「ステーキングされたイーサ」と呼ばれるトークンが突如、デジタル資産市場を見守る暗号資産(仮想通貨)トレーダーの注目の的となっている。
窮地に陥ったレンディング大手のセルシウス(Celsius)から、ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、業界の大物サム・バンクマン-フリード氏率いるアラメダ・リサーチ(Alameda Research)まで、重要プレイヤーたちが続々と、スーテキングされたイーサを売却しているのだ。
ここで鍵となる指標は、ステーキングされたイーサ(stETH)の価格が、イーサリアムのネイティブトークン、イーサ(ETH)と比べてどれほど割安になっているかを示す、割引率だ。stETHは、リド・ファイナンス(Lido Finance)プロトコルが手がけるトークンで、イーサ価格に近い値で取引されることになっている。
デューン・アナリティクス(Dune Analytics)によれば、この割引率は13日、記録的な8%という水準まで急上昇した。
暗号資産のマーケットメーカーやレンディング企業などが、引き出しやマージンコールに対応するために、保有するstETHを売却せざるを得なくなっているのではと、アナリストらはみている。
ステーキングされたイーサは、分散型金融(DeFi)プラットフォームのリド・ファイナンスが、イーサリアム2.0の先行的なプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーン「ビーコンチェーン(Beacon Chain)」にイーサをステーキングしているトレーダーに流動性を提供するための方法として考案された。
PoSシステムへの参加者は、取引処理をサポートするために、手持ちのトークンを一定期間ロックアップしなければならない。その見返りに、暗号資産で報酬をもらえるのだ。しかし、ロックアップ期間中も、預け入れたイーサの代わりにstETHを受け取って、取引を続けることができる。
リドは、イーサリアムのステーキングエコシステムを席巻している。ステーキングされたイーサの約3分の1を、リドが預かっているのだ。ゴールドマン・サックスは5月、そのような寡占状態が「理論的にはシステミックリスクを増大する可能性」を指摘。リドが暗号資産市場と、相互につながっているからだ。
大口保有者による売却
ブロックチェーン分析企業ナンセン(Nansen)のポートフォリオトラッカー、エイプ・ボード(Ape Board)によれば、「極端な市場状況」を理由に先週末引き出しを一時停止して以来、注目の集まるレンディング大手セルシウス(Celsius)は、当記事執筆時点の価格で約4億7000万ドル相当の40万9260stETHを保有している。
暗号資産取引所フォビのリサーチ部門フォビ・リサーチ・インスティチュート(Huobi Research Institute)のアナリスト、ジョニー・ルーイ(Johnny Louey)氏とアンディ・フー(Andy Hoo)氏は14日、レポートの中で、セルシウスがステーキングプラットフォームのステークハウンド(Stakehound)にstETHをステーキングし、ステークハウンドが秘密鍵を紛失したために、7100万ドル近い損失を被ったと指摘した。
セルシウスユーザーは、1週間に約5万ETHのペースで急速な換金を始め、セルシウスは流動性をかき集めようと必死になっていたと、アナリストらは説明した。
「セルシウスはstETHを売却して、顧客のリクエストに応えるために市場のETHを購入することができる」と、暗号資産マーケットメーカー、ジェネシス(Genesisi)のノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は指摘した。
暗号資産市場がステーブルコインUSTの暴落とテラブロックチェーンの破綻に混乱する中、stETHの割引率は先月、高まり始めた。それ以降、stETHはおおむね2〜3%の割引率で取引されていたが、USTがデススパイラルに陥った5月12日には、割引率は5%にまで上昇した。
stETHの時価総額は5月初めの100億ドルから40億ドルまで減少。イーサ価格が暴落するに伴って、保有者たちがステーキングプラットフォームから退散したのが原因だ。
シンガポールにある投資企業スリー・アローズ・キャピタルは、テラブロックチェーンの最大の投資元の1つであったが、5月になってプロトコルのカーブ(Curve)から4億ドル相当近いstETHとETHを引き出したと、ナンセンのアナリスト、アンドリュー・サーマン(Andrew Thurman)氏は指摘した。
スリー・アローズ・キャピタルは、「ここ数週間、stETHポジションの取り扱いにおいて、オンチェーンコミュニティの注目を集めている」と、サーマン氏は説明する。
ナンセンのデータによれば、スリー・アローズ・キャピタルのウォレットは14日、分散型レンディングプロコトルのアーベ(Aave)から8万stETHを引き出し、2回の取引で、3万8900stETH(約4500万ドル相当)を、5.6〜5.9%の割引率でイーサに換えた。
この動きは、スリー・アローズ・キャピタルが財政上の問題を抱えているかもしれないとの噂がツイッターで広まった後のことであった。
スリー・アローズ・キャピタルの担当者は、コメントの求めに応じていない。
人気暗号資産トレーダーHsakaのツイートによれば、暗号資産取引所FTXの創業者兼CEOサム・バンクマン-フリード氏が率いる大手投資会社アラメダも先週、当時約8800ドル相当の5万615stETHを売却した。
流動性
stETHが割安で取引されているもう1つの理由は、ステーキングされたイーサの相対的な流動性の低さだと、アチェソン氏は指摘する。
投資家は、世界中の金融市場が、中央銀行によるインフレ対策としての利上げへの反応として低迷する中、暗号資産などのリスクの高い資産から退却している。
そのために暗号資産プラットフォームは、顧客からの換金リクエストに応えるために厳しい状況に置かれているのだ。同時に投資家は現在、より流動性のある資産を保有することを好むようになっている。
stETHの1日の取引高は数十万ドル単位。一方、ETHの取引高は数十億単位。そこで流動性のより低いstETHの価格が、売り圧力に一段と敏感になっているのだ。大物プレイヤーが保有資産を売る必要がある場合には、買い手をあまり見つけられず、stETHの価格が押し下げられている。
「短期的には、stETHは大きな売り圧力に直面するだろう」と、フォビ・リサーチ・インスティチュートのレポートは指摘し、「近い将来には、混乱が予想される」と締めくくった。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:‘Staked Ether’ Becomes Focus of Crypto Stress, From Celsius to Three Arrows