暗号資産(仮想通貨)業界が、自分たちの儲けだけでなく、メインストリームへの普及を大切に思うなら、より多くの人たちの心に響くような暗号資産や、ブロックチェーンの有益な社会的用途を示す必要がある。
現実を直視しよう。大手暗号資産レンディングプロトコルの相次ぐ破綻や、ビットコイン(BTC)、イーサ(ETH)、その他のトークンの暴落によって、暗号資産の主要な価値提案はこれまでのところ、「値上がりを続ける」という見込みに投機するためのチャンスであったことが、証明されてしまっているのだ。
未来の市場の仕組みのモデルとして、分散型金融(DeFi)はより公平な金融システムの可能性を期待させてくれる。
しかし、DeFiが提供する高い利回りは、暗号資産の借入と貸付に対する需要に突き動かされていた。そして暗号資産の借入と貸付に対する需要の方は、基盤となるトークン市場の裁定取引のチャンスに依存していた。
暗号資産による短期間でのリターンの期待が弱まる中、これらの市場における活動も減少し、裁定取引トレーダーたちは撤退、イールドファーミングは冷え込んでいくだろう。
イールドファーミングは、貸付(レンディング)などのDeFiサービスに暗号資産を預けて、流動性を提供することで金利や手数料収入が得られるサービスのこと。
現在の課題は、DeFiの利回りを維持する基盤となるような、長期的に継続できる意義あるリターンを生み出す、実世界でのユースケースを見つけることだ。
そのための出発点は、中央集権的な仕組みが明らかな弊害となっている非金融市場を特定すること。そのような市場を分散化することは、必ずしも暗号資産やブロックチェーンのユースケースを生み出すわけではないが、その有用性の論拠は、一段と強力なものになるはずだ。
私の考えでは、とりわけ中央集権化が大きな問題となっており、社会へのコストも自明、さらにコストが上がり続けている業界が1つある。エネルギー業界だ。
中央集権化されたエネルギーのコスト
石油および天然ガス市場における、最近の混乱の影響を考えてみよう。
世界は石油に過度に依存しており、その供給量が変化し、その結果として価格が変動することが、グローバル経済の健全性を左右するほどなのだ。さらに、エネルギー業界は極めて中央集権化されており、世界の埋蔵原油の大半がいくつかの権威主義国家に偏在。依存、ボトルネック、深刻な政治的脆弱性を生み出している。
そのような原油・天然ガスの産出国の1つロシアが2月、ウクライナに侵略。欧米諸国はすぐさま石油輸出に制裁を課し、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)原油価格は、40%も高騰し、1バレル120ドルほどになった。
それによってガソリンやその他の石油派生商品の価格も高騰し、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げも相まって、景気後退への流れが加速した。アナリストらが需要の減少を予測する中、そのような激しい変動の影響は今週、一時的に100ドルを割った原油価格に表れていた。
同様に、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国のロシア産天然ガスへの依存も、天然ガスおよびその輸送可能なバージョンであるLNG(液化天然ガス)の価格を、昨年と比べて700%も高騰させている。さらに、天然ガス不足によって、ヨーロッパ大陸の電力供給の大半も脅かされているのだ。
ウクライナでの戦争に加え、エネルギー業界の中央集権化されたボトルネックには、他にも多くの脆弱性がある。
昨年のコロニアル・パイプラインの操業停止を覚えているだろうか?6000万人に石油を提供していたパイプラインに対し、ハッカーは大きな影響力を握ることに成功。同社は多額の身代金を払うことを余儀なくされた。
あるいは、2017年のハリケーン・マリアを思い出してほしい。このハリケーンによって、プエルトリコの燃料油に依存した発電所から電力を運ぶ高電圧送電線がいくつも破壊され、再生可能エネルギーの可能性を大いに秘めたこの島は、何カ月も電力を失った。
電力システム設計者たちが「冗長性」の不在と呼ぶ、このような外部要因に対する脆弱性は、気候変動と同じくらい、再生可能エネルギーを支持する大きな理由なのだ。
私たちは、エネルギーモデルの分散化を切実に必要としている。太陽光、地熱、風力などの再生可能エネルギーがその答えとなるのは、地元で調達でき、単独住居用の太陽電池パネルから、巨大風力発電ファームまで、幅広い規模で機能するからだ。
暗号資産の役割
エネルギーシステムを分散化させることは必ずしも、分散化された通貨システムや、ブロックチェーン基盤の取引・データ記録システムの必要性を伴わない。しかし、暗号資産はそのようなシステムにぴったりであり、何年もかけて、暗号資産が有用となる様々な方法が考案されてきた。
まず、世界の広範囲に太陽光、地熱、風力発電を広める過程において、世界の多くの地域で、インフラ設置のために必要な伝統的な資金源にアクセスできないという問題に直面する。
そのような問題の解決策の1つは、ビットコインマイナーを招いて、プロジェクト開発の費用を負担してもらうことだ。Griidなどの企業が、再生可能エネルギープロジェクト開発者とマイナーの関係構築の第一線で活躍している。
テスラ、米決済サービス大手のブロック、ブロックチェーン技術開発を手がけるブロックストリームが主導するテキサス州でのプロジェクトでは、マイニングと太陽光発電を大規模に組み合わせられることが実証されそうだ。
一方、オーストラリアのSunifiedが手がけるようなスマートチップを太陽光発電パネルに組み込めば、ブロックチェーン環境で記録されると、取引可能なデジタル資産に変換できるような、証明可能なデータを生成できる。
そのようなDeFi資産を、ESG(環境、社会、ガバナンス)における責任を果たそうとする機関投資家が利用することで、気候変動に対処するのに必要な何兆ドルもの投資を解き放つのに役立つ、カーボンニュートラルな資産の流動性ある市場を発展させることができる。
暗号資産がプラスの変化の原動力となれると信じている人は、まだ何百万人もいる。この暗号資産の冬を使って、機能不全を起こしたエネルギーシステムにおける取り組みを手始めにして、それが本当だということを証明していこう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Need a Use Case for Decentralization? Start With Energy