11月4日、2つの一見矛盾したニュースが届いた。それぞれに奇妙で嫌な感じがするとも言えるニュースであった。
まず、あからさまにジタバタしているイーロン・マスク氏が所有するツイッターが、従業員の50%を削減する大量解雇を開始した。
その一方で、ウォール街の予想を劇的に上回るような労働市場のレポートが届いた。ウォール・ストリート・ジャーナルが調査したエコノミストたちは、今四半期に平均で20万5000の新しい雇用が生まれると予測していた。実際には、10月に新しく雇用された人の人数は26万1000人と、失業率が3.7%とわずかに増加したにも関わらず、想定を上回ったのだ。
マスク氏指揮下のツイッター
この2つのニュースは、テックセクターとそれ以外のエコノミーとの深い断絶を象徴している。ツイッターの状況は非常に独特で興味深い。しかし同時に、少なくとも今のところ、テック以外のアメリカのエコノミーとは反対方向にテック業界を動かしているより広範な力を、マスク氏に典型的な形で誇張したものでもある。
マスク氏は、ヘマをして価値の分からないものをうっかり買ってしまったがために、ツイッターの従業員の半分を解雇することになった。マスク氏は4月に、ツイッターを1株当たり44.20ドルで買い取ると一方的に提案。
当時その提案が何となくお買い得に見えていたのは、あらゆる「テック」あるいは「外出自粛」系の株式と並んでツイッター株も、新型コロナウイルスのパンデミック中に信じられないほど、そして明らかに持続不可能な値上がりを見せていたからだ。
マスク氏はどうやら、他の投資家たちより賢いわけではない。あるいは少なくとも、自らの感情をコントロールするのに長けているわけではないようだ。
マスク氏がツイッター買収のために支払った440億ドルは、ツイッターのパンデミック前の時価総額よりも20〜25%高く、マスク氏は現在、ツイッターの一貫性がなく平凡な収益の流れをしのぐかもしれない130億ドルを、借り入れによって調達しなければならないのだ。
これは2020年第4四半期に、人々が高価過ぎるフィットネスバイクを買い続けるだろうと、ペロトン（Peloton）を440億ドルで買収するのと変わらないと言っても、過言ではないだろう。
だからこそマスク氏は、事業を不安定にさせる可能性の高いペースでツイッターから従業員を追い出すと同時に、ツイッターのプラットフォームの仕組みを深く誤解していることを示すような、認証バッジの有料化といった収益を重視したアイディアを提案しているのだ。
私個人としては、すでに状況はあまりに不安定になっており、マスク氏指揮下のツイッターは失敗に終わり、特価で売却されるか、新たに株式を売り出し、マスク氏個人が何十億ドルもの損失を抱えることになると予測している。
縮図
しかし現状は、マスク氏の滑稽な愚かさの絶頂であるのと同時に、より広範なテックセクターの縮図のストーリーでもあるのだ。テック企業は約10年にわたり、大いに債務に頼って運営されてきた。今激しい終わりの時を迎えているゼロ金利時代に支えられてきた、金融的な意味での債務である。
テックは同時に、アマゾン、グーグル、フェイスブック/メタなどの収益性のある企業の株価にさえも織り込み済みの将来を見越した約束に支えられた、より概念的な債務にも依存してきた。とりわけ、1月以来株価が70%値下がりしたメタは、未来が現在になり、その時に約束を果たすに達していない時に何が起こるのかを、私たちに見せてくれている。
そしてこれらすべてのことが、残りの業界の労働者や企業が完全に大成功しているとは言えなくとも、確かに健全な状態の時に起こっているのだ。インフレは深刻な懸念ではあるが、高次な経済の循環にも深くつながっている。
パンデミック中に多くのアメリカ人を助けた大量の資本注入は、現在のインフレと好調な労働市場の少なくとも1つの要因でもあるのだ。その資本注入とそれに続いたインフレはおそらく、ベンチャーキャピタルが支えるスタートアップに投資するような人たちから、食料品、自動車、スニーカー、ガソリン、医療など、現在株価が最も値上がりしているような分野へと投資する人たちへの、富のシフトも押し進めている可能性が高い。
テックの過去10年は、マスク氏のような愚か者だけでなく、エリザベス・ホームズ氏やアダム・ニューマン氏のような、明らかな詐欺師たちをも台頭させた。もしかしたら少し厳しい罰というのも、そんなに悪いものではないのかもしれない。その代わりに残りの人たちに、もっと多くの雇用のチャンスが回ってくるのであればなおさらだ。
｜翻訳・編集：山口晶子、佐藤茂
｜画像：Sergei Elagin / Shutterstock.com
｜原文：Don’t Mistake Tech Layoffs for a Recession
