取引所トークンのFTTは、暗号資産取引所のFTXと姉妹企業であるアラメダ・リサーチ(Alameda Research)の崩壊に大切な役割を果たした。両社のバランスシートを膨らませるためにFTTを使用したことを、CoinDeskのイアン・アリソン(Ian Allison)記者が報じたことが、破綻を引き起こした最初の疑惑のきっかけとなったのだ。
FTTはFTXによる詐欺において、中核的な役割を果たしていたかもしれない。アラメダ救済のためにFTXが顧客資産を名目上の(しかし実際には価値のない)「担保」として使われていたのだ。
しかしそもそも、取引所トークンとは何か?発行元の取引所にとってどんな役割を果たしているのか?現代の会計基準のもとで、どのように扱われるべきなのだろうか?そして分散化という暗号資産業界の取り組みを、どのように前に進めてくれるのだろうか?
取引所トークンとは?
まず、最後の質問から答えよう。取引所トークンはおおむね、分散化されてはいない。むしろその目指すところは、分散化とは対極にある。
取引所トークンは基本的には、同じ中央集権型取引所を使い続けてもらうためのインセンティブ。所有者は取引手数料の割引、報酬、製品やサービスにいち早くアクセスする権利などを獲得できる。
FTTトークンは、FTXの収益の一部を分配するものでもなければ、所有者にガバナンス権を与えるものでもない。それは、ほとんどの取引所トークンでも同様だ。
取引所トークンは取り立てて特別なものではない。FTTはイーサリアム上で、わずかな技術スキルがあれば誰でも作れてしまうようなERC-20トークンとして取り扱われていた。
バイナンスの取引所トークンBNBは、イーサリアムのフォークとして誕生した後、別の許可型ブロックチェーンと融合したブロックチェーンBNBチェーンで取り扱われている。
それは、取引所トークンの誕生のきっかけとなったかもしれないコンセプトの1つとは対照的だ。2016〜2017年頃から、分散型コンピューティングサービスのためにノードにインセンティブと報酬をを与えるのに使われる「ユーティリティトークン」が活発に議論されていた。
この言葉は最近ではあまり聞かれなくなったかもしれないが、現在存在する例としては、分散型保存ネットワークStorjや、トロン(Tron)が現在管理するビットトレント(BitTorrent)、Wi-Fiノードプロジェクトのヘリウム(Heliumu)などがある。
ユーティリティトークンの魅力は、所有権を実行したり、債務者や投資家を含めた組織からカウンターパーティへの債務のリストである「キャピタルスタック」で権利を主張するために法的仕組みが必要ない、という点だ。
その一因は、キャピタルスタックがないことだが、ブロックチェーンに直接つながったサービスに対する需要から、価値が手続的に生じるからでもある。
対照的に取引所トークンの価値は、多くの場合実際には存在しない、規制や法的仕組みにかかっていることが暗示されている。すべてとは言わずともほとんどの取引所トークンは、FTXやバイナンスなど、バハマをはじめとする規制が緩い地域で登記された、いわゆる「オフショア」取引所が発行している。
株式との違い
一方、アメリカで登記されている取引所のクラーケン(Kraken)やコインベース(Coinbase)は、一般的な株式市場(および関連する規制による制約)へのアクセスを持つため、独自トークンは発行していない。取引所トークンは、オフショア取引所が、株式市場へのアクセスなしで資金を調達する方法なのだ。
「バイナンスが最初に取引所トークンを発行し、大いに成功を収めた。成功すれば、真似をするところが出てくる」と、暗号資産運用会社アルカ(Arca)のケイティ・タラティ(Katie Talati)氏は語り、次のように続けた。
「フォビ(Huobi)、オーケーエックス(OKX)などが独自トークンを発行し、それ以降、一般的になっている。FTXの立ち上げは2019年の下半期で、立ち上げと同時に独自トークンも発行した」
しかし、取引所トークンが株式のように資金調達に使えるからといって、株式ではない。「現在、取引所トークンはキャピタルスタックの一部ではなく、例えば破産の時には何の権利も主張することができない」とタラティ氏は説明。「ガバナンスもなく、取引所にX、Y、Zをやって欲しいと言うこともできない」と続けた。
しかし、暗号資産の世界ではかなりよくある奇妙な不思議によって、強力な規制当局やしっかりと強制力を持った所有権すらない組織が発行する取引所トークンは、株式に非常に似た形で取引されるのだ。
取引所トークンの価値を考えるのに役立つのはディスカウンテッド・キャッシュ・フローモデルであるが、「モデリングできないインプットが多くある」とタラティ氏は指摘した。
この株式モデルとの半代替性が、サム・バンクマン-フリード氏の詐欺的な財務処理を簡単にした。詐欺の要素の1つは、FTTが「流通量は少なく、完全希薄化価値の高い」トークンであったということ。つまり、ほんのわずかなトークンだけが公に取引されていたが、そのわずかなトークンの価格がFTXの保有する何億ドル相当ものトークンに適応されることになっていたのだ。
例えば、スタートアップの創業者が、ベンチャーキャピタリストが分け前を受け取った後にも使い続ける「株式価値」のことを考えれば、少し分かりやすくなるかもしれない。
危険な会計処理
しかし、FTXやアラメダのバランスシート上でのFTTトークンの扱いは、一般的な株式会計の慣行にも、現実にも即さないものであった。自社株式を計上する場合、あるいは公開市場から買い戻した自社株を扱う場合、企業はそれらを推計評価額や流動資産に加えることはなく、通常は「自己株式」として計上する。
その理由は、企業の株式はその価値の一部ではなく、その価値の反映だからである。自己株式を自社の最終利益に加えるのは、ヘビが自分の尻尾を食べるのに似ている。
このような基本的な会計詐欺は、バンクマン-フリード氏がFTTをFTXとアラメダや、その他の関連組織間のローンの担保として使い始めた時に、時限爆弾になった。この手法は、エンロンが関連組織や書類上での資産の再編成を行うことで債務を隠し、自社の評価額を上げたのとそっくりなのだ。
史上最悪の暗号資産破綻にFTTが中心的役割を果たしたために、暗号資産界のリーダーたちは、取引所トークンや同様の独自資産の会計処理上の姿勢を説明することとなった。
バイナンスのCEOチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)氏は、バイナンスは「BNBを担保として使ったことは一度もない」と説明。リップル(Ripple)のCEOブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏も、リップルは自社が保有するXRPをバランスシートに計上してはいないと語った。
この比較的語られることのない慣行が、CoinDeskによるFTTの流れの報道があれほど爆発的な影響力を持ったことの理由を説明してくれる。FTXが使ったと疑われるような形で使われるべき資産ではなく、真に独立した組織であれば、ローンの担保として受け入れることも、「資産」とみなすこともなかったはずだ。
経験豊富な暗号資産投資家は、そのような慣行が行われないようにするための防波堤となる立場にいる。そうしなければ、無一文になるかもしれないのだ。タラティ氏は、アルカの立場について、次のように明確に語っている。
「私たちが(プロジェクトを)検討してみると、多くのプロジェクトがバランスシートに独自トークンを計上している。そのようなプロジェクトは、投資対象から除外する」
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:What Is a Crypto Exchange Token and How Did It Help Blow up FTX?