取引高で世界最大の暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンス(Binance)は9月5日、自社のドル連動型ステーブルコイン「バイナンスUSD(BUSD)」と競合する3つのステーブルコインへのサポートを停止すると発表した。バイナンスによれば、取引所における流動性と資本効率を向上させることが目的だ。
9月29日以降、バイナンスはユーザーが保有するUSDコイン(USDC)、パックスドル(USDP)、トゥルーUSD(TUSD)を、自動でBUSDに変換していく。バイナンスが手がける決済サービス「バイナンス・ペイ」でも、9月12日以降これらコインへのサポートを停止する。
バイナンスが停止するのは、対象となる3つのステーブルコインのスポット、先物、証拠金取引(レバレッジ取引)。関連するすべての取引ペアを廃止する。ユーザーは、直接バイナンスでカストディすることができないだけで、USDC、USDP、TUSDで資産を引き出すことはできるようだ。
独占禁止にまつわる疑問を提起する、権力掌握のためのあからさまな動きだと批判する人たちの意見にも一理あるが、BUSDはすでに人気のステーブルコインである。他の米ドル連動型ステーブルコインに代わる可能性を秘めた、将来性のあるステーブルコインなのだ。
バイナンスの視点から少し考えてみよう。バイナンスでの流動性が高まるのは間違いない。
BUSDは時価総額第3位のステーブルコイン。バイナンスが今夏、ビットコイン(BTC)の取引手数料を廃止して以来、ステーブルコイン取引高のシェアを着実に拡大させている。
USDCへの影響
サポート停止で影響を受ける中でも特に重要なコイン、サークル(Circle)が手がけるUSDCは、時価総額第2位で約520億ドル。TUSDとUSDPの時価総額はそれぞれ、10億ドル強と10億ドル弱で、第6位、第7位となっている。
今回の動きの一環として、バイナンスはUSDC建ての預け入れアカウント、分散型金融(DeFi)ステーキングサービス、ローンへのサポートも停止する。
サークルのCEOジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏は意外にも、バイナンス上でドル連動型ステーブルコインが集約されることは、USDCにとって「好ましいこと」だとツイートした。
「予測:今回の動きによって、USDTからBUSDとUSDCに徐々にネットシェアがシフトする」とアレール氏はツイートし、バイナンスのサポート停止はUSDCにとってプラスだと主張した。同氏は、そのツイートのリンクを取引プラットフォームWintermuteのCEOエブゲニー・ゲボイ(Evgeny Gaevoy)氏のスレッドに張り付けた。(USDTとは、時価総額トップのステーブルコイン、テザーのことだ。バイナンスの今回の動きからは、除外されている)
ゲボイ氏と、そしておそらくバイナンスの考えは、バイナンスで取引をしたいUSDCユーザーにとって、ステップが省かれるというもの。人々はこれまで通りUSDCを発行し、バイナンスに預け入れ、好きなことをして、USDCを引き出すことができるのだ。
注目すべきことに、FXもUSDCの自動変換を行なっており、マーケットメーカーは恩恵を受けたと、ゲボイ氏は指摘した。
一方、手動で手持ち資産を交換する必要のあるUSDTトレーダーが抱える摩擦によって、USDTが人気を失う可能性もあると、ゲボイ氏は主張。
しかし、世界最大の取引所がUSDCの有用性を低めることは、明らかにテザーに有利に働くと考える人たちもいる。サークルはここ1年、テザーのマーケットシェアを侵食してきた。しかし、それは主にUSDCがDeFiで幅広く使われ、テザーは信頼の問題を抱え続けているからであり、中央集権型取引所における取引高が原因ではない。
これらはすべてかなり憶測的なもので、独占的とも取れる行為について疑問が浮かぶのは確かだ。バイナンスには、パクソス(Paxos)が発行する自社ステーブルコインの有用性を高めるというもっともな動機があるが、それでもUSDCの取引高に切り込むのは間違いない。
バイナンスが自ら報告する取引高が正しければ、バイナンスは競合をはるかに凌ぐ取引高を抱えている。
「世界最大の取引所でドルの流動性を最適化することにはメリットもあるかもしれないが、市場行動について疑問が浮かぶのも確かだ」と、サークルは語っている。
USDCが他の主要取引所では引き続き取引可能であり、独占禁止だと主張して行動を起こす根拠は薄い。さらに、バイナンスはUSDCでの引き出しを継続するため、大量のUSDCを保有し続けるはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Iryna Budanova / Shutterstock.com
|原文:Who Benefits From Binance Converting USDC to Its Own Stablecoin?