何百万台ものスマートフォンのカメラが日々、ロシアのウクライナ侵略の恐ろしさを私たちに伝えてくれる。一般市民がソーシャルメディアやメッセージアプリを通じて、残酷な写真や動画を投稿。それを見て、戦争犯罪者の責任を追求する声が高まる。
そのような投稿はどれほど説得力があり、明白に見えるものだとしても、裁判において証拠として採用される保証はない。
デジタルな証拠の信憑性
これらのデジタルデータがカメラのレンズから裁判官の前に提示されるまでにたどる旅路は複雑で長く、多くの場合リスクにあふれている。デジタルメディアを改変するツールは、そのデータを捉えるのに使われるデバイスと同じくらい使いやすく、ありふれたものだ。
「フェイクニュース」時代におけるデジタルメディアへの信頼の崩壊に伴って、司法手続きの場も、インターネットが直面する実存的問題を免れることはできない。
デジタルプラットフォームに対して私たちが抱える無理もない不信感によって、デジタルの証拠の足元は揺らいでいる。私たちは多くの場合、目にするものをそのまま信じることはない。そして犯罪者たちは、私たちの懐疑心を武器としている。10年におよぶサイバー戦争の、悲しい結末なのだ。
デジタルに対する信頼をリセットする必要があるのは明らかだ。ありがたいことに、成熟したウェブ3テクノロジーの登場によって、実現可能なソリューションの可能性が見えるようになってきている。
暗号資産(仮想通貨)の世界に充満する盛り上がりや論争とは遠いところで、デジタルデータの完全性に対する、技術的、規範的、法的理解を確立するためのチャンスとして、ブロックチェーンや分散型台帳などのツールの成熟が見られる。
ウクライナにおける戦争犯罪の記録は、このようなウェブ3テクノロジーが、その出所を明らかにし、プライバシーを確保することによって、変更不可能な記録の管理を可能にすることを明らかにしている。
ウェブ3テクノロジーの力
オープンソースツールとベストプラクティスを用いて、私たちスターリング・ラボ(Staring Lab)では、ウクライナ発のデジタル記録に対する信頼を確立するための技術的、倫理的課題を克服するために、デジタルコンテンツを安全に捉え、保管、検証するためのフレームワークを開発している。
私たちの新たなワークフローは、レイヤー1とレイヤー2のプロトコル、NFT、安全なハードウェアウォレットをシームレスに統合し、デジタル証拠を保管できる、エンドツーエンドで変更不可能なウェブ3ソリューションを生み出すものだ。
これらの要素は実質的に、デジタルの世界における信憑性の新たな構成要素となる。これらを組み合わせると、新しく安全なデジタルプロトコルでソリューションを生み出す力を、ウェブ3がエンドユーザーに与えることのできるパワフルな一例となってくれる。
基盤となるテクノロジーは複雑なものだが、この枠組みの目指すところはシンプルだ。
・キャプチャー:デジタルコンテンツとそのメタデータを、記録された時点で登録、封印する。
・保管:暗号化技術によってコンテンツを管理し、分散型ネットワーク上で保管する。
・検証:コンテンツを評価、監査する専門家による認証を記録する。
私たちのソリューションはすでに、メッセージアプリ、ソーシャルメディア、ウェブサイト発の、戦争犯罪を記録するオープンソースの数多くの情報記録を暗号化技術によって検証、保管し、ファクトチェッカーの分析の変更不可能な記録も作っている。
このような次世代のテクノロジーにインターフェイスを提供することで、厳しいサイバー戦争のさなかに証拠を受け入れるという、裁判所の抱える問題を解決する手助けをし、台頭するデジタルの脅威に先手を打てるよう願っている。
確かに、するべき仕事はまだまだ数多く残っている。裁判所も、助けが必要だと認めている。ウクライナでの戦争責任追及のためには、迅速な対応と、忍耐の両方が必要だ。司法手続きは多くのエリアに渡り、数十年も続く可能性があるからだ。
責任追及に長期的に関わるために、私たちは多くの課題に立ち向かうだけでなく、技術の面で理解の進まない問題も予測しなければならない。すべての利害関係者たちが、この困難に立ち向かうために立ち上がり、ロードマップをよりはやく進め、裁判所が時代遅れのプロトコルをアップデートするよう後押ししてくれるだろうと信じている。
最先端のテクノロジーや方法が、新しく理解され、ウクライナをはじめとするデジタル時代における責任追及のための持続的なソリューションとして安全に採用されることのできる、貴重な時なのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Trustless Evidence: Web 3 Is Helping Document War Crimes in Ukraine