米労働統計局は先週、6月のインフレ率を示す消費者物価指数(CPI)を発表したが、その数字は、あまり好ましいものではなかった。プレスリリースによれば、「ここ12カ月間で、総合消費者物価指数は季節調整前の数字で9.1%上昇した」のだ。
つまりあなたがアメリカ人で、ここ1年で9.1%の賃上げを享受していない限り(大半の人がそうだ)、あらゆる品物がより割高になったということだ。さらに詳しく見てみると、本当に重要な食品やエネルギーなどでは、一段とインフレが加速したことがわかる。食品価格は10.4%、エネルギー価格は41.6%上昇したのだ。
これはもちろん、昔からのインフレヘッジ資産、金(ゴールド)の価格も上がったことを意味するはずだ。しかし、そうはならなかった。そしてビットコイン価格は値上がり。さらにユーロはいまや、ドル連動型ステーブルコインのようだ。どうなっているのか?
早速紐解いていこう。
ちなみにこの記事では、私の個人的意見を遠慮せずに主張していくことになる。インフレに本当に頭にきているからだ。しかし、ギリシャ人移民の息子として、ユーロにも苛立っている。そして金融資産としてのゴールドというのが、理解できない。さらに、私はビットコインが本当に好きなのだ。
ここ最近、これらのことについて多くが語られてきたので、私も色々と興奮してしまっているのだ。
インフレは「良いもの」ではないし「必要」でもない
「インフレは良いものだ」と、Google検索してみてほしい。このような主張をする記事が、実際に複数発表されているのだ。
それも真剣な記事だ。
インフレは債務者に有利だから、というのがその理由だ。それは理解できる。10万ドルのローンがあった場合、物価が上がってもその10万ドルは調整されない。10万ドルのままだ。つまりその10万ドルが、固定金利の30年住宅ローンだった場合、債務の負担は軽減されるのだ。
もちろんこれは、値上がりしたピザに見合うのに十分なくらい賃金も上がったというのが前提だ。ちなみにアメリカでは、賃金の上げ幅はおおむね、十分なものにはなっていない。ということは、インフレは住宅ローン負担にとっては朗報かもしれないが、ガソリンスタンドで支払っている40%増しの料金や、10%割高のピザにも見合うほどなのだろうか?
「インフレは必要なものだ」。こちらもGoogle検索して欲しい。記事がたくさん出てくるはずだ。
どれも真面目な記事が。
インフレが必要という議論の要点は、貨幣の時間価値を考慮すると、長期的に価値が下がるのではなく上がるデフレ的通貨は、過剰な貯蓄(貯め込み)と支出不足を引き起こすというもの。貨幣の時間価値というのは、金融の中核的考え方で、ドルは収益を上げる可能性を持つために、「今日の1ドルは、明日には1ドル以上の価値がある」のだ。
しかしそれは、机上の世界での話。実世界では、貯蓄することはまったく悪いことではない。そして、これは誰にとってもわかりきった話のはずであるが、人々がモノを買うのは(1)必要だから、あるいは(2)欲しいからである。
暗黙のうちに貨幣の時間価値を計算しているかもしれないが、ピザにトッピングするかどうかを巡って、金融電卓を叩いている人などいない。
インフレヘッジ?
30年固定金利住宅ローンが効果的なインフレヘッジであるというのは、理論的にはかなり良くできた主張だ。一般的には、ゴールドが究極のインフレヘッジということになっている。ゴールドは何千年も通貨として使われており、比較的希少だ。より多くのゴールドを生産するのも困難だ。つまりインフレ率が高い時には、ゴールドがそれに呼応して値上がりすることが見込める。
しかし今では、ビットコインというゴールド2.0が存在する。6月のCPI発表以降の、両者の値動きを見てみよう。
ビットコインがゴールドのお株を奪ったようだ。
これはな選り好みした非常に短い期間であることはわかっているが、それでもかなり重大なデータだ。ビットコインはついに、ゴールド2.0としての役割を果たしている。ビットコインは本当に、インフレヘッジになれるのかもしれないのだ。
最新ドル連動型ステーブルコイン:ユーロ
先週、ユーロが20年ぶりに米ドルとのパリティ(等価)を記録した。ジェネシス・グローバル・トレーディング(Genesis Global Trading)のノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏は先日、ビットコインは「ここ数年、ドルインデックスとは逆の相関関係を持ってきた」と述べたが、その傾向はこれまでのところ、今年も健在だ。
ドルインデックスは極めて好調(12.3%アップ)であるが、ドルに対するユーロは不調(10.8%マイナス)で、ビットコインはさらに不調(56.1%マイナス)だ。
EUの政治的協議を行うトロイカ(EUの現、次期議長国、EU理事会事務局、欧州委員会)とユーロに対する私のネガティブな偏見や暗号資産は脇に置いておいたとしても、ユーロ安、迫り来るガソリン不足、エネルギー価格の高騰、差し迫る景気後退に直面する欧州中央銀行がどんな手を打つかは注目だ。ユーロ圏における困難な時期は、他の地域における困難な時期を生むかもしれないのだから。
ビットコインや暗号資産の先行きは?
ありがた(くな)いことに、時は2022年だ。2022年には、ビットコインは真のマクロ資産である。つまり、広範な経済に起こっているあらゆることが、ビットコインにも影響を与えるのだ。景気がさらに悪化すれば、暗号資産における困難な時期は、一段と困難な時期になるかもしれない。
もちろん、ビットコインは現行の金融システムを抜け出し、インフレや運営の不適切な通貨共同体から逃れる方法となるかもしれない。しかし今のところ、すべてはつながっているのだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Bitcoin’s Up, Gold’s Down, the Euro Is Dragging – and It’s All Inexorably Tied