タイの大手銀行であるサイアム商業銀行(Siam Commercial Bank:SCB)は、分散型金融(DeFi)プロジェクト「Compound(コンパウンド)の機関投資家向けサービス「Compound Treasury」を使って利回り獲得を目指す。2020年初めに設立された同行のデジタルベンチャー子会社「SCB 10X」が、Compound Treasuryに資金を預け入れるという。
Compound Treasuryは、米ドルをCompoundでステーブルコインのUSDコイン(USDC)に換えて運用し、機関投資家に年4%の利回りを提供する。SCB 10Xの預け入れ額は明らかにされていない。今月初めのS&PグローバルによるCompound Treasuryの格付けによると「4月末時点で顧客はわずか20社、預かり金額は1億8000万ドル」。
銀行をはじめとする機関投資家は、DeFiに注目しており、Compound TreasuryやAave Arcなどが機関投資家向けサービスを提供している。
SCB 10Xは暗号資産分野への投資家でもあり、インフラ構築にも携わっている。DeFiの利用については、2021年7月から検討してきたと最高投資責任者ムカヤ・タイ・パニック(Mukaya Tai Panich)氏は述べた。
「我々は投資家や開発者であるのみならず、このようなディスラプティブなテクノロジーを取り入れ、特に銀行内で利用したいと考えている。我々は、Compoundはきわめてわかりやすい認可プロダクトを開発したと考えている。米ドルを投資し、米ドルで4%の固定金利を受け取るので、機関投資家は暗号資産の取り扱いについて心配する必要はない」
元本保証の問題
SCBの取締役会や、リスクを回避したがる財務管理チームに、DeFiへの参入を納得させることは大変なことだったとパニック氏は述べた。大きな問題は、元本保証だったという。
パニック氏は、CompoundのCEO、ロバート・レシュナー(Robert Leshner)氏と銀行側の要求について協議を続けてきた。
「我々は元本保証についてCompoundと協議した。元本保証は銀行の財務管理チームからの要望であり、当初、Compoundは元本保証を受け入れなかった。だが驚いたことに数カ月後に元本保証を提供してくれた」(パニック氏)
セキュリティとコンプライアンスについては、Compound Treasuryと連携している暗号資産カストディ会社ファイヤーブロックス(Fireblocks)が提供する。
「DeFiを利用する大規模機関投資家は増えている。我々は、Compound TreasuryやAave Arcといったサービスは、間違いなく、機関投資家がDeFiを快適に利用するための足がかりになると考えている。SCBが常にイノベーションの最前線にあり、前進していることを歓迎している」とファイヤーブロックスのCEO、マイケル・シャウロ(Michael Shaulov)氏は語った。
テラ崩壊は明るい兆し
SCBのパニック氏は、今回の動きは間違いなく「機関投資家向けDeFi」における重要なステップだが、テラ(Terra)ブロックチェーンのステーブルコインTerraUSD(UST)とレンディングプロトコルAnchorの崩壊によって、最近の状況は悪化していると述べた(SCB 10XはAnchorのシードラウンドに投資していた)。
「このような事態が起きたことは非常に残念。だが、規制当局や取締役、経営トップレベルの人々の教育は、数年分加速した。だから、明るい兆しと考えている」とパニック氏は語った。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
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|原文:Siam Commercial Bank Is Chasing DeFi Yield Through Compound