ブロックチェーンを基盤に、デジタル証券やデジタル通貨の発行・取引プラットフォームを開発する三菱UFJ信託銀行は、異なる複数のチェーン上で取引されるデジタル証券を即時決済できる仕組みを開発する。
三菱UFJ信託が組成した「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)」は、今年4月に資金決済ワーキンググループ(WG)を設立し、開発協議を進めてきた。
DCCのコアデベロッパーである三菱UFJ信託は、異なる複数のブロックチェーンにまたがり、デジタル証券の取引を法定通貨に連動するステーブルコインで即時決済する仕組みを開発し、2024年までの商業化を目指す。チェーンの相互運用を得意とするテクノロジー企業のDatachain社と共同でこの取り組みの検証を行う。
三菱UFJ信託は、「Progmat(プログマ)」と呼ばれる次世代プラットフォームを開発してきた。ブロックチェーンの「Corda(コルダ)」を基盤とするProgmat上では、不動産や動産、社債などを証券化・トークン化したデジタル証券(セキュリティトークン=ST)を発行・取引でき、日本円にペグしたステーブルコインを発行できる「Progmat Coin」が搭載している。
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CordaとQuorumを接続する
三菱UFJ信託とDatachainが技術検証を行うのは、Progmat Coinの基盤であるコルダ・ブロックチェーンと、デジタル証券を扱うブロックチェーンの「Quorum」を接続して、この2つのブロックチェーン上のトークンを同時に移転するというもの。
Quorumは元々は米銀最大手のJPモルガン・チェースが開発したブロックチェーンで、2020年に暗号資産用ウォレットのメタマスク(MetaMask)を手がける米コンセンシス(ConsenSys)が買収した。
Quorumは、JPモルガンがシンガポールのDBSとテマセクと共同で開発を進めている次世代クロスボーダー送金システムや、アメリカの企業が運営するセキュリティトークンの取引プラットフォームなどで採用されている。
DCCの資金決済WGはDatachainと共に、パブリックチェーンを含む複数のブロックチェーン基盤のデジタル資産に対して、Progmat Coinで発行されるステーブルコインを使って、安全で、効率性の高い決済を行う手法を検討してきた。
ブロックチェーンの縄張り争いに終止符?
ブロックチェーンを活用した世界の事業開発においては、「マルチチェーン」や「クロスチェーン」という考え方が広まりつつある。
例えば、デジタル画像やアート、動画などをトークン化したNFT(非代替性トークン)は、ファッションブランドやテレビ局、食品会社など、あらゆる業界の大手企業やスタートアップが注目し、これまでに例のない新たな事業を創りだそうとしている。
そのNFTの発行・取引サービスを手がけるOpenSea(オープンシー)は、イーサリアムブロックチェーンを基盤とするNFTを軸にサービスを拡大してきたが、今年の初めからソラナ(Solana)ブロックチェーン上のNFTへの対応を開始した。
また、ソラナチェーン上のNFTの取引サービスを展開してきたマジック・エデン(Magic Eden)も8月に、イーサリアム基盤のNFTの取り扱いを始めている。
イーサリアムやソラナ、アバランチ(Avalanche)などのブロックチェーンは「Layer1」と呼ばれ、これらのチェーンを採用する企業やプロジェクトが新たなアプリケーション(dApps=分散型アプリケーション)を開発することで、それぞれのチェーンを軸とするエコシステムが広がってきている。
チェーンを相互運用するためのブロックチェーン
ブロックチェーン同士の縄張り争いとも言える動きが見られるなか、コスモス(Cosmos)は、開発者が相互運用できる独自のブロックチェーンを開発できるオープンソースのキットを提供している。
コスモスは、複数のブロックチェーン上でデータやトークンが自由に流通できるエコシステムを作り上げることをビジョンに掲げ、自らを「ブロックチェーンのためのインターネット」と呼んでいる。コスモスのネイティブトークンは、アトム(ATOM)。
Datachainはこれまで、コスモスのIBCプロトコルを利用して、異なるブロックチェーン間のインターオペラビリティ(相互運用)を可能にする「Hyperledger Lab YUI」や、クロスチェーン取引を可能にする「Cross Framework」などを開発し、複数のチェーンの相互運用の課題解決に取り組んできた。
IBCプロトコル:Inter-Blockchain Communicationの略で、ブロックチェーン間通信の意味。異なるブロックチェーン間で任意のデータをやり取りするための通信プロトコルのこと。
Datachainはこれらの技術を活用して、NTTデータやJCBなどの大手企業と共に、IBCを用いたインターオペラビリティの実証を重ね、現状の相互運用やクロスチェーンブリッジの課題を解決するために、新たなミドルウェア「LCP(Light Client Proxy)」を開発している。
ブロックチェーン上で完結する安定的な決済方法
三菱UFJ信託のデジタルアセット事業室でプロダクトマネジャーを務める齊藤達哉氏は、ブロックチェーン上で完結する安定的な決済手段がなければ、デジタル証券市場の効率性は著しく損なわれると述べた上で、「ブロックチェーンの違いにとらわれず、大量のデジタル証券の決済に利用できるステーブルコインの存在は不可欠といえる」とコメントした。
また、世界のパーミッションレスブロックチェーン上のNFT取引において、円貨やクレジットカードでの決済は、多くの事業者やプロジェクト参加者の負担が発生していると、齊藤氏は指摘する。また、ブロックチェーン上で完結はするものの、価値が不安定な暗号資産の利用は、事業者にとって課題が存在するという。
「デジタル証券のみならず、NFTの取引市場においても、ブロックチェーン上で完結する安定的な資金決済手段が強く求められていると認識している」(齊藤氏)
DCCには現在、国内の大手証券会社や日本取引所グループ(JPX)傘下のJPX総研、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)、LINEを含む134の企業が参画している。
|編集:佐藤茂
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