経営陣の再編成の嵐が暗号資産(仮想通貨)の世界を襲っている。暗号資産の「大辞任の時代(Great Resignation)」と呼ぶ人もいるほどだ。
相次ぐ退任劇
10月17日には、暗号資産取引所ジェミニ(Gemini)の共同創業者キャメロン・ウィンクルボス(Cameron Winklevoss)氏が、ジェミニ・ヨーロッパのディレクターを退任すると発表。
イギリスの規制当局への提出書類で明らかとなったこの退任は、ジェミニが完全に保有する子会社であるジェミニ・ヨーロッパが、租税回避地として知られるアイルランドへの拡大を計画する中での出来事だ。
ウィンクルボス氏の退任について、正式な理由は発表されていないが、デジタル資産業界全体には今、経営幹部レベルの再編成の波が押し寄せている。規制関連の困難がさらに高まり、数カ月に及ぶ市場の低迷も続く中、退任が相次いでいるのだ。
特に注目すべき退任の例をいくつか挙げてみよう。ジェネシス・グローバル・トレーディング(Genesis Global Trading)のCEO、マイケル・モロ(Michael Moro)氏。マイクロストラテジー(MicroStrategy)のCEOマイケル・セイラー(Michael Saylor)氏。
クラーケン(Kraken)のCEOジェシー・パウエル(Jesse Powell)氏。アラメダ・リサーチ(Alameda Research)の共同CEOサム・トラブッコ(Sam Trabucco)氏に、FTX.USの社長ブレット・ハリソン(Brett Harrison)氏。
セルシウス(Celsius)の元CEOと元最高戦略責任者、アレックス・マシンスキー(Alex Mashinsky)氏とダニエル・レオン(Daniel Leon)氏もいる。セルシウスは現在、米連邦破産法11条のもとでの再構築という困難な状態にあり、マシンスキー氏が告発される可能性もある。
それぞれの退任事情
退任の理由はそれぞれに異なっている。多くの場合、お粗末な経営判断を下した後に面目を保つための個人的な動き、あるいは取締役会や所有者たちからの圧力の結果のようだ。
例えばモロ氏は、お金儲けに熱心になり過ぎ、犯罪を犯した可能性もあるヘッジファンド、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)に、企業を対象とした暗号資産レンディング企業ジェネシスが投資してしまった後に辞任。スリー・アローズの破産で、ジェネシスは12億ドルもの損失を被ったようだ。
マイクロストラテジーのCEOを長年務めていたマイケル・セイラー氏は、2020年の同社初のビットコイン(BTC)購入を主導。同社をビットコイン投資トラストのようなものへと変容させた。
マイクロストラテジーの2020年のビットコイン投資は、強気相場に先立ったもので、先見の明のあるものと思われた。他の企業がインフレのヘッジとしてバランスシート上にビットコインを保有するきっかけとなったとも言われているほどだが、現在同社は多額の含み損を抱えている。
市況が不利になった後も、セイラー氏はビットコイン買いを続けたのに対し、他の上場企業の大半は買い続けることはなかった。セイラー氏は現在も、エグゼクティブ・チェアマンとして同社に留まっている。
暗号資産取引所クラーケンのパウエル氏が同社を創業したのは2011年のこと。暗号資産の世界の中でも、特にイデオロギーを重視した人物として知られてきた。リバタリアン寄りのパウエル氏は今年、同社が社員に求める人物像についてのポリシーを制定し、不満を持つ従業員は辞めるよう発言。有害な職場文化を育んだとして非難されていた。
パウエル氏は、セイラー氏と同じように、暗号資産を広める活動に専念し続けるために、CEOを退任すると表明。このような動きは、上手くいくこともある。例えば、フェイスブックのデジタル通貨プロジェクト「リブラ」の責任者を務めたデイビッド・マーカス(David Marcus)氏は退任後、鋭いコメンテーター、そしてライトニング・ネットワークに特化したライトスパーク(Lightspark)のCEOとして活躍している。
テック業界と同じように、複数の暗号資産企業が新規採用を凍結し、解雇を始めた。ユーザーも資金も出ていく中、生き残ることだけが目標となる弱気相場においては、成長と市場独占だけが重要と思われる強気相場とはまったく異なった経営スキルが必要とされる。
しかし、暗号資産業界において厄介なのは、経営陣の採用が難しいことだ。多くの企業、とりわけコインベースは、業界の複雑性のために、社内からの採用に依存せざるを得ない状況だ。経営陣は、暗号資産の技術面を理解しているだけでなく、ボラティリティの高い市場において会社を率いる度胸も必要だろう。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Why Are So Many Crypto Execs Leaving?