ビットコインはFOMCに耐えたと言えるか?──8月CPIで市場は見通しを修正【bitbankレポート】

ビットコイン(BTC)の対円相場は9月に入っても6月下旬から続く240万円〜336万円レンジ内での取引が続いている。

8月26日に行われた米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長のジャクソンホール会議での講演で、景気抑制的な政策を許容する発言が嫌気され、相場は270万円周辺まで押すも、外国為替市場でのドル高円安の加速を受けてBTC対円は下げ止まった。

9月に入ると、8月の米インフレ統計減速、引いてはそれを受けたFRBの政策引き締めペース緩和を見込んだ市場の楽観ムードがBTC相場を押し上げ、320万円台の回復に成功した。

(画像:BTC対円チャート日足/bitbank)

しかし、8月の米消費者物価指数(CPI)が発表されるとムードは一変。原油とガソリン価格の低下で減速が見込まれたCPIが高止まりしたことに加え、エネルギーと食品価格を除いたコア指数は予想外の加速を記録したのだ。

これにより、市場が抱いていた楽観シナリオは打ち砕かれ、長期金利上昇、ドル高加速、株安、暗号資産安の構図となった。

さらに、長年市場が待ち侘びたイーサリアムのマージ(Merge)も、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)前の利食いの好機となったか、イーサ(ETH)の売りに繋がり、ETH相場は安値を模索する展開に。

また、マージ直後に米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が、PoS(Proof of Stake)系のブロックチェーンはSECの規制管轄となる可能性に言及し、ETHは下げ足を速め、BTC相場にも影響を及ぼした。

(画像:BTC対円、ハッシュレート(30日平均&60日平均)、マイナーから取引所へのBTC送金・日次/bitbank、Glassnode)

米国の8月のCPIを受けて、FOMCへの警戒感が強まっていたが、その分大幅利上げへの織り込みも進み、75ベーシスポイント(bp)利上げ決定や、2022年末と2023年末時点の政策金利着地見通しが、それぞれ3.4%→4.4%、3.8%→4.6%と大幅に引き上げられた。しかし、市場はそれほど動揺しなかった。

パウエルFRB議長が、「現在のプロセスが景気後退を引き起こすか、その場合の深刻度も誰にも分からない」と景気後退入りの可能性があることをはっきりと認めたことでリスクオフムードが広がった格好だが、これによりFF金利先物市場では来年9月からの利下げを織り込む動きも見られる。

要は、市場はFRBがこの先も利上げのアクセルを踏み込み続けることで景気が抑制され、来年後半で利下げを強いられる展開を織り込み始めている。これは反対に、市場がFRBは今以上にアクセルを強く踏み込むことはできないだろうという、ある意味楽観の現れと言える。しかし、確かに景気後退の可能性を認めた以上、FRBもそれが深刻なものにならないよう、そろそろ慎重姿勢を見せ始めてもおかしくないか。

(画像:BTC対円、含み益BTC割合<Percent Supply in Profit>日次/bitbank、Glassnode)

他方、ビットコインのハッシュレートは、相場がレンジで推移し続ける中、堅調に推移し200Ehash/s以上の水準を維持している。相場上昇が伴わない状況が続けばディフィカルティの上昇から収益性が低下するが、6月を機にマイナーの換金需要と思われる取引所へのBTC送金量は減少しており、需給関係は6月と比べれば改善していると言える。

また、BTCは相場の大底のシグナルとなってきたハッシュリボンのゴールデンクロス(ハッシュレートの30日移動平均が同60日移動平均を上抜け)も示現しているほか、流通するBTCで含み益を抱える割合は、売られ過ぎとされる50%を割り込んでおり(流通するBTCの過半数が赤字を示す)、BTC相場の大底形成はより濃厚と言えよう。


長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。


|編集・構成:佐藤茂
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