暗号資産(仮想通貨)がスポーツ広告の世界において、最も急速に成長しているスポンサー分野であるのには理由がある。
暗号資産業界は世界中のリーグ、チーム、アスリートに莫大な価値をもたらすのだ。それに対してリーグ、チーム、プロアスリートたちは、Z世代やミレニアル世代など、より若い人たちとつながろうとしている。この世代は、スポーツ業界にとっては捕まえにくいが極めて重要な層で、暗号資産は彼らの心を確実に捕らえているのだ。
このため、スポーツと暗号資産のタイアップは、双方に利益のあるものとなる。
ファンがいるところに声を届ける
スポーツのスポンサーシップは、世界中で400億ドル(約5.5兆円)規模の業界となっている。30億ドル以上がここ1年だけでスポーツスポンサーシップに使われており、暗号資産企業によるものはますます多くなっている。
ターゲット層が重なるというのは自明ではないかもしれないが、暗号資産ブランドは広大な影響力の届く範囲を持つスポーツ業界の力を使って、比較的新しい自分たちの業界に対する認識を高めようとしている。
サム・バンクマン・フリード氏率いる暗号資産取引所FTXのロゴを米メジャーリーグのアンパイアのシャツに載せたり、アメフトのスーパーボールの広告に組み込むことで、ブランドはファンの好きな場所へ行って声を届けることができる。
暗号資産業界では、始めたばかりの普通の人では複雑で圧倒されてしまうように思えるテクノロジーを、人間味あふれた親しみやすいものにしようとしている。著名なアスリートが製品を宣伝すれば、それがシリアルでも、スポーツドリンクでも、靴でも、消費者がそのブランドを試してみる可能性が高まるのだ。
すでにその製品を使っている人たちにとっては、自らの選択の正しさが証明されたように感じられ、ブランドへの忠誠心が高まる。実際、有名人による広告は株価を押し上げ、売上を約4%上げることもできるのだ。
失われた世代を取り戻す
同様に、若いファンを惹きつけることは、大手スポーツリーグにとって欠かせないミッションだ。スマートフォンを片手に、常にインターネット接続に囲まれて過去15年間育ってきたZ世代は、典型的なデジタルネイティブ世代だ。そして彼らは、熱心なゲーマー、ソーシャルメディアユーザー、暗号資産ファンでもある。
対照的に、熱心なスポーツファンと答えたのは、Z世代のわずか23%。この数字を、ミレニアル世代の42%、X世代の33%、ベイビーブーム世代の31%と比べてみれば、Z世代がスポーツ業界にとって非常に重要なカテゴリーなのは一目瞭然だろう。彼らは未来を担っているのだ。
Z世代は、暗号資産が未来だと考える可能性が高い。実際、暗号資産保有者の94%がZ世代/ミレニアル世代である。彼らは本質的にデジタル世界を理解し、暗号資産など、インターネットネイティブのデジタル通貨が避けられないものであることも理解する。逆に古いやり方は、もう盛りを過ぎた、過去のものとして見ているのだ。
つまり、パートナーシップを通じて暗号資産と関わることで、スポーツ業界は若い世代を「理解できる」というメッセージを送ることができる。業界の将来的な成功にとってあまりに大切な次なるファンベースをオンボーディングするための方法となるのだ。
アスリートも同じことをしている。新しくクリエイティブな方法で暗号資産を活用しているプロは、数えきれないほど。自らのブランドを成長させ、そこから収益を上げている。ソーシャルトークンを活用したり、NFT(ノン・ファンジブル・トークン)を発行したり、流行りの暗号資産企業と広告契約を結んだりしているのだ。
暗号資産ブランドにとってスポーツ業界は、デジタル資産企業が声を届けたいと思っているターゲット層の中で、より幅広い人たちとつながるチャンスを提供してくれる存在だ。
スポンサー契約を結ぶことで、顧客の関心、忠誠心、信頼を築き、維持するために極めて効果的な相手になる可能性がある。このような信頼の醸成は、徐々に起こっていくものである。
学習曲線
もちろん、暗号資産業界によるスポーツのスポンサーシップには、声高で厳しい批判も寄せられる。しかし、それは想定内のことだ。
暗号資産はその環境負荷と、小口トレーダーに時に打撃を与える個人投資家の間での投機から批判されてきた。スポーツチームは、暗号資産投資にまつわる熱狂に貢献したとして、非難されることがある。
ビリオネアトレーダーで暗号資産ファン、NBAチーム「ダラス・マーベリックス」のオーナーでもあるマーク・キューバン(Mark Cuban)氏はこの点について、スポーツニュースの「The Athletic」の取材に応じた。
「フェイスブック、アマゾン、アップルは、暗号資産市場全体よりも時価総額を減らした。テック企業の多くが、価値の80%以上を失った。それらの企業によるスポンサーシップを疑問視する声は聞こえてこないようだが」とキューバン氏は指摘したが、それはもっともな意見だ。
さらに、完璧ではないが、リーグやチームは、企業の財政状況、首脳陣の評価を行うなど、広告主候補を精査する取り組みを確かに実施している。結局のところ、どちらも長期的に、相互に利益のあるパートナーシップを結びたいと考えているのだから。
ある意味では、暗号資産とスポーツのタイアップ批判は、それがうまくいっていることの証拠でもある。議論の促進剤、暗号資産に対する緊張を解きほぐしてくれるものだ。
あらゆる新興テクノロジーに言えることだが、学習曲線というものが存在する。その曲線は少し急なものになっているかもしれないが、自然なプロセスの一部なのだ。
サイモン・ユー(Simon Yu)氏は、NBAチーム「ポートランド・トレイルブレイザーズ」のスポンサーを務める暗号資産取引所ストームX(StormX)のCEOである。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Sports and Crypto Getting Together Is a Win-Win