グローバル経済は、通貨危機という暗い先行きに直面している。このことは、暗号資産(仮想通貨)にも、大きな意味を持つ。
新興市場の通貨は、最悪の事態を迎えている。新型コロナウイルスのパンデミック、ロシアとウクライナの戦争、物価の急上昇、インフレ見込みの高まり、複数の発展途上国における政治危機、そして、投機マネーをドルへと惹きつける米連邦準備制度理事会(FRB)による激しい利上げ。
これらによって、数えきれないほどの国で、為替レートが極めて強い圧力にさらされているのだ。
投資ストラテジストのラウル・ポール(Raoul Paul)氏は先日、アジア各国の通貨の対米ドル価格が、1997年〜98年の金融危機の時よりも安くなっていると指摘した。
このような通貨危機は、新興市場に悪循環をもたらす。為替レートが悪化し、政治家たちは影響をとどめようとするが失敗し、彼らに対する信頼は弱まる。さらに通貨価格は下落を続ける。外国の貸付業者の間でデフォルトの懸念が広まり、輸入価格が高騰し、インフレが生じる。そして、通貨と政府への信頼がさらに低下する。
スリランカやレバノンなどはすでに、この厳しい段階へと突入している。1998年の時のように「波及」が広まれば、次はそこまで政治問題が悪化していない国々の番となるかもしれない。
悪循環
私はこのような事態は、ドル中心の国際金融システムが、国際的に深刻な不均衡を生むことを定期的に思い出させてくれる警鐘だと考えている。
そのシステムの要素の1つで、特徴ではなく間違いなくバグなのが、内政目的のためにアメリカが採用する通貨や財政政策がしばしば、他国の経済にマイナス影響をもたらす、ということだ。
これはコロナ以前にもそうだった。2008年の金融危機後の長年の低迷からアメリカ経済を引き上げるための、FRBによる10年以上もの量的緩和政策によって、低利回りのドルから、高利回りの新興市場の資産へと多額のマネーが逃げていった。
予想通りそのマネーは、利上げによってドルが1年前に比べてはるかに魅力的で高利回りの価値の保管手段となり、地政学的緊張によって安全な避難先としての立場が高まった今、アメリカへと帰ろうとしている。その回帰が新興市場では、残酷なほどの価格変動を生んでいるのだ。
より小規模な国家の政府が、自らの手に負えないそのように圧倒的な力に対して効果的な政策を実行することはほぼ不可能だ。
それでも、危機が発生すると、唯一提供される対応策は、最近ではスリランカとアルゼンチンでお決まりの危機対処の役割を担ったIMF(国際通貨基金)が、地元政府に問題解決の責任を押し付ける、というものだ。
提案される解決策は、政治的自殺のようなものだ。中央銀行は資本の逃避を止めるために金利を上げ、政府は外国の債権者をなだめるために緊縮財政を実施。地元経済は、最も脆弱な時に、圧迫されることになる。多くの発展途上国が、圧政的かつ排外主義的な政策で国民の懸念に反応する独裁者の温床になるのも、不思議ではない。
根本的な欠陥
現行システムは、国家が自らを守らなければならないのに、1つの国家の行動に対して、システム全体で過剰なほどの脆弱性に苦しむという、悪いとこ取りのような分散型システムとなっているのだ。
アメリカは、自立的通貨政策という形で、このシステムから恩恵を受けている例外的な存在だと主張する人もいるかもしれない。例えば、一段と強いドルは現在、輸入品の価格を下げることによって、インフレを抑えようとするFRBの取り組みを支えている。
以前には、少なくとも12年の間、各国中央銀行の準備資産としてのドルへの需要によって、FRBは消費者物価のインフレを生じさせることなく、何兆億ドル規模もの量的緩和政策を実施できたのだ。
しかし、イングランド銀行元総裁のマーヴィン・キング(Mervyn King)氏は、このような「国際的不均衡」が、アメリカにも害を与えると指摘している。国際的通貨価格の歪みはしばしば、2008年の金融危機までの住宅バブルをかき立てた住宅ローンの低金利と同様に、アメリカ経済に行き過ぎを生むのだ。
キング氏の後継マーク・カーニー(Mark Carney)氏は2019年、暗号資産的なもので解決策を提案した。IMFが管理する新しいデジタル国際通貨だ。この急進的なアイディアはアメリカでは人気がなく、そのせいで、IMFトップという人気の座をカーニー氏は得られなかったのかもしれない。
しかし、少なくともカーニー氏は、対策を検討していた。現行のシステムは持続可能なものではない。現在のドルの強さを、ドルの準備通貨としての持久力を示す証拠として見ては、偽りの安心感を得るだけだ。恐怖に駆り立てられたドルへの逃避は多くの点で、システムの不具合の症状であり、いつの日かそのシステムが終わりを迎えなければならないサインだ。
そうだとすれば、ロシアと中国が既存システムをあからさまに拒絶することによる強烈な崩壊を経験するのではなく、今のうちに異なるモデルへと円滑に移行するために計画を立てた方がはるかに良い。
新しいモデル
未来のシステムとはどんなものだろう?欧米政府は、中国政府が発行する通貨を信頼することはないし、ヨーロッパ内で連携に問題があるということは、ユーロが候補になることもない。おそらく、複数通貨システムとなるだろう。
2011年に私が『The Unfair Trade』という本を書いた時、まだビットコインのことをよく知る前、私もカーニー氏側の人間だった。IMFが管理する多国的準備通貨が、壊れた金融システムから脱出する唯一の道だと思っていたのだ。
今では、より広範に問題を見ている。インターネットの台頭が、政府への信頼を失わせ、国境を超えた権力を持つコミュニティを生み出した一方、グローバル化の時代における富の不均衡が、現行のネオリベラル的秩序への憎しみをかき立てた。
複数通貨的であってもそうでなくても、どんなシステムが生まれてくるにしても、自らの資産とアイデンティティを自ら管理できるという感覚を人々が取り戻せるものである必要がある。そして、デジタルネイティブなものである必要もある。
そうなると、どんな形であれ、デジタル通貨ということになるだろう。
ここ1年、金融市場の下落から自らを切り離すことができなかったことを考えると、ビットコインが答えになるかははっきりしないが、サトシ・ナカモトがビットコインの基盤とした原則を、私は信じ続けている。
ドルシステムに代わるものは、本来の分散型インターネットのように、中央集権型政府の失敗に影響を受けない、デジタルで検閲耐性を持つ通貨を取り入れる必要がある。
次なるシステムがどんなものになっても、使う人たちの願いを反映するものでなければならない。顔の見えない官僚たちが決めるものであってはならないのだ。
市民が、自分のお金の力を使って選んでいく必要がある。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:A Currency Crisis Looms: We Need a New Model