市場アナリストたちが、暗号資産の冬についてパニックに陥いるなか、ビットコイン(BTC)開発者たちは、静かにアプリ開発を続けている。
デジタル資産に関するリサーチ・分析企業アーケーン・リサーチ(Arcane Research)のレポートによると、とりわけライトニングネットワーク(Lightning Network)では、少なくとも20カテゴリーにわたって100以上のアプリの多様なエコシステムが構築されている。
ユーザーベース急拡大
今年1月、ライトニングネットワークのユーザーベースが急激に拡大した。米ブロック(Block)が7000万人以上のユーザーを抱える人気決済アプリ、Cash Appのライトニング対応を開始した。
そのわずか数カ月前の2021年9月には、ビットコイン(BTC)マーケットプレイスのPaxfulが、ウォレットにライトニングを統合。エルサルバドル政府は、ライトニング対応のビットコインウォレット「Chivo(チボ)」を発表した。
Paxfulのユーザーベースは約700万人。チボは300〜400万人のエルサルバドル市民に利用されている。ただしチボの利用はウォレットのローンチ以降、目に見えて減少している。
アーケーン・リサーチは、これらの3つの出来事によってライトニングのユーザーベースは10万人から、わずか数カ月で8000万人を超える潜在的ユーザーを持つまでに拡大したと考えている。
ただし、潜在的ユーザーの多くは、ライトニングネットワークにアクセスできるが、必ずしも使っているわけではないことには留意が必要だ。それでも、2021年第1四半期から2022年第1四半期にかけて、決済高は410%増加した。
当記事執筆時点、ライトニングネットワークの規模を示す、ネットワーク内のビットコインの合計は過去最大の4351ビットコイン。これはほぼ1億ドル(約130億円)に相当する。
ライトニングに対応した取引所も着実に増加しており、最近では、クラーケン(Kraken)、オーケーコイン(Okcoin) 、オケーエックス(OKEx)が加わった。
ビットコイン関連のデータを提供するBitcoin Visualsによると、2021年7月末時点のノード数は1万3391。それが27%近く増加し、現在は約1万7000。
ちなみに、公開データには含まれないプライベートノードがかなりの数存在するため、実際のノード数はもっと多い。規模の拡大、対応取引所の数とノード数の増加はすべて、ユーザーへの普及の高まりを示している。
イーサリアム+レイヤー2との比較
先日、あるツイートをきっかけに、ビットコインとライトニングで開発されているアプリの数、そして、それが他のチェーンと比べてどうなのかについての議論が巻き起こった。
how many apps are built on top of btc/lightning? curio how it compares to dev work on other chains
— alex (@alex) 2022年7月20日
「alex(テックジャーナリスト):
ビットコイン/ライトニングではどれくらいのアプリが開発されているのだろうか? 他のチェーンでの開発事情と比べてどうなのか、興味がある」
ビットコインブロックチェーンはイーサリアム(ETH)ブロックチェーンと比べてどうなのか? ライトニングはイーサリアム最大のレイヤー2スケーリングシステム、ポリゴン(Polygon)と比べてどうなのだろうか?
CoinDeskは以前、投資会社Electric Capitalが発表した2021年の開発者レポートについて報じた。このレポートによると、ビットコインの推計アクティブ開発者数は月間700人未満。一方のイーサリアムは、4000人以上の月間アクティブ開発者を抱えていると推計されていた。
これは大きな開きであり、ビットコインの時価総額が現在、約4400億ドル、イーサリアムは約1960億ドルであることを考えれば、なおさらだ。
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2つの暗号資産の保有者数の差はさらに顕著だ。暗号資産取引所クリプトドットコム(Crypto.com)によると、ビットコイン保有者数は約1億7600万人、一方イーサリアム保有者数は約2300万人という。
レイヤー2レベルでも、同じような差が見られる。ポリゴンは、8000の月間アクティブ開発者チームを抱えており、メインネットとテストネットで運営されているDapp(分散型アプリ)は1万9000といわれている。この数は、ライトニングエコシステムが抱える約100のアプリ数をはるかに上回る。
誤った結論?
これらのデータから、イーサリアムとポリゴンの方が、ビットコインとライトニングよりも健全なエコシステムだという誤った結論に至る人もいるだろう。しかし、さらに細かく見てみると、そうした直接比較は不可能なことがわかる。
まず、ビットコインブロックチェーンは、暗号資産ビットコインをその主要プロダクトとして作られている。実際、ビットコインとライトニングのエコシステムは、ほぼお金と決済にのみ焦点を当てている。
一方、イーサリアムブロックチェーンは主にDapp開発を促進するために作られた。そのため、ビットコインよりもイーサリアムでアプリ開発を行う開発者が多いのは当然だ。
次に、イーサリアムもポリゴンも、トークンに特化したプラットフォーム。ICO(新規コイン公開)もDeFi(分散型金融)もNFTもトークンエコノミーの産物だ。
アーケーン・リサーチによると、トークンエコノミーはより多くの投資家や開発者を惹きつける傾向がある。しかしアーケーンは同時に、ライトニングに重点を置いた資金調達が最近増えていることをも指摘した。
主要DeFiプラットフォームがいくつか崩壊したことを受けて、ビットコインやライトニングに投資家の資金がシフトしていくのかどうか、興味深い。
ライトニングのエコシステム
暗号資産の弱気相場にも関わらず、ライトニングネットワークは成長を続け、ライトニング対応ビットコインウォレットからノード管理ソフトウェア、ポッドキャストやストーリミング、ゲームに至るまで、幅広いアプリが存在する。
アーケーン・リサーチは、そうした多様なアプリを以下のようなチャートにまとめている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Move Over, Ethereum – Bitcoin’s Lightning Network Has Apps, Too