暗号資産はぜいたく品だ【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)界で人気の起業家サム・バンクマン-フリード氏は、ブルームバーグとの最新のインタビューが始まって20分ほどで、業界の実態を暴くような発言をした。

暗号資産は主にペテンだと言ったのだ。

「まず、どう始めるかというと、箱を作る会社から始める。その箱を、暮らしを一変させるような、38日か何かであらゆる大手銀行に取って代わる、世界を変えるようなプロトコルに見せかけるんだ。今のところは、実際に何をする箱なのかは無視して、あるいは何もしないということにしておいて。とにかく単なる箱なんだ」と、バンクマン-フリード氏は説明を始めた。

これは、ブルームバーグの金融担当記者からの、イールドファーミングに関する「洗練された」説明を求める質問に端を発したやり取りであった。

暗号資産、具体的には手持ちのトークンをさらに増やすプロセスである「イールドファーミング」は、トークンを発行したり、トークン発行に関する投票権を与えたり、エアドロップなどで将来的なリターンを約束する仕組みであふれている。

トークンを「箱」に入れて、トークンを取り出す、とバンクマン-フリード氏は表現した。しかも、誰でもそんな箱を自分で作ることができる。

もちろん、暗号資産は単なる空の箱ではない。経済活動が、中央集権的管理者の手を離れ、コミュニティ主体の仕組みへと転換される根本的な変革なのだ。開発者や起業家が、「市場の非効率性」やレントシーキング(利益のためにルールの変更を求める圧力)があると見る、あらゆる分野に影響を与える。

しかし、バンクマン-フリード氏の発言は、中身を伴わないものではない。暗号資産はブランディングや、人々がそれについて語るストーリーに包まれている。

イーサリアムが何のためのものなのか聞いてみれば、ブロックチェーンシティから、非銀行利用者層への銀行サービスの提供まで、あらゆる用途の可能性について、何百もの異なる答えが返ってくるだろう。しかし、バンクマン-フリード氏の金儲けマシーンとしての説明ほど、自己完結的で自明なものはほとんどない。

暗号資産についての見解の中でも、人々がもっと多くの時間を費やして考えるべきものが、少なくとも1つある。暗号資産は「ぜいたく品」というものだ。

資産を守ったり、移動させたりするために、発展途上国の人たちがビットコイン(BTC)を使っている話や、暗号資産によって反体制的な活動をしている人たちや、慈善活動のためにノン・ファンジブル・トークン(NFT)が使われていることについて伝えるストーリーは数多くあるが、暗号資産が自分の宣伝をするためや、個人的な金儲けに使われている事例も、何百と存在するのだ。

暗号資産は、それを使う多くの人にとって、必要不可欠なツールではなく、ライフスタイルや、特定のムーブメントや一連の思想との共鳴を表明するための方法である場合が多い。

暗号資産ユーザーは多くの場合、ブロックチェーンが一般公開された記録であるという性質を一因として、目立つ消費者であり、正しいアプリケーションや正しいコインを使うことを、より気にかけている。

ぜいたく

私は昨年、「暗号資産はぜいたく品だが、グッチはまだそのことに気づいていない」と題するブログ記事を投稿した。そのグッチが先日、一部のアメリカの店舗で、暗号資産での支払いを受け入れると発表した。その他の高級ブランドも、暗号資産の世界へと続々と進出している。

高級腕時計メーカーのウブロ、フランクミュラー、ノルケインなどが、暗号資産決済に対応。旅行代理店のTravala.com、自動車メーカーのテスラ、ヨット小売りを手がけるSuper Yachtsも同様だ。ルイ・ヴィトンやヘネシーなどを手がける高級ブランド複合企業LVMHは、製品の一部の真正性の確認に、ブロックチェーンを活用している。

このような例は他にもたくさんある。メタバースでの開発や、自社ブランドNFT発行を手がける企業も増えてきた。このような戦略はリスクはあるが、多くの人が暗号資産によってリッチになっており、彼らは暗号資産業界を支持するような事業をひいきにする可能性が高いという考え方に基づいている。

実際、ブルームバーグは、暗号資産ユーザーを住宅、旅行、高級サービスなどにおける強力な買い手として描く多くの記事を配信してきた。偽のインターネットマネーとも揶揄される暗号資産だが、お金には変わりないのだ。

しかし、暗号資産は、高級品を手に入れるための手段となるだけではない。それ自体が高級品なのだ。『Putting the Luxe Back in Luxury(ぜいたく品にぜいたくさを取り戻す)』の著者パメラ・N・ダンジガー(Pamela N. Danziger)氏は、ブランドを「高級」なものにする10の特徴を規定している。

それらの特徴は結局のところ、優越感や洗練された感じ、希少性や伝統、共有された思い込み、といったものに要約できる。これらの特徴は、生きるために必要ではないが、欲望の対象になるのだ。

市場アナリストは時に、デジタル資産をヴェブレン財(価格が高くなるほど需要が高まる品物)と呼ぶ。これは、知覚価値についてである。例えば、暗号資産ブームのサイクルにおいて、人気資産の値段が高まるにつれて、さらに多くの人が欲しがるといった状況が見られる。

もちろん、心理的な要素や市場の要素は他にも働いているが、6万ドルを超えていた頃の方が、今よりも多くの人がビットコインを買っていたことを、データも示している。

ポストモダン、脱工業化経済におけるぜいたく品を理解する上での問題は、あらゆるものが、突然流行する可能性があるという点だ。ぜいたく品の要は現在、ブランドの起源や伝統、職人技よりも、アイデンティティや憧れを示すシグナルであることになっている。

専門家の見解

ボストン・コンサルティング・グループのマイケル・J・シルバースタイン(Michael J. Silverstein)氏と、ボディケア用品小売バスアンドボティーワークス(Bath & Body Works)のCEO、ニール・フィスケ(Neil Fiske)氏は先日、このようなトレンドについて、マネジメント誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿している。

「大衆と上流階級の間のちょうど良い中間地点」にうまく収まる新しいタイプのぜいたく品が登場していると主張した。これらは「超高級品」ほど高くはないが、セール品よりもずっと高く売られているものだ。

「消費者たちは、自分が何者であるか、どんなものになりたいのかについてポジティブなメッセージを送れる製品や、日々のストレスと上手く付き合うのを助けてくれる製品を求めている」と2人は主張する。このような製品との「蜜月」は、主に「感情的」なものだと、説明した。

シルバースタイン氏とフィスケ氏によると、現代の新しいぜいたく品は、消費者の頭に入り込んで、仕事が多過ぎて、時間が足りないという苦しみを緩和して「あなたを大切にしてあげる」と約束するものや、新しい体験をもたらしたり、困難を克服させる冒険的なものがある。

あるいは、「他の人たちとつなげてあげる」と約束をしたり、成功していることを示し、「個性や個人的価値」を表明するために「洗練さと消費者が選んだ手段を使って」自己実現することを助けるのだ。

「ぜいたく品にお金をかけることは、公然とお金を燃やすような行為。他の人たちに、自分が本当にたくさんのお金を持っていると説得するのだ」と、ウォートン・スクールでマーケティングを教えるZ・ジョン・チャン(Z. John Zhang)教授とピナー・イルディリム(Pinar Yildirim)教授は語った。

2人が出した新しい著作『A Theory of Minimalist Luxury(ミニマリスト的ぜいたくの理論)』は、より多くの人がより多くのお金を持ち、偽ブランド品がかなり良質になった現代におけるヴェブレン財を再考するものだ。

ビットコインは、その価値がエネルギー消費と切り離せないという点で、ぜいたく品だ。市場とツールを提供するものでもあるが、消費されるエネルギーは根本的に、BTCというものが、望ましく価値のあるものだというメッセージを送る。暗号資産に関する知識や投資は、富が常にそうであったように、異性に対して魅力的だという研究もある。

ウォートン・スクールの教授たちはまた、偽造品や幅広い代替品という競合に直面している現在の高級ブランドが、自らのブランドを「可能な限り消費者に対してクリアで純粋なもの」に保たなければならないとも主張している。

これは、ビットコインマキシマリスト(ビットコインが唯一最高の暗号資産であると言う至上主義者)がBTCを他のコインと区別したり、競合のブロックチェーンを非難する理由を、説明してくれるものかもしれない。

さらにチャン教授とイルディリム教授は、多くの人にとって、パンデミックが「自らの価値を再考するチャンス」であったと指摘する。私たちがますます消費を控えていることを考えると、モノや社会を再考するこの時期が、お金そのものを再考する時となった人もいるのかもしれない。

暗号資産がぜいたく品であるという主張は、包括的なものではない。暗号資産は所属や富を示すものであると同時に、金融包摂のための強力なツールでもあるのだから。箱を開けてみて、中に何が入っているのかを確かめるための試みなのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Sorbis / Shutterstock.com
|原文:Crypto Is a Luxury Good