エネルギー価格高騰で欧州マイナーが移転、向かった先とは?

エネルギー価格の高騰とビットコイン(BTC)価格の低迷を受け、一部のヨーロッパのビットコインマイナーは、安価な電源を求めてノルウェーやスウェーデンなどの北欧に移動している。

ヨーロッパの大部分の地域で、マイニングは経済的に意味をなさなくなってしまった。天然ガスの価格は8月、過去最高の1メガワット時当たり321ユーロを記録。1年前にはわずか27ユーロだった。一方、ビットコイン価格は今年になって約60%値下がりし、現在2万ドル付近で推移している。

一方、ノルウェーとスウェーデン北部のエネルギー価格は、南部より10倍も安い。エネルギー市場が分かれているからだ。これらの2カ国は、ヨーロッパの他の国々に比べて再生可能エネルギーの割合が多い。しかし、南部はヨーロッパの市場と結びついており、そこでは需要がより大きく、価格もより高い。

ヨーロッパの炭素集約度
(北に行くほどカーボンフリーなエネルギーの利用度が高い)
出典:Electricity Maps)

CoinDeskが今年3月、ノルウェー南部にあるデータセンター企業クリプトヴォルト(Kryptovault)を訪れた時、CEOのチェティル・ペターセン(Kjetil Pettersen)氏は、エネルギー価格の上昇を受け、大規模なビットコインマイナーをホストする同社は北部への拡大を検討中していると語っていた。

それは、ロシアがウクライナに侵攻し、天然ガスの価格が高騰した前の話だ。ペターセン氏によれば、その後同社は、5月から6月にかけて南部での事業を終了し、北極圏の北にあるロフォーテンへとマイニング機器を徐々に移動させている。

同様に、スペイン南部にある小規模なビットコインマイニング施設も、パラグアイへと移転している。

これら企業の動きは、ヨーロッパのビットコインマイニング業界が、主にウクライナでの戦争を受けて高騰したエネルギー価格にどのように反応しているかを象徴するものだ。

マイナーは事業を停止するか、エネルギー価格が安価な地域への移転を選択している。移転先は、安価な水力発電による電力が豊富なノルウェーやスウェーデンの北部、あるいはアメリカ大陸。ニューヨーク州などでは、より厳しい規制が実施される懸念があるにも関わらずだ。

ハンガリーのマイニング機器提供業者エネルハッシュ(Enerhash)のCEOダニエル・ジョグ(Daniel Jogg)氏によれば、ドイツの多くの企業はドイツでの事業を停止し、アメリカまたはスウェーデンへの移転を検討している。

スイスのマイニング企業コワ・エナジー(Cowa Energy)の創業者フィオレンゾ・マンガニエロ(Fiorenzo Manganiello)氏は、ノルウェー南部ではエネルギー価格高騰によりマイニングが「不可能」だと語った。現在のマクロ経済の状況は、ヨーロッパのマイニング業界にとって「大惨事」なのだ。

ヨーロッパの多くの地域では、エネルギーは極めて高価なものとなっている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、今年第2四半期には、フランスとドイツのエネルギーの平均卸売価格はアメリカの2倍以上。

価格高騰を抑えるための対策が実施された後の9月中旬になっても、ヨーロッパの多くの国々における電気の卸売価格は、1メガワット時当たり350ドルを超えている。マイナーが元を取るために必要としている価格の数倍だった。

タイミングの悪さ

マイナーにとっては、複数の要因がエネルギー危機をますます悪化させている。ウクライナ侵攻を受けて、ヨーロッパへの化石燃料の最大の提供国の1つであるロシアに対する制裁が実施された後、天然ガスの価格は高騰した。

さらにここ数年、ヨーロッパ諸国は原子力発電所や石炭発電所を閉鎖した。これによって、電力供給量が制限されている。世界でも原子力発電による電力の割合が最も多いフランスは今年、メンテナンスのために56ある原子炉のうち32が操業を停止している。

一方ドイツでは、エネルギー危機によって、驚くような方針転換が行われた。ドイツ議会は今夏、石炭発電所を再稼働させることを決定したのだ。

ウクライナでの戦争が続く中、EUの指導者たちはロシアのガス会社に対しさらなる制裁を実施。これに対しロシアは9月上旬、パイプライン「ノルドストリーム1」による天然ガスの供給を停止した。ロシアからドイツへと天然ガスを送るこのパイプラインは9月28日、ノルドストリーム2と合わせて、損傷。破壊工作が疑われている。

しかし、スカンジナビア半島の北部へ移転することは、マイナーにとってリスクを伴わない訳ではない。9月の数日間、スウェーデン北部のエネルギー価格が1キロワット時当たり約20ユーロセントまで高騰。ジョグ氏によればこれは、風力発電の出力が低下したためで、普段なら平均価格は1キロワット時当たり3.5ユーロセントほどだ。

冬の寒さによってこの先需要の高まりが見込まれる一方、指導者たちは制裁撤回には乗り気ではなく、エネルギー市場は先が見えない状況だ。

しかし、ヨーロッパは冬を乗り切るために、天然ガスの貯蔵を着実に進めている。ノードストリームを通じての供給停止がエネルギー市場に与えたショックも落ち着いてきたようで、価格はここ数日、元に戻りつつある。

原子力発電における新しい展開も、事態の緩和に役立つかもしれない。CMG Cryptocurrency Mining GroupとMaverick Groupの共同創業者、デニス・ルシノビッチ(Denis Rusinovich)氏によれば、フィンランドでは今年中に、同国5つ目となる原子力発電所がフル稼働する予定だという。

フランスでも、メンテナンス終了後、2023年初頭には原子力発電所が稼働を再開する。これによって、ノルウェーやスウェーデンの市場に対する圧力が緩和されるかもしれない。

欧州のエネルギー政策

ヨーロッパの政治家たちは自国民に対して、エネルギーの節約を呼びかけている。フランスのマクロン大統領は、エネルギーを配給制にする計画を「念のために」準備していると表明した。

EUの執行機関である欧州委員会のライエン委員長は今月、エネルギー企業の収益、さらには天然ガスの価格に上限を設けることで、エネルギー業界の改革を検討中と発言。

それでも、コワ・エナジーのマンガニエロ氏は、マイニングに対するEUレベルでの政策が、近々まとめられることはないと考えている。政策決定は通常、時間のかかるプロセスであり、マイニングプロジェクトを承認するのは一般的に、地方自治体だからである。

しかし、現状のエネルギー危機、地政学的要因や国内問題などから、「魔女狩り的なものが多く行われ」ており、マイニングはこれまで常に「目をつけられやすいターゲット」となってきたと、ルシノビッチ氏は指摘する。

今のところ、ノルウェーとスウェーデンの極寒の大地が、マイナーたちを手招きしている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Miners Take Off for The Great – and More Profitable – North