三菱UFJ信託銀行は、次世代のデジタル資産プラットフォームとして開発・提供を進めている「Progmat(プログマ)」を、広く業界をあげて「ナショナルインフラ」とする取り組みを開始する。
三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友ファイナンシャルグループ、SBI PTSホールディングス、JPX総研、NTTデータの7社は12月21日、Progmatの開発・提供と、「デジタルアセット共創コンソーシアム」(DCC、会員企業数163社)の運営を担う合弁会社の設立に向けた検討を開始することに合意したと発表した。
Progmatはすでに、野村證券やSBI証券、ケネディクスや三井物産などがブロックチェーンを活用したデジタル証券、いわゆるセキュリティトークン(ST)基盤として活用している。
Progmatでは、企業は不動産や動産、社債などを裏付けとしたデジタル証券(セキュリティトークン)を発行でき、日本円に連動したデジタル資産(ステーブルコイン)による決済を行うことも可能になる。さまざまなデジタルトークンを保有できるウォレットも完備している。
21日に三菱UFJ信託が開催した説明会で、同行取締役常務執行役員CIO兼CDTOの木村智広氏は「デジタルアセットの世界を業界横断で標準化していく」と語り、業界が立ち上がりフェーズにある今が標準化のチャンスと指摘した。
セキュリティトークンの本格的拡大を目指す
広く暗号資産(仮想通貨)を取り巻く状況は2022年、テラ(Terra)の崩壊に始まり、大手レンディング企業の破綻、さらには一時、業界の救世主と期待された大手取引所FTXが破綻し、暗号資産価格も低迷するなど、いわゆる「暗号資産の冬」が厳しさを増している。
しかし、デジタル証券(セキュリティトークン)は、そうした暗号資産(仮想通貨)とは、まったく成り立ちの異なるデジタル資産であり、日本ではすでに400億円を超える関連案件が組成されているという。
2016年、ブロックチェーンの可能性に注目した三菱UFJ信託は、デジタル企画室(旧Fintech推進室)を立ち上げ、2020年春の改正金商法の施行を踏まえて、いち早くデジタル証券(セキュリティトークン)プラットフォーム「Progmat」の開発に取り組んできた。
Progmatの開発を推進してきた同行デジタル企画室デジタルアセット事業室プロダクトマネージャーの齊藤達哉氏も「規格乱立は顧客の利便性を損ない、マーケットを分断してしまう」と述べた。
今回、7社を中心にProgmatの「ナショナルインフラ化」を目指す取り組みをスタートさせた背景には、デジタル資産市場のより本格的な拡大には、従来の証券市場や決済市場に比べて圧倒的な利便性の向上が不可欠との認識がある。
そのため、同行が子会社を設立して取り組みの中心となるのではなく、同行を含めたメガバンク系信託銀行3行をはじめ、デジタル証券(セキュリティトークン)の流通を担う取引所、システム開発を担う会社など7社が結集。中核を担う「共同事業体」として合弁会社を設立する。
なお合弁会社設立は2023年9月の予定で、CEOには齊藤氏が就任予定。あくまで同行の子会社ではなく、スタートアップ企業としてデジタル証券(セキュリティトークン)市場の拡大と事業拡大を進め、将来的にはIPOを目指すという。
グローバルも視野に
Progmatに関するプログラムや知的財産権などは三菱UFJ信託から共同事業体に移管され、プラットフォームの機能開発を担う「Core Developer」の役割を担う。一方、具体的なプロダクトやサービスの提供はProgmatに参加する「Service Developer」が行う。デジタル資産や顧客データはService Developerが分散的に管理・保管する。
なお、三菱UFJ信託が現状取り組んでいるカストディ業務などは合弁会社に移管せず、Service Developerの1社として提供を続ける。基盤は各社が共同で利用するものの、具体的な商品となるデジタル証券(セキュリティトークン)のスキームの作り込みには、三菱UFJ信託がこれまで取り組んできた経験・ノウハウをもとに競争力を発揮していく。
日本のデジタル資産市場は、その厳しい規制ゆえにグローバルな競争からの遅れを指摘する声もあった。しかし今、厳格な規制が世界から学ぶべきスタンダードとして注目を集めている。
Progmatでは、デジタル証券(セキュリティトークン)の決済に不可欠になるステーブルコインの発行も視野に入れており、円建てのステーブルコインのみならず、メタバースをはじめとするWeb3での利用を想定したドル建てのステーブルコインも検討していくという。
デジタル資産市場における「ナショナルインフラ」構築に向けた今回の取り組みは、世界から大きな注目を集めることになるだろう。そしてもちろん、日本におけるデジタル証券(セキュリティトークン)の普及・拡大を加速させる大きなきっかけとして期待される。
|テキスト・構成・編集:増田隆幸
|画像:プレスリリースより
※編集部より:DCC会員企業数を最新の数字に修正し、更新しました。