暗号資産が値上がりしたらセルシウスの債権者はどうなる?

ビットコイン(BTC)価格がこの先数カ月で、2倍になったとしよう。破産申請したレンディングプラットフォーム、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)に預け入れた暗号資産(仮想通貨)が凍結された何十万人もの顧客は、得をするのか、それともただ元をとれるだけになるのだろうか?

アメリカの破産裁判所にとって、これは未知の領域だ。

暗号資産のボラティリティの高さが極端な市況を生み出し、セルシウスは6月上旬、顧客の資産引き出しを凍結。その後、バランスシートに12億ドルの穴が開いたことを認めた。

しかし、ニューヨーク州南地区破産裁判所で行われる破産裁判が決着する前に、暗号資産価格が同じくらい劇的に値上がりするということが、十分に起こり得るのだ。

暗号資産の冬の雪解けの可能性については、セルシウスの代理人を務めるパトリック・ナッシュ(Patrick Nash)氏も、最初の破産審理で言及した。ナッシュ氏はさらに、顧客の大半は「暗号資産を保有した」ままでいることが見込まれると続けた。

暗号資産情勢の変化を待つという戦略については、企業再建を専門とする弁護士ビンセント・インデリカト(Vincent Indelicato)氏も同意見だ。

「利害関係者としては、回復の際の値上がりから利益を上げるために、暗号資産の冬が過ぎ去るのを待つのに破産手続きを利用したいというのは、大いに考えられる」と、インデリカト氏は語った。

回復

暗号資産価格の回復の恩恵を受けるというオプションは、セルシウスユーザーにとってはありがたいことのように聞こえるが、実際にはそれが何を意味するのか次第だと、弁護士のダニエル・ベシコフ(Daniel Besikof)氏は語った。

「一般的なルールとしては、破産案件の債権者は、破産申請日付で(米ドル建てで)債権を持つことになる。今回のような特殊な事例で、どのようにこのルールが適応されるのか、興味深い」と、ベシコフ氏は指摘する。

破産申請時に100万ドル相当のビットコインを持っていたアカウント保有者がいたと想定してみよう、とベシコフ氏。この場合、ビットコインが値下がりすれば、債権の回収額も下がる可能性が高い。しかし、ビットコイン価格が2倍になったとしたら、その債権者は200万ドル相当の債権を持つことになるのだろうか?100万ドル以上を回収することが可能なのだろうか?

それは裁判所が決めることだ、とベシコフ氏は語った。

「取引所が値上がりによって現金や暗号資産をたっぷり保有することになったとしても、アカウント保有者の回収額は100万ドルが上限だと主張することは十分に考えられる」と、ベシコフ氏は指摘。

「そのような主張は、株主にとってはありがたいことかもしれないが、アカウント保有者にとっては大いに迷惑だ。顧客の暗号資産の一部、あるいはすべての返還についての計画が提出されれば、このような懸念は緩和できる」と続けた。

今回の状況は、市場が底値の頃に破産申請をしたのに、原油価格が値上がりした後に破産手続きが完了した一部の石油、天然ガス企業と似たところがある、とベシコフ氏。「しかし、そのような場合には債権者は全額を受け取り、原油価格の値上がりによって、回収額が増えることはなかった」と続けた。

民事再生

暗号資産企業をめぐる現在進行中の裁判も、参考になるかもしれない。例えば、顧客資産がハッキングによって盗まれた、悪名高き暗号資産取引所マウントゴックス。こちらは、2014年に日本で破産申請が行われた。

マウントゴックスの破産管財人が保有する、約20万のBTCの価値は上昇を続け、最終的には全債権者が法的に請求できる金額を超えた。この資産の法的地位についての決定が下されたとすれば、今回の事例を考えるのに有益だったかもしれない。しかし、裁判所は結局、民事再生へと移行することを決定したのだ。

それでも、マウントゴックスの事例は、日本における遅々とした法的手続きの中で事態がどのように進展したかを示唆するかにとどまり、アメリカの破産法のもとで何が起こるかについて、はっきりとした示唆を提供してはくれないと、マウントゴックスへの請求権を購入した507キャピタル(507 Capital)の創業者トーマス・ブラジエル(Thomas Braziel)氏は語った。

「過去の事例を見ても、アメリカの破産法とも、アメリカの法律とも関係ないのが難点だ」とブラジエル氏。「もちろん興味深くはあるのだが、アメリカの破産裁判所がこの件を検討するとは思えない」と続けた。

暗号資産はカストディアル(権原や所有権が顧客のままであること)なのか、破産管財人の財産になってしまうのかという、今回の件の解決の手がかりとなる問題は、企業と顧客の取引合意書の文言によって決定される。

保管のためだけで利子のつかないセルシウスのカストディウォレットの規約は、同社が顧客に財産を返すべきと示唆しているようだ。しかしそのような資産は、現在価格で約1億8000万ドル相当の未払い資産のわずか4%にしか当たらない。

残りの資産は、セルシウスの高利回りプログラム「Earn」にロックアップされている。セルシウスの規約によれば、Earnサービスを使うことを選んだ顧客は、「デジタル資産の権利と権限のすべてをセルシウスに与え、『Earn Service』を利用中は、セルシウスが単独裁量で使うことができる」と記されている。

しかし、そのようなサービス規約は、今回のような事例で終点となる訳ではなく、むしろ出発点だと、ブラジエル氏は指摘する。「破産裁判所どころか、どんな裁判所においても、まったく矯正することのできない契約条項が多く存在する」とブラジエル氏は語り、「もし企業側がサービスを提供する法域でのルールに従っていなかったとしたら、そもそもサービス規約は適用されない」と続けた。

破産手続きにおいてさらに収拾のつかない事態を引き起こす要素の1つが、セルシウスが州の規制当局からの規制に対処する中で、Earnプログラムに入れられてしまった人たちの存在だ。プラットフォームに留まるとしたら、カストディアルウォレットユーザーのカテゴリーに属する人たちである。

「非常に興味深い様々なグループが存在する」とブラジエル氏。「Earnプログラムに振り分けられてしまった人たちはおそらく、特別グループを組むべきだろう。同じ利害を持った人たちと共にグループを作るのだ」と続けた。

まったく新しく

顧客にとって有効な再建計画のための適切な枠組みを見つけることができれば、これまで挙げたポイントのいくつかは意味のないもの、あるいは少なくとも二次的なものになるかもしれないと、弁護士のインデリカト氏は語る。

破産裁判は多くの場合、利害関係者のグループ間、今回の場合なら顧客と株主の間での綱引きになると、インデリカト氏は指摘。彼らは、誰が最も大きな取り分を得るか、その取り分をどのように測るかに重点を置くことになるだろうと続け、次のように説明した。

「暗号資産価格が値上がりしたとすれば、株主としては、暗号資産は凍結されるべきで、破産手続きの途中での値上がりに応じてではなく、破産申請時点で価値を算出するべきだと主張したいだろう」

破産裁判の進行中に暗号資産価格が値上がりすれば、暗号資産テクノロジーに確信を持っており、清算にまつわる税金やその他意図しない影響を避けたいセルシウスの顧客にとっては、重要な原動力となるだろう。

「これは本当に未知の領域であり、そのために私としては、これまでのやり方やルールは無視されることになるだろうと考えている」とインデリカト氏は語り、次のように続けた。

「攻略本は破り捨てた方が良い。セルシウスやボイジャー・デジタルの事例は、革新と創造力、型にはまらない考え方ができる人を必要とすることになるだろう」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Happens to Celsius Creditors if Crypto Prices Recover?