ギリシャ系アメリカ人として、私はあまりに長い間、欧州中央銀行(ECB)を気にし過ぎてきた。こんな光景を想像して欲しい。
サッカーの練習に向かう10代の少年。米投資銀行のゴールドマン・サックスが通貨スワップを仲介して、ギリシャがユーロに加盟できるようにしたと知って、彼はすっかり打ちひしがれた。その後も数カ月後、数年後と、緊縮政策が発表されるたびに少年は何度も打ちのめされた――。
そのティーンエージャーが私だ。
次に成人して、ビットコイン(BTC)の記事を書くことを仕事にしている元少年が、「Bitcoin’s last stand(ビットコインの最後の抵抗)」というタイトルのECBのブログを読んだところを想像して欲しい。
彼には気の休まる暇もない。とはいえ、こちらは想像する必要はない。11月30日のことだから。
ただブログは、ECBの公式見解ではない。ECBの公式ウェブサイトのブログに過ぎない。だが、公式ウェブサイトに掲載されているからには、その権威の旗の下にある。ブログに書かれている主要ポイントを読み込む価値はあるだろう。
ブログは、ビットコインの現在の値動きは「重要性を失う前の、人工的に誘発された最後のあがき」という裏付けのない主張から始まる。しかし、裏付けのない主張は、裏付けなしに却下もできる。主張を論破していこう。
ビットコインの価値は投機だけ?
ブログの次のパートには「ビットコインが合法取引に使われることはまれ」というタイトルがつけられている。残念なことに、本文で具体的に証明されることはない(真実ではないのだから、本当に残念だ)。
その代わり、ビットコインの価値は投機だけに基づいているとの主張に重点が置かれている。その理由は、
a)(不動産のような)キャッシュフローがなく、(株式のような)配当金がなく、(コモディティのような)生産性がなく、(ゴールドのような)社会的メリットがない。
b)ベンチャーキャピタルが、ブロックチェーンと暗号資産に179億ドルを投資して支えている、というものだ。
筆者の反論
私の反論は以下のとおり。
a)については、不動産がすべてキャッシュフローを生むわけではなく、グーグルは一度も配当金を支払ったことがなく、人々は実際にビットコインを使うのだから生産性があり、明らかに社会的メリットがある。
b)については、179億ドルのベンチャーキャピタル投資が、ビットコインの3000億ドルの価値を維持するために十分と考えることは、はっきり言ってバカげているの。だが、ベンチャーキャピタルは確かに過剰に称賛され、彼らが関わることは実際にビットコインの時価総額の一部を支えているかもしれないから、その点は譲歩しよう。
重要なことは、投機がその一部だとしても、ビットコインに価値を与えているのは投機だけではないという点だ。
規制と承認、エネルギー問題
ECBのブログの最後の部分は、規制が承認と誤解されてしまうことについて。さらに、ビットコインのエネルギー消費という使い古された批判と、ビットコインを支持することには銀行にとって、評判上のリスクを伴うという主張までついている。
規制については、私も同意する。規制は承認と誤解されることがあり、規制は「伝統的金融業界が、顧客のビットコインへのアクセスを容易にする」ことを促した。そしてその容易さが、たとえ他の投資家はそう考えていなくても、個人投資家にビットコインは堅実な投資であるという印象を与えたのかもしれない。
しかし、それがまさに市場の仕組みだ。買う価値があると考える人がいる一方で、売る価値があると考えている人もいる。
「ビットコインシステムはかつてない環境汚染の原因」という指摘については、この点に反証する多くの記事や報道があることを指摘したい。そして、表現の問題であり、あまり良い言い方ではないが、エネルギー業界はその巨大さゆえに、唯一の「かつてない汚染源」だ。
銀行の評判上のリスク
銀行はすでに十分、評判上のリスクを抱えている。2つ例をあげておこう。
1. HSBCは2012年、麻薬カルテルのためにマネーロンダリングを行ったとして19億ドルの罰金を課された(HSBCはまだ存在している)。
2. ウェルズ・ファーゴは2020年、本人の知らないうちに口座を開設するなどの問題行為に対して、30億ドルの罰金を課された(ウェルズ・ファーゴもまだ存在している)。
もちろん、だからと言って、ビットコインを後押しすることで、銀行に評判上のリスクが生じないというわけではない。だが顧客が利益を出せば、リスクを上回る評判上のメリットがあることも確かだ。
つまり、このブログは、特に決定的なことは述べていない短いブログに過ぎないと考えている。今後、ECBがビットコインが重要性を失っていく道筋について、思慮深く、総合的なレポートを発表することを楽しみにしている。
BTCオンリーから分散化へ
一方、ビットコイン至上主義者の中では、カサ(Casa)という企業が最近、イーサリアムブロックチェーンへの対応を追加し、ビットコイナーの怒りを買った。
カサは、ビットコインだけを保管するためのセルフ・カストディサービスを提供している。しかし最近、イーサリアム(ETH)も保管できるようサービスを拡張した。
この動きが一部のビットコイナーを怒らせた理由は、ビットコインオンリーの企業こそが正しい姿であり、それ以外は、理想からの逸脱であり、罰せられるべきという考え方が共有されているためだ。
ビットコインオンリーだったところから手を広げた企業は、良くても経営者の人格的欠陥、最悪の場合はビットコインに対する攻撃と解釈される。
私h、そうした解釈は明らかにバカげていると考えている。
カサは経営判断を下した。顧客はイーサリアムの金庫を欲しがった。だからカサは売ることにした。イーサリアムの金庫が欲しくないなら、使わなければ良いだけだ。カサは今でもビットコインの金庫も提供しているのだから、それを使えば良い。あるいは、使わなくても良い。競合のサービスを使っても良いし、自分自身で準備しても良い。カサが何かを強制しているわけではない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:A European Central Bank Blog Decries the End of Bitcoin, and We Aren’t Buying It