ビットコインは変化するべきだ…ただしゆっくりと【オピニオン】

ビットコインは変化がゆっくりだ。取引のスピードは、グローバルスケールの決済システムになるには遅すぎる。そして、そのコミュニティは新しいものを受け入れることに消極的だ。

他のほぼあらゆるブロックチェーンに比べて、新しいイノベーションが生まれるスピードはカメのようである。しかし、ビットコインのゆっくりと着実なペースこそが、究極的にはビットコインのパワーだと私は考えている。

イーサリアムではもうすぐ、Merge(マージ)と呼ばれる大規模なアップグレードが行われる。ビットコインのようなプルーフ・オブ・ワーク(PoW)システムから、より実験的なプルーフ・オブ・ステーク(PoS)というモデルへと「コンセンサスメカニズム」が変化するのだ。もう何年も準備されてきたアップグレードである。

イーサリアムの共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏は、パリのイーサリアムカンファレンスの場で、Mergeが完了しても、イーサリアムの完成度はまだ55%だと語った。この先20年で、いくつものアップグレードが予定されているのだ。「短期的な痛みと長期的利益」を見込むよう、イーサリアムコミュニティに警告した。

このような発展の考え方によって、イーサリアムには新しい未来の可能性が開けるが、そこにはリスクも伴う。ここに、ビットコインにとってのチャンスがあるのだ。ゆっくりとした変化のスピードを大切にすることで、世界で最も価値のある「永遠のデータベース」となるチャンスだ。

永遠のデータベース

ブロックチェーンは、何百万通りにも形容される。「変更不可能な台帳」、「データ記録のための共有されたシステム」、「暗号化技術によって安全に保たれた、増え続ける記録」など。このような説明も結構だが、一般的な人にとってはわかりづらい。ブロックチェーンの最もシンプルな定義は、永遠のデータベースである。

完全な初心者で、データベースもよくわからないという人もいるかもしれないが、心配無用だ。データベースとは、高級なエクセルのスプレッドシートのようなもの。永遠のデータベースとは、データを書き込んだら、それが永遠に保存されるものだ。

設計時の様々な決断によって、ブロックチェーンは変更不可能なものとなっている。つまり理論的には、保存されたデータは、この先何千世代もの間、記録されていくのだ。

2009年1月3日に誕生して以来、ビットコインネットワークは1度もダウンしたり、ハッキングされたり、新しいデータの保管を停止したことはない。

これから1000年後にも、あなたのデータと資産にアクセス可能だと想像してみて欲しい。それだけではなく、何世代も先に生きる人たちが、この台帳は本物だと、検証できる形で信頼できるのだ。それはすごいことである。

永遠のデータベースは、通貨のような機能を超えた斬新なユースケースを可能にする。それらは主に、ビットコイン以外のネットワークで試されている。

マイク・ボッジ(Mike Bodge)氏の暗号資産アートプロジェクト「0xinfinity」では、「永遠、あるいはイーサリアムネットワークが運用され続ける限り」存続するとされるラブレターを発行できる。

Arweaveは、「永遠に書類とアプリケーションを保存する」と謳うファイル保存サービスだ。そしてStarling Labsでは、人権侵害の証拠を保管し、将来の偽情報から守るために5万6000人のホロコーストを生き残った人たちの証言をアップロードした。

永遠のデータベースは、過去のデータベースでは不可能だった形で、私たちの集団的記憶の完全性を確保してくれる。

鍵となる要素は、一貫性だ。イーサリアム、ソラナ、その他のブロックチェーンは、コードベースをアップグレードする限り、一貫性の点で競うことはできない。

シリコンバレー的な「素早く行動し破壊せよ」精神で知られるソラナブロックチェーンは2022年、数時間にわたる2度のネットワーク停止に苦しんだ。ブロックチェーンを永遠のデータベースにするのに鍵となる力の1つは、機能停止に対してレジリエンスを持つこと。永遠のデータベースは停止するべきではなく、もし停止してしまうなら、ただの「データベース」と呼んだ方が良い。

ビットコインが成功を収めるには、ユーザーがビットコイン(BTC)を保有するだけでは不十分だ。ビットコインは生産性を持つ必要がある。ビットコイナーには、新しいアプリケーションを開発できるように、追加のレイヤー(ライトニング・ネットワークやStacksなど)を使って、永遠のデータベースの力を解き放つチャンスがある。

追加レイヤーを受け入れる

スタックス(Stacks)は、ビットコインにプログラム可能性を追加するレイヤーだ。スタックスのクラリティ(Clarity)スマートコントラクトを使えば、基盤となる取引の安全がビットコインによって確保されるアプリケーション(SNS、写真共有アプリ、チャットアプリなど)を生み出すことができる。

同様に、イーサリアムではポリゴンが、開発者がイーサリアムネットワークをスケーリングするのに使う人気のレイヤーとなっている。違いは、イーサリアムが故障すれば、ポリゴンをはじめとするイーサリアムの追加レイヤーもすべてそれに伴ってダメになる点だ。

ビットコインの永遠のデータベースにアクセスできる、新しいレイヤーが必要だ。それのみが、私たちが未来を築く基盤となる完全なシステムとなり得る。

ビットコインの生みの親サトシ・ナカモトは2010年に初めて、ビットコイン上にレイヤーを作るというアイディアを推奨した。「(ブロックチェーンが)完全に別個なネットワーク、別個なブロックチェーンとなりながらも、ビットコインとCPUのパワーを共有することが可能だと思う」と主張したのだ。当時ナカモトは、ビットコインがただの通貨では終わらないチャンスを見たのである。

ゆっくり着実が勝利

永遠のデータベースを作りたければ、長期的な安定性に対するビットコインのアプローチを褒め称えなければならない。「長期的安定性を強調」することでイーサリアムはもっとビットコインのようになるべきと言ったヴィタリック・ブテリン氏の真意は、ここにあったのだ。

ビットコインもイーサリアムも、人類にとって素晴らしい偉業を成し遂げるだろう。それぞれが、未来作りに独自のアプローチを取っていくのを見るのが楽しみだ。イーサリアムは素早く進化するため、イノベーションが続いていくと、私は考えている。

しかし、落ち着くまでは、イーサリアムは永遠のデータベースになるための競争において立場を失っていくだろう。あまりに多くのリスクを背負っており、何十年も経たない限り、イーサリアムがどんなものになるのか、誰にもわからないかもしれない。

ここに、ビットコインの重要性がある。ビットコインは開発レイヤーを受け入れる必要がある。ビットコインは通貨のままではなく、生産性を高める方法を学ばなければならない。

最終的には、ゆっくりと着実に進んでいくことが、レースに勝つ秘訣だと私は考えている。スピードが注目を集めるかもしれないが、パワーがあるのは、ゆっくりした方だからだ。

クリス・カスティリオーネ(Chris Castiglione)氏は、ウェブ3向けの安全なチャットプラットフォーム「Console.xyz」の共同創業者。トラスト・マシーン(Trust Machine)のゼネラルマネージャーも務め、ビットコインとスタックス向けの共有ウォレットMultiSafe.xyzに取り組んでいる。コロンビア大学ビジネススクールの非常勤教授も務めている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Should Change … Slowly