ブロックチェーンの縄張り争いに終止符を打つべき時だ【コラム】

「プロフィールにゴミみたいなトークンを書き並べているあなたの言うことに、何で耳を貸さなきゃならないんだ?」と、自称「ビットコインマキシマリスト」がかつて私に言ってきたことがある。マイクをミュートにして、彼の批判の続きを聞きながら衝撃を受けていた。

その批判を浴びるまでは、音声会話ができるツイッターのスペースで多くのビットコイン(BTC)投資家たちと建設的な会話をしていて、価格のボラティリティやプライバシーなどの問題を解決する方法について、約300人が耳を傾けていた。

私自身もBTC保有者であり、議論は最初、落ち着いて始まったが、別のブロックチェーンプロジェクトの話題を私が持ち出すと、すぐに敵対的なものとなった。

あの日に私がツイッターのスペースで経験したことは、「マキシマリズム」と呼ばれる、Web3分野での心配なトレンドの一例だ。暗号資産には、テクノロジーのチャンスも、投資のチャンスも存在するが、この組み合わせは狂信の温床ともなり得る。

「マキシマリズム」という言葉は最初、「ビットコインマキシマリスト」を形容する言葉として使われていた。つまり、ビットコインのみが、将来的に必要となるブロックチェーン基盤の唯一のデジタル資産だと信じ、他のコインは無駄と考える人たちのことだ。

新しいレイヤー1ブロックチェーンが登場するにつれ、マキシマリズムのコンセプトは、自分が好むチェーンのみが、デジタル金融やウェブインフラの未来だと考える人を含むものへと変化していった。

つまり、スマートコントラクトやEVM(イーサリアム・バーチャル・マシーン)マキシマリストなどのニッチなものや、より具体的なイーサリアムマキシマリスト、カルダノマキシマリストなども含まれる。

新興業界においては、強い信念を持つことは許されるだけでなく、大切なことだが、多くの参加者は他のプロジェクトへの攻撃において一線を越えてしまい、暗号資産分野全体に害を及ぼすことも多い。

マキシマリズムの弊害

マキシマリストたちは、ある特定のチェーンやコミュニティのみに存在する譲れない原則があると主張する。分散化、セキュリティ、プライバシーなどに関するものだ。

しかし、彼らの多くが見逃しているのは、テクノロジーソリューションというものには多くの場合、トレードオフがつきものだということ。あるブロックチェーンを1つの面で優れたものにする要素こそが、他の面で行き詰まらせる原因となるのだ。

ビットコインは極めて安全で分散化されている。しかし、決済レイヤーの方は、ユースケースの種類、対応できる取引の規模という点で、根本的に制約を抱えている。

ソラナは極めて高速かつ安価だが、(ビットコインが一度も経験したことのない)ネットワーク障害に苦しんでおり、コンセンサスレベルでの中央集権化にまつわる疑問もつきまとう。

すべてのオプションを検討し、最も確信を持てる方向に向かって絶え間なく開発していくことが、開発者にとっては得策だ。最終的にどのモデルが勝者となるかは、社会的コンセンサス、つまりインターネットを使う何十億人もの人たちが決めるべきなのだ。

Web3の分野では最近、新しいアイディアや微妙なアプローチについて、戦いが巻き起こっている。

有名なBTCマキシマリストのマイケル・セイラー氏が、イーサ(ETH)は証券だと公に発言したり、録画されていると知らない弁護士が、競合の暗号資産プロジェクトに訴訟を仕掛けたことを自慢したりと、ひいきのブロックチェーンが勝つように、卑怯な手段を使う人たちが後を絶たないのだ。

このような行動の結果として、業界と関係のない多くの人たちが、暗号資産業界を有害で閉鎖的なものだと考え始めるようになっている。さらに心配なのは、規制当局が介入するチャンスを与えてしまうかもしれないことだ。今日閉鎖されるのは競合かもしれないが、明日には、自分が応援するプロジェクトが同じ運命を辿るかもしれない。

より良い進路

マキシマリズムにまつわるネガティブなトレンドとは対照的に、ポジティブな傾向も見られる。多くの参加者たちは、大いに異なるアプローチを採用する複数のブロックチェーンプロジェクトを、積極的に応援しているのだ。

このような人たちは「マルチチェーンの未来」、つまりたった1つではなく、多くの異なるブロックチェーン上で多額の取引が処理される未来を信じている。

この動きを先導しているのは多くの場合、暗号資産プロジェクトそのものだ。例えば、コスモス(Cosmos)のInter-Blockchain Communication(IBC)プロトコルや、チェーンリンク(Chainlink)のCross-Chain Interoperability Protocol(CCIP)などである。

NFT(非代替性トークン)マーケットプレースさえも、クロスチェーンの動きに参画しようとしている。有名なNFTマーケットプレースのマジック・エデン(Magic Eden)は先日、ソラナだけでなくイーサリアムへも拡大すると発表して、話題となった。

NFTコレクターが1つのブロックチェーンでしかNFTを購入できなかった日々は、遠い昔のことになろうとしている。

すべての船を持ち上げる

時間やエネルギーだけでなく、お金も注ぎ込んでいるひいきのブロックチェーンを守りたいと人々が感じるのは無理もない。暗号資産はいまだに、おおむね投機的な分野であり、投資家たちが自分のお気に入りのプロジェクトの宣伝をするにはよこしまな動機が存在する。

しかし、現状のようである必要はないのだ。「すべての船を持ち上げる」モデルへと、考え方を集団で転換すれば、長期的には皆が得をすることができる。

暗号資産やWeb3は今、まだまだ初期段階にある。暗号資産を使ったことのある人はわずか3億人。イーサリアム上のトップクラスのDapp(分散型アプリ)の1日のアクティブユーザー数は、1万人にも満たない。

ソーシャルメディアやインターネットを日常的に使っている人が何十億人もいることを考えれば、暗号資産業界には成長の余地がまだまだある。

私たちが皆で協力し、最高のテクノロジーであるブロックチェーンと、その上で機能するDappを開発することができれば、暗号資産分野のすべての人が、少なくともある程度は成功できるのではないだろうか。

アレックス・バライティス(Alex Valaitis)氏は、分散型ソーシャルブロックチェーンを手がけるDeSo Foundationの戦略アドバイザー。ニュースレター「ウェブ3 Pills」も発行している。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:It’s Time to End Maximalism in Crypto