暗号資産(仮想通貨)セクターはしばしば、金融犯罪との戦いにおける最大の弱点と批判される。さらに、金融の安定性にリスクを与えたり、サイバーセキュリティに対する自由放任的態度によって、投資家を危険にさらすと非難される。
しかし、暗号資産エコシステムとつながった違法行為をよく見てみると、そんな批判の不正確さが浮き彫りとなってくる。
暗号資産が、ダークネット上で麻薬や違法商品取引に利用される決済手段であることは確かだが、警察による監視の強化に伴って、そのような闇市場は縮小している。
規制を受けていない暗号資産取引所は、国家が正式の金融システムにおける制裁を迂回するための手段として機能し続けている。アメリカの裁判所は先日、国際的な制裁のもとで禁じられていた約1000万ドルの処理に、暗号資産取引所が果たした役割を明かす意見書を発表したばかりだ。
暗号資産分析テクノロジーの発展により、犯罪者が資金を清算することは困難になっている。取引所ビットフィネックスのハッキング事件に関連するとして回収された36億ドルに比べれば、1000万ドルはわずかな額だ。違法な資金を大規模にロンダリングするためには、それほど複雑ではない確立された方法が他にも存在する。
暗号資産が受ける非難は、時には正当だが、多くの場合はいわれのないものだ。ここ数カ月で暗号資産業界は、非軍事的物資の調達や人道支援のためのウクライナ向けの寄付集めを可能にしたことで、その評判を高めている。さらにアフガニスタンでも、戦火で荒廃した同国の公式な金融セクターが、実質的に停止状態に陥っている中でも、支援を可能にしているのだ。
財産を守る
発展途上国においては、より多くの人が政府による制限や、不法な没収から自らの資産を守るために、暗号資産を活用している。NFT(ノン・ファンジブル・トークン)などのウェブ3の要素は、同意による所有権を可能にする暗号化ソリューションを活用することによって、オンラインでの性的搾取の被害者を含め、社会から取り残された人たちをサポートできる可能性を提供するのだ。
急成長を遂げる、健全で倫理的な暗号資産業界は、有害な行為を防止し、もしかしたら、一般の人たちや政府の考え方も変えることができるかもしれない。
その方向への第一歩として、ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)による推計を参考にできる。チェイナリシスは今年、違法ウォレットの関わった取引は、昨年の暗号資産取引全体のわずか0.15%に過ぎなかったと発表した。それでも、懐疑心は広く残ったままで、機械学習や予測分析は、違法行為を解決する万能薬にはならない。
一連の信じられないようなNFTの「ラグプル(資金持ち逃げ詐欺)」や、ほとんど公然と行われる市場操縦の企みはひとまず横に置いておこう。金融犯罪は、その他の規制を受けた行為ほどは一般的ではなく、大いに検知可能で、そのために予防可能だと考える理由が複数存在する。
例えば、ブロックチェーン分析は伝統的金融よりもすばやく犯罪に関わった人たちを暴くことができる。ブロックチェーンが存在していれば、ウォーターゲート事件をもっと早期に解決したり、バーナード・マドフによるネズミ講をもっと早くに止められていたかもしれないと言っても過言ではないだろう。
警察当局、諜報機関、政策決定者、民間セクターは、金融犯罪と戦う大切なエコシステムの一部だ。システム全体で協力すれば、暗号資産セクターがリーダー的役割を担うことも可能である。
コンプライアンス優先
根強い不信感をどのように和らげることができるだろうか?早期に改善をして成果を出せる分野が、いくつか思い浮かぶ。
金融犯罪との戦いは、暗号資産セクター内でのコンプライアンス重視型文化の採用から始まる。暗号資産企業の運営の根本的柱としてコンプライアンスを優先することで、規制当局、警察、伝統的金融の世界における認識を変える一助となれるのだ。
しかし、組織内のあらゆるレベルで賛同を得る必要があり、これは上層部の強力な態度が支えることになる。「クリプトブロ(独善的で横柄な態度を持つ熱心な暗号資産支持者)」的な雰囲気や、倫理よりも利益優先な文化から、暗号資産セクターのイメージを切り離し、改善することも大切だ。分散化に関する哲学的論争では、規制当局の期待に沿うことはできないのだ。
組織全体でのコンプライアンス重視の姿勢無くしては、最高のシステム、ポリシー、統制は押し流され、違法な資金がシステムに入り込むリスクが高まる。暗号資産業界は、内部でベストプラクティスを提唱・推進するのに良い立ち位置にあり、そこには、より広範な世界での懸念を和らげるというおまけもついてくる。
暗号資産組織は、自らのコミットメントを証明するための実用的なソリューションを積極的に探すべきだ。暗号資産セクターには、暗号資産テクノロジーが可能にする金融犯罪が及ぼす個人、社会へのダメージに全力で立ち向かうチャンスがあるのだ。
単純に言えばこれはつまり、トレーニングや認識の醸成、金融犯罪の脅威の理解、業界規格を開発するための取り組みによって実現する文化の変容である。
暗号資産ミキサーやプライバシーコインに対処するためのポリシー(そして極めて大切な超えてはいけない一線)を大まかに定めた、セクター全体に及ぶ強力な意思表示から始めるのが良いだろう。
さらに、銀行と情報をシェアするチャンスについても検討するべきだ。これには、規制当局からの支援や、確立された官民パートナーシップが必要となるだろう。暗号資産サービス提供業者は、米国愛国者法によって可能となる、強制力のない情報開示を試すパイロットプロジェクトを立ち上げることで、それに報いることができる。
警察との共同トレーニングのためのサンドボックス環境では、捜査が暗号資産の分野へと及んだときに何が起こるべきかを取り決めることができるかもしれない。このアプローチは、技術的課題の解決、社内でのアンチマネーロンダリング統制の確立、ランサムウェアなどの損失の大きい脅威に対する業界としての対応などに役立つだろう。
ブロックチェーンの変更不可能性、内在するトレーサビリティ、そして、合法なコインを二重支払いしようとする違法な取り組みに対抗できる分散型台帳など、暗号資産に元来備わった強みを考えてみよう。
伝統的金融犯罪が繰り返されることとは対照的に、これらの内蔵された長所を思えば幸先は良い。善意を持って取り組めば、早期の改善による成果が、信頼の橋の基盤となってくれるだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Can Overcome Its Reputation as a Weak Link in Financial Crime. Here’s How