは暗号資産 + カルチャー + 社会的ステータスを組み合わせたものなのだ。
NFTは単なるアートではなく、クリエーターがファンと金銭面で関係を持てる新しい手段である。事業をクラウドソーシングしたり、独立で音楽プロジェクトの代理人となったり、その可能性は多岐にわたる。クリエイティブなチャンスは、果てしないのだ。
ゲームアイテムをNFTとして発行する企業も出てくるかもしれない。そうなると、別の会社がそのアイテムを自社のゲームに組み込み、ユーザーが自分のバーチャルウォレットをゲームに接続できるようにして、ゲーム内にそのアイテムを持ち込めるようにすることもできるのだ。
クリエーターや起業家たちがブロックチェーンやNFTテクノロジーで実験を続ける中、先例を作る力によって価値が上がるような、ますます抽象的なプロジェクトが登場してくる可能性が高い。
NFT分野をフォローし続ければ、そのようなプロジェクトが実際に登場したときにしっかりと理解して、そこから生まれるチャンスを活かすのに良い立ち位置につくことができる。
アマゾンやイーベイがインターネットバブルから生まれたように、NFTでも同じようなことが起こるだろう。一時的ブームと低迷という波は、過酷かもしれないが、必ずしも市場の死を象徴する訳ではなく、花開こうとしている市場のサインでもあるのだ。
エリック・ラム(Eric Lam)氏は、ミラナ・ベンチャーズ(Mirana Ventures)のポートフォリオマネージャー。かつては、ユニバーサル・ミュージックのNFT戦略を担当していた。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:NFTs, the New ‘Social Media Playbook’