BTCマイニング機器:多くが使われずに未開封のまま

ビットコイン(BTC)のマイニングに使える何十万台もの新品のマイニング機器が、使われないまま眠っている。ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)の価格低迷と、エネルギーコストの増大によって大きな打撃を受けた暗号資産マイニング業界の経済状態は、これを受けてさらに歪んでいる。

マイナーは昨年、十分なマイニング機器を買えずに苦労していた。メーカーは注文をさばききれなかった。しかし現在、ビットコインマイナーのクリーンスパーク(CleanSpark)のエグゼクティブ・チェアマン、マット・シュルツ(Matt Schultz)氏は、アナリストたちとの会話にもとづいて、アメリカだけでも25万〜50万台のマイニング機器が箱に入ったまま使われていないとみている。

マイニングサービス企業ルクソール・テクノロジーズ(Luxor Technologies)のCOOイーサン・ベラ(Ethan Vera)氏は9月、世界中で27万6000台ほどの機器が未使用となっていると見積もっていた。

正確な数字が何であれ、はっきりとしていることがある。暗号資産の中核にある経済が、完全に調子を狂わせているのだ。マイニングコンピューターをホスティングするデータセンターを運営するコンピュート・ノース(Compute North)が9月に破産申請をしたことで、そのことがさらに裏付けられた。

その理由を見つけるのは難しいことではない。ビットコインやその他のトークンの価格は劇的に低迷。マイナーが獲得するデジタル資産の価値が下がった。さらに、エネルギー価格高騰によって、マイナーが負担するコストは増大。専用のマイニング機器を使い、ビットコインを報酬として獲得するために演算を解くマイニングというプロセスには、たくさんの電力が必要なのだ。

業界関係者の多くは、未使用のマイニング機器が多数あるという点で意見が一致しているが、それらが設置・使用されていない理由については、意見が分かれている。

データセンターに空きスペースがないと言う専門家もいれば、スペースはあるが、現在の市況を考えると、動かすのにお金がかかり過ぎる、と言う専門家もいる。

ルクソールのベラ氏は、「すぐに利用できるスペースが限られている」と指摘する。中国が暗号資産マイニングを禁止し、アメリカやカザフスタンにマイナーが押し寄せてから1年以上経っているが、マイニングが禁止されていない国でホスティングを行う企業は、料金を引き上げている。

コア・サイエンティフィック(Core Scientific)は、ブロックチェーンのために使われている演算能力を示すハッシュレートで世界一のマイナー。同社は「スペースへの需要が急増したため、ホスティングの基本料金を見直すことができた」と、CEOのマイク・レビット(Mike Levitt)氏は語った。

事情に詳しい人によれば、コア・サイエンティフィックはここ数カ月で、手数料を20〜25%も値上げしている。

ホスティングとは、顧客が自分で必要なインフラを構築することなく、マイニング機器を保管し、デジタル資産をマイニングできるように、データセンターが手数料と引き換えに暗号資産マイナーに提供するサービス。コア・サイエンティフィックは自社でビットコインマイニングを行いつつ、他のマイナーにホスティングサービスも提供している。

エネルギー市場の影響

しかし、エネルギー価格の高騰とビットコイン価格の低迷によって、マイニング機器のホスティングは収益性のないビジネスとなってしまった。その結果、マイナーが収益を出せるようなホスティングサービスは少なくなり、マイナーがマイニング機器を運用できる安価な場所を探すのはより困難になった。

「機器を置くスペースがまったくないのと、安価なスペースがないのには違いがある」と、ニューヨークにあるマイナー、ブロックフュージョンUSA(Blockfusion USA)のCEOアレックス・マルティーニ(Alex Martini)氏は語る。

マイニング機器を置くスペースはあるのだが、エネルギー価格高騰のために、ホスティング料金があまりに高過ぎるのだ。

「我が社には32(メガワット)の余裕があり、他の施設には(合計で)400メガワットの余裕がある」が、エネルギー価格が高過ぎて、ビットコイン価格が安過ぎるため、顧客は興味を示さないと、マルティーニ氏は説明する。

「電力とホスティング」自体は現在、業界にとって制約ではないのだが、エネルギー価格の高騰のために、収益性を生むようにするのが「厄介だ」と、コンピュート・ノースの施設でマイニング機器をホスティングしてもらっていたマラソン・デジタル・ホールディングス(Marathon Digital Holdings)のチャーリー・シューマッハー(Charlie Schumacher)氏は語る。

アプライド・ブロックチェーン(Applied Blockchain)と200メガワットの契約を結ぶまでに、マラソンでは少なくとも30のホスティングオプションを精査したと、シューマッハー氏。多くの機器が使われないままだが、「今のところ、ホスティングに対する需要よりも供給の方が上回っている状況」だと説明した。

新品のマイニング機器は割高で売ることができるため、マイニングで利益が出せるまでは、マイナーは機器を開封することはないのだと、マルティーニ氏は指摘した。

一方、シューマッハー氏によれば、ホスティング企業は新しい顧客を惹きつけるために、手数料を下げ始めている。

「ここ最近、ホスティング料金の見積もりが下がり始めている。今年はこのままこの傾向が続くだろう」と、ビットコインマイナー、グリフォン・デジタル・マイニング(Gryphon Digital Mining)のCEOロブ・チャン(Rob Chang)氏は語った。

メーカーは割引販売

供給過剰で、割安で売られているにも関わらず、メーカーはマイニング機器の製造を続けている。

世界最大のマイニング機器メーカー、ビットメイン(Bitmain)は8月下旬、2021年夏に機器を購入した大口顧客に最大30%の割引を提供するクーポンプログラムを発表。9月には「Antminer S19 Pro」の100テラハッシュモデルを約30%割り引くと発表した。

クリーンスパーク、コア・サイエンティフィック、マラソンをはじめとする一部のマイナーは、新しい機器に支払う価格を調整できる「プライス・プロテクション」と呼ばれる売買契約内の条項を行使した。

マイニング機器の売買契約は通常、頭金を必要とするもので、メーカーから出荷されると、残りの代金が分割で支払われる。大口契約の場合メーカーは、毎回の出荷の前に、双方が市場価格を評価し、支払額を調整できる「プライス・プロテクション」条項を契約に入れる。

ビットメインのマーケティング責任者Xmei Lin氏は、プライス・プロテクションは、「大口顧客を市場価格のボラティリティから守る」ものと説明。リン氏によれば、「暗号資産の市場価格が値下がり」した場合には、毎月の価格分析に応じて、ビットメインが購入されたマイニング機器の価格を下げるのだ。

マイクロBT(MicroBT)とカナン(Canaan)の大手メーカー2社は、コメントの求めに応じていない。

市場での資本の制約を考えると、マイニング機器に対する需要は現在、一段と少なくなっており、マイナーの間では、昨年資金を調達した注文を取り消す動きも見られると、シューマッハー氏。このトレンドが続くかどうかは、「ビットコイン価格次第だ」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:A Huge Glut of Bitcoin Mining Rigs Is Sitting Unused in Boxes