暗号資産ローン、中南米で広がる──高インフレと利上げで需要増

中南米の人たちにとって、金利が極めて高く、容赦ないインフレが続く状況において、伝統的銀行からお金を借りるのは簡単ではない。そんな中、暗号資産(仮想通貨)による貸し付けが広がりを見せている。

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックが原因となったインフレが襲った頃、ラテンアメリカ各国の中央銀行は早々と金利を上げ始め、2021年から2022年にかけても、利上げは続いた。

銀行の貸付金利は爆発的に高まり、結果として、最大で金利が50%も低く、アカウントの維持費もかからない暗号資産プラットフォームの成長が加速した。

暗号資産貸付の魅力

12万5000人以上のユーザーを抱えるカナダ発のレンディングプラットフォームLednは、2019年にラテンアメリカで事業を開始。現在では、同社が貸し付けるローンの50%がラテンアメリカ向けのものだと、共同創業者兼最高戦略責任者のマウリシオ・ディ・バルトロメオ(Mauricio Di Bartolomeo)氏は語った。

「ラテンアメリカで暗号資産の普及が進むにつれ、日々の暮らしのために保有するビットコインを売らなければならない人たちがいることに気がついた」と、ディ・バルトロメオ氏。「そこで、暗号資産を売らずに事業やプロジェクトを成長させるのに、貸付が役に立つと考えたのだ」と続けた。

Lednでは、年利7.9%で米ドルとステーブルコインのUSDコイン(USDC)での貸し付けを行なっている。米ドルまたはUSDCでローンを受ける時に、ビッットコイン(BTC)を担保にすると、ローンが2倍になる。ラテンアメリカでLednが貸し付けたローンの総額は5億ドル。ビットコインが担保になったローンの平均額は9206ドルだと、ディ・バルトロメオ氏は説明した。

ラテンアメリカの暗号資産取引所Buenbitは7月、バイナンスブロックチェーンを基盤としたアルゼンチンペソ連動型ステーブルコインNuARSを使って、アルゼンチンで暗号資産の貸し付けを開始。米ドル連動型ステーブルコインのダイ(DAI)を担保にすることが条件となる。

この貸し付け商品のローンチ以来、NuARSでの借入金額は70%増加したと、Buenbitのマニュエル・カルデロン(Manuel Calderon)氏。同氏によれば、借入上限は9月、ユーザーからの需要に応えるために、100万NuARS(3703ドル相当)から500万NuARS(1万8518ドル相当)へと引き上げられた。

借入金額に応じて、必要な担保は最大90%。年利は約69.5%だが、市場の変動に応じて、日々変化する可能性がある。一方、アルゼンチンの伝統的銀行の場合、貸付金利は年利200%を超えることもある。

「この商品は、米ドルを売りたくないが、長期あるいは短期的にペソを手にする必要がある人のためのもの」とカルデロン氏。「ドルを手元に残したまま、貸し付けの担保として使うことができるのだ」と説明した。

カルデロン氏によれば、Buenbitでは1日に約30の新しいローンが組まれ、25のローンが返済される。「ユーザー層は、機械を買うために500万NuARSを手にしたい中小企業から、外食といった少額の出費のために3000ペソ(11ドル)だけを必要とする人まで、多岐にわたる」と、カルデロン氏は説明した。

ペルーの法定通貨「ソル」と連動したステーブルコインNuPENも手がけるNum Financeは8月、アルゼンチンとペルーの自社プラットフォームでNuARSとNuPENでのローンの貸し付けを開始。同社CEOのサンティアゴ・ミゴネ(Santiago Migone)氏によれば、ここひと月で、25万ドル以上のローンが組まれた。

「ラテンアメリカは、東欧や南アフリカなど、収入レベルが同じ国々に比べて、貸し付けがはるかに少ない。様々な形で貸し付けを拡大するための新しい方法をもたらす暗号資産商品には、大きなインセンティブがある」と、ミゴネ氏は語った。

Num Financeのローンは、ビットコイン、イーサ(ETH)、ダイなどで100%担保することができ、金利は国によって異なる。

市民の味方

メキシコの中央銀行は8月、10カ月連続での利上げを発表。0.75%の利上げで、金利は史上最高の8.5%となった。

2020年に他国に先立って金融引き締め政策を開始したブラジルの金利は13.75%と、世界でも2番目に高くなっている。しかし、トップは断トツでアルゼンチン。中央銀行は9月、5.5%の利上げを発表し、金利は75%に達した。

民間銀行は、貸し付けにおいて一段とリスク回避的だ。ブラジル最大の民間銀行Itauは、個人向けローンの金利は最大172.85%。アルゼンチン最大の民間銀行Banco Santanderの提供する年利は、230%にも達する。

「このような金利では、インフレ率が高まる中、市民がローンを返済することはできない」と、暗号資産を専門にするアルゼンチンの経済学者ダリアン・ヤネ(Darian Yane)氏は語る。

ラテンアメリカのインフレ率は、世界でも最高水準であり、平均は前年比11%。チリやペルーなど最も安定した国々も例外ではなく、これらの国の市民も最近では、インフレに対処するために暗号資産を活用し始めている。

さらに、ラテンアメリカでは金融包摂の度合いがまだまだ低い。労働人口の最大50%は非正規な雇用形態で働いており、ローンの申し込みに必要なクレジットスコアを持ってはいない。

「銀行システムから疎外され、現地通貨で給与を受け取っており、ローンも銀行口座もクレジットカードも利用できない人にとっては、(中略)暗号資産が解決策となる」と、ヤネ氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Jesse33 / Shutterstock.com
|原文:Crypto Loans Are Booming in Latin America Amid Runaway Bank Rates and Inflation