ブルームバーグが長編暗号資産記事を掲載:その重大さ【コラム】

10月31日発刊の「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」紙面版に掲載される記事は、たった1つだけとなる。コラムニストのマット・レヴァイン(Matt Levine)氏による、『The Crypto Story』という壮大なタイトルのついた、4万ワードに及ぶ長編記事だ。

その狙いはどうやら、暗号資産の基本的な原理や技術から、最高に魅力的な社会的意義に至るまで、あらゆるものすべてを網羅した暗号資産入門を届けることのようだ。

重大な転換点

ジャーナリズムを生業としていない人には、ことの重大さが分かりづらいかもしれない。しかし、これは画期的な出来事なのだ。10年に及ぶメインストリームでの懐疑から、暗号資産の重要性が当然となる未来への最後の転換点となるかもしれない。

この1本の記事が重要な理由は主に3つ。まず、ブルームバーグはほぼ間違いなく、現在地球上に存在するメインストリームビジネスメディアの中で、最も影響力が強く、尊敬されている存在だ。ザ・ウォールストリート・ジャーナルもその役割を失ってはいないが、ブルームバーグの組織力と生み出す記事の幅広さと奥深さには敵わない。

2つ目の理由は、マット・レヴァイン氏はおそらく現在、ブルームバーグだけではなくあらゆるメディアを含めて、最も尊敬される金融ライターであるということ。レヴァイン氏はゴールドマン・サックスでインベストメント・バンカーを務め、M&A専門の弁護士として活躍した後に、2013年にブルームバーグにコラムニストとして仲間入り。メインストリームに慣れ親しんだ一流の知見を提供してくれる存在だ。

それと同じくらい重要なのは、レヴァイン氏が、普通の人にとってどんな金融がどれほど難解であるかをしっかりと理解している、とても親しみやすいライターであるということ。トピック自体がどれほどチンプンカンプンに聞こえるかを、きちんと自覚して記事を書いているのだ。

レヴァイン氏は荒唐無稽さを受け入れることで、知の門戸を広げる。「これってクレイジーじゃないか?」という自由奔放なアプローチによって、読者にも仲間の金融ライターたちにも慕われているのだ。

ライター界での彼の影響力は、誇張するのが難しいくらいだ。金融は退屈ではないことを証明してみせたライターの殿堂においては、『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』の著者マイケル・ルイス氏に並ぶ。

3つ目の理由は、長い記事だからだ。4万ワードというと、160ページの本に匹敵する。(そしておそらくレヴァイン氏は、実際に本として出版するだろう。)

ブルームバーグがエディションすべてを1つの長編記事に捧げたのは、これまでにたった1度きり。取るに足らないものだと考えている人もいるトピックに捧げるには、かなりのリソースである。

重要なものは重要

つまり、この新しい暗号資産についての記事は、現在最も重要な金融ライターが、おそらく最も重要な金融メディアで発表する長文の記事であり、そのことは、真剣なコミットメントを示唆している。しかし、実際の中身はどうなっているのだろうか?

おそらく最も象徴的なのは、記事の序盤に登場する画像の説明文。そこにはシンプルに、「ビットコインは大物」と書かれている。記事全体としても、記事が掲載されているという事実が示唆するのと同じ重要なポイントを伝えている。それは、良かれ悪しかれ、暗号資産は本当に重要である、ということだ。

レヴァイン氏は、お馴染みの好奇心と謙虚さでこのトピックに挑み、親しみやすい素人向けの言葉を使って、暗号資産のプロたちが当たり前と思っていることを説明するのに多くの紙面を割いている。

例えば、「ある意味では、ビットコインの技術上の業績とは、コンピューター上に希少性を生み出すための分散型の方法を生み出したことだ」と、レヴァイン氏は説明する。これは、当記事を読んでいる読者の多くにとって、10年前から知っていたことだろう。

しかし、レヴァイン氏が真顔でこの点を詳細に説明してくれると、新たにたくさんの金融のプロたちが、暗号資産のことを真剣に捉えてくれるようになるだろう。そんな真剣な彼らの一部は、とりわけビットコインやイーサリアムに関して、新しく強気の主張を持つようになるだろう。

レヴァイン氏が、暗号資産が重要な理由について、具体的な主張を支持している、という訳ではない。あるいは、暗号資産が何を成し遂げられるのかについて、はっきりとした予定表を示したり、暗号資産が永遠に続いていくと明確に主張している訳でもない。ちなみにレヴァイン氏は、記事執筆時点で約100ドル相当の暗号資産を保有していると認めている。

レヴァイン氏は、より穏やかに、より大切なことを伝えている。それは、暗号資産は「おもしろい」ということだ。

「暗号資産の価値については、特に強い思い入れがあるわけではない」と、レヴァイン氏ははっきりと伝え、「私は金融が好きだ。面白いと思う。あなたが金融好きなら、経済の現実をまとめるために人々が構築する仕組みを理解することが好きなら、暗号資産は素晴らしいものだ」と続ける。

一部の強硬な暗号資産懐疑派にとって、この言葉だけでもゲームオーバーだと言ってしまっても、言い過ぎではないと思う。技術、金融、社会の世界で起こっているものとしての暗号資産の重要性を全面的に否定するための議論の余地は、もう残っていないのだ。

さらに、レヴァイン氏は暗号資産の実際の価値については中立的だ。彼の考えでは、ビットコインナーがしばしば宣伝する開放性と自由の拡大へと進への方向、あるいは無規制の詐欺と終わらない投機的不安定さの世界的地獄絵図への方向、どちらにも向かう可能性がある。

どちらのシナリオも起こり得るのだとすれば、金融、そして社会について真剣な人たちが関心を払わなければならないという点に、議論の余地はなさそうだ。

とりわけ賢い人が何かを売りつけようとしている場合、その人はa)人を説得する何らかの動機を持っており、b)そもそもとりわけ賢い人ではないのだ。しかし、とりわけ賢い人が何かを魅力的だと感じ、そのことについて単純な価値判断を下していない場合は、注意して耳を傾けた方が良いだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:ID1974 / Shutterstock.com
|原文:What Bloomberg’s Crypto Opus Means for the Next Bull Market