ビットコイン(BTC)は5日間にわたって続落し、価格は昨年7月以来の低水準に落ち込んだ。より広範な経済低迷の中、他の暗号資産(仮想通貨)も同様の状態だ。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、次のように伝えている。
「暗号資産は最近、より広範な証券市場と足並みを揃えて下落している。ビットコインやその他のデジタル資産が、証券と並んで値下がりするというトレンドは、ヘッジファンドやファミリーオフィスなどの伝統的資産運用組織が市場に進出にするに伴って、近年一段と目立つようになっていると、投資家らは語る。そのようなファンドは、ボラティリティが高い時期には、暗号資産を保有し続ける代わりに売却する可能性がより高い場合もある」
市場の変化
このようなまとめは、より広範な経済との関連における、暗号資産業界の状況の変化を示唆している。ビットコインやイーサリアムなどのパブリックブロックチェーンは、公開市場である。
インターネットが情報へのアクセスを誰にでも等しくし、ソーシャルメディアが社会ヒエラルキーを平らにしたのと同じように、パブリックブロックチェーンは、幅広い経済、文化活動を誰にでも開かれたものにするための、金融やコンピューターシステムにまつわる実験なのだ。
暗号資産はしばしば、個人投資家のための投資のように語られてきた。銀行や仲介業者、ロビンフッドのような投資アプリから事前の承認や諮問なくして、ビットコインを買うことが可能なのだ。実際に人々はそのようにしている。
小口投資家たちは、様々な戦略を持っている。ドルコスト平均法(「市場の頃合いを見計らう」のを避けるために、市場価格に関係なく、定期的に継続して投資する手法)を試す人もいる。ポンジ・スキームのようなメカニズムが始動する中、「好機を逃す」のを嫌って、焦って多額の投資をしてしまう人もいる。
しかし今や、暗号資産の世界にも大口投資家が存在する。市場を動かしたり、その動き次第でスリッページを生じさせることのできるような規模の資産を抱えた個人や組織である。
暗号資産ネイティブの大口投資家の例を挙げるなら、FTXのCEOサム・バンクマン-フリード氏が共同創業者となっているアラメダ・リサーチ(Alameda Research)や、ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、そしてベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreesen Horowitz)がある。
ある意味、暗号資産に関わっていない伝統的企業を挙げた方が早いかもしれない。特筆すべきところでは、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイは、暗号資産投資を考えてはいない。
市場の混迷と投資家の困惑
市場が低迷した時に、誰が最も損をするのかを見極めるのは、必ずしも簡単ではない。少なくとも私は、人々の退職や暮らしが資産と結びついていると思うと、経済を感傷的に見てしまう傾向がある。
だから、市場の「反発」も、単にお金が機械的に動いている現象というよりも、より個人的に捉えてしまうのだ。人々は結局のところ、不完全で矛盾したり、混乱させるような情報に基づいて、売買や保持の決定を下しているのだから。
しかし市場の混迷が、インフレ対策のために金利を上げようとする米連邦準備制度理事(FRB)の政策とつながっているのは明らかなようだ。
ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ジェフ・ソマー(Jeff Sommer)氏は、高利回りを求めてよりリスクの高い投資をするよう人々に促すために金利が低く抑えられていた、「イージー・マネー」な過去20年間を考えれば、利上げの方針は「驚くべき」だと主張する。
経済は現在、意図的に減速しているのだ。そして投資家は「どのように反応して良いか分からずにいる」とソマー氏は指摘。どちらの方向に事態が進むか不透明で、世界的なパンデミックやヨーロッパでの戦争、米中間の地政学的緊張関係の悪化、ロックダウンなど、どんなことが起こり得るか分からないために、戦略を立てるのはとりわけ難しくなっている。
ウォール・ストリート・ジャーナルでは、テック企業株の価格が60%上がり、暗号資産価格が天文学的なほどに高騰した2年間の値上がり傾向の後、価格が「パンデミック以前」と同じくらい、あるいはそれより低い水準に戻る可能性があると主張するアナリストの発言を引用している。
決断を下した人々
そうなると、経済を守るための決定がなされる中、自分の資産を守るための決断を下す必要がある。中には、極めて厳しい状況に置かれた人もいる。
大ブレークした暗号資産エコシステム「テラ(Terra)」の創設者ドー・クォン(Do Kwon)氏は、米ドルとの1対1のペグが破綻してしまった、リスクの高いアルゴリズムステーブルコイン「UST」を救おうと必死だ。テラでは、対策のために30億ドル相当のビットコインを購入し、USTの価格が0.61ドルまで下がる中、その大部分を売却するという驚きの動きに打って出た。
米ソフトウェア企業で、ビットコインへの多額の投資で知られるマイクロストラテジーのCEOマイケル・セイラー氏も、決断を下した。同社は2020年8月以降、平均価格3万700ドルで12万9000以上のBTCを購入し、それらの一部を担保に貸付を受け、さらにビットコインを買っていた。
ビットコインが購入時の価格を下回れば、セイラー氏にもビットコイン売却の理由ができるかもしれない。 しかし、セイラー氏は10日、決して売却はしないと表明した。ビットコイナーたちの合言葉「hodl(長期保有)」との言葉を使っていたが、その背景には、供給量に上限のあるBTCに対して、長期的にはあらゆる資産の価値が下がっていくという考えがある。
親愛なる読者の皆さんも、決断を下さなければならないかもしれない。何をするべきか、必ずしもはっきりとしないかもしれないし、あなたの経済事情が今どうなっているのか、景気が悪化したら、それがどのようになるのかは、誰にも分からない。ソマー氏が指摘した通り、「現在の状況は、普通とはほど遠い」のだ。
ソマー氏は、他と同様に打撃を受けているが、歴史的には安全な戦略となってきた、「市場全体と連動した、広く分散化されたインデックスファンド」に投資している。
市場コメンテーターのリリー・フランカス(Lily Francus)氏は、暗号資産が今のところテック株と並んで値動きをしていたとしても、デジタル資産は根本的に異なっていると指摘する。配当金や、将来的なキャッシュフローをもたらさないからだ。
暗号資産は基本的に、リスクが体現化されたもので、人々の願望や恐怖に基づいて動く流動的なサインなのだ。そのため、人々の願望や恐怖に応じて、値動きする可能性があると、フランカス氏は語った。値動きの方向は、市場と同じくらい自由で、開かれたものだ。
あまり賢いアドバイスのように見えないかもしれないが、あらゆるものが混沌として、手に負えなくなっているように見える現状では、何を保持するかを吟味する価値はある。他の人たちのために決断をしてあげることも、FRBの政策を変えることもできないが、確信を持って行動することはできるのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Is Down, but You Don’t Have to Be