Bored Apeからメタバースへ:ユガラボの創業者2人が語る進化と戦略

ワイリー・アロノウ(Wylie Aronow)氏とグレッグ・ソラノ(Greg Solano)氏は「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」をスタートさせた時、評価額40億ドル(約5300億円)にのぼる大企業を作ろうとは思っていなかっただろう。今、2人はコミュニティと新CEOのサポートを得て、メタバースに照準を合わせている。


この2年間にツイッターを使ったことがある人なら、インフルエンサーやセレブが「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」をプロフィール画像に使っている様子を目にしただろう。

カラフルな猿のイラストのNFTは2021年4月に登場して以来、カルチャー現象のようなものとなり、1万個のNFT画像はステータスシンボルとなった。

絵柄や、一部ファンの熱狂ぶりに呆れる人もいるだろう。だがBAYCは、ロードマップの発表、固定価格、長期的な実用性の導入、知的財産権(IP)の保有者への譲渡など、NFTマーケットを変容させ、後に続くプロジェクトにとって手本にもなった、複数の斬新なコンセプトを取り入れた。

さらに、2つの派生プロジェクト「Bored Ape Kennel Club」「Mutant Ape Uacht Club」を成功させ、単なるNFTコレクションから、独自のDAO(自律分散型組織)、独自の暗号資産、そして「Otherside」と名づけられたスタート間近なメタバースプラットフォームも備えたエコシステムへと成長した。

11人から評価額5000億円超の企業に

BAYCの成功を理解するには、プロジェクトを支える人たちと、BAYCを手がけるブロックチェーンテクノロジー企業ユガラボ(Yuga Labs)を理解する必要がある。2人の親しい友人、ワイリー・アロノウ(Wylie Aronow)氏とグレッグ・ソラノ(Greg Solano)氏が友人たちを集めて設立したユガラボはいまや、従業員数110人まで拡大。NFTプロジェクトのクリプトパンクス(CryptoPunks)やMeebitsを買収し、4億5000万ドルの資金調達を経て、評価額は40億ドルに達している。

ユガラボは2022年12月19日、ビデオゲームメーカーActivision Blizzard元社長兼COOのダニエル・アレグレ(Daniel Alegre)氏を新CEOとして迎え入れると発表。ユガラボの熱心なコレクターコミュニティをすべて統合し、その重点を「没入型Web3の世界」の開発にシフトすることに役立つような、ゲーム業界での知見が期待されている。

「それが私たちが究極的に目指すところ」と、アロノウ氏はマイアミにある現代美術館で語った。アロノウ氏とソラノ氏は、クリプトパンク#305が、アンディ・ウォーホルの作品の横に飾られることを祝いに来ていた。

「Othersideは、多くのものが交差する場と考えている。この業界の次なる進化の場だと。そこではゲームがきわめて大切になる」とソラノ氏は付け加えた。

創業者たちの出会い

アロノウ氏とソラノ氏は「クリエイティブファースト・カンパニー」と2人が呼ぶユガラボのクリエイティブ面を牽引している。

「私たちのDNAは、やりたいことを考え、語りたいクリエイティブなストーリーは何かを突き詰めること」とソラノ氏は語り、「そして、どうすれば実現できるかを考え、そこから作業を進める」と続けた。

2人は創作的な文章作りの経験を持っており、キャラクターを中心に世界観を作り上げるBAYCのストーリー主導の展開にも反映されている。「私は外向的で、彼は内向的」と語るアロノウ氏は、個人的な嗜好や性格の違いにもかかわらず、2人は共通点を見つける方法を学んだと述べ、2人の関係を冗談まじりに「共依存」な状態と呼んだ。

「極端な陰と陽という感じ」とアロノウ氏。「彼は私をプッシュして、私は彼を抑える。そして2人が一致できるスポットを見つける」とソラノ氏は付け加えた。

2人はまた熱心なゲーマーでもあり、2人が12年前に最初に意気投合したのも『World of Warcraft』などのMMRPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイゲーム)好きという共通項が理由だった。

「本を交換したり、ジョークを言い合ったり」とアロノウ氏は昔を振り返る。2人の初期のやり取りは主に、オンラインゲームやソーシャルプラットフォームを介したもので、そこでデジタルな交流の場に対する感謝と深い理解が育まれた。「(BAYCの前に)直接会ったのはわずか4、5回だったと思う」とソラノ氏。

「私たちの友情はメタバースで生まれたと言って良いだろう」とアロノウ氏は冗談交じりに語った。

コミュニティのためのプロジェクト作り

暗号資産ファンから、数十億ドル規模の企業の創業者へとの飛躍は、優れた計画とタイミングの良さのおかげだ。

2010年代に暗号資産が台頭するにつれて、イーサリアムブロックチェーンに対する関心が高まり、2人は一緒にブロックチェーン基盤のプロジェクトを立ち上げることになった。

ソラノ氏の大学時代の友人ケレム・アタレイ(Kerem Atalay)氏とゼシャン・アリ(Zeshan Ali)氏を仲間に引き入れてBAYCを立ち上げた。さらにアロノウ氏の子供時代の親友ニコール・ムニズ(Nicole Muniz)氏がCEOを務めていた。アレグレ氏がCEOに就任した後は、ムニズ氏はパートナー兼戦略アドバイザーとなる。

「初めて暗号資産について聞いた時というのは、おそらく誰かが何となく話をしたために、何のことかまったくわからないだろう。そして2回目に暗号資産について耳にした時はおそらく、最も大切な時だ。最初に話をした人は今や、暗号資産で大儲けしているから」とアロノウ氏は述べた。

ユガラボの首脳陣、ゼシャン・アリ(Zeshan Ali)氏、ケレム・アタライ(Kerem Atalay)氏、 ニコール・ムニス(Nicole Muniz)氏、グレッグ・ソラノ( Greg Solano)氏、Wylie Aronow(ワイリー・アロノウ)氏(Matteo Prandoni/BFA.com)

アロノウ氏はこの頃までに数年にわたって、自己免疫系の症状と闘っており、だからこそオンラインでの交流やコミュニティを求めていた。2人は暗号資産ファンたちが市場の動きやミームをシェアする、いわゆる「クリプト・ツイッター」で活発に活動するようになり、NFTとイーサリアムを中心とした新しい動きに夢中になっていた。

「クリプト・ツイッター、とりわけイーサリアムを中心に登場してきた人たちや、構築されていたカルチャーに興味を持つようになった。人々が足場にできるプラットフォームが突然登場したように感じた」とアロノウ氏は振り返る。

ロックダウンの影響

新型コロナウイルス感染拡大によって人々が家の中に閉じ込められ、デジタルの世界で協働するための新しい方法を見つけることを強いられたことがプロセスを加速させたと2人は語る。

「ロックダウン期間中に私たちが会社をスタートさせたことは偶然ではないと思う。コンピューターの前で多くの人が孤独を感じていた」とソラノ氏。

「新型コロナがBAYCの誕生に与えた影響や、NFTやプロフィール画像コレクションのブームがなぜ軌道に乗ったのかについて、私たちはしばしば考える。良かれ悪しかれ、人間は共同体的な仲間を持っていた方が良いようだ。何かの一員でありたいという願望がある」とアロノウ氏は続けた。

退屈して、ビデオゲームを一緒にプレイしてくれる仲間が欲しいと夜中にツイートしていた人たちの話をアロノウ氏は語った。暗号資産コミュニティで、何かのプロジェクトに夢中になる人を愛情込めて「ape in(猿のように飛びつく)」と表現することを踏まえて、Bored Ape Yacht Clubが生まれた。

「どこかの時点で暗号資産に飛びつき、おそらくリッチになっていった人たちは、共通の関心を持つ他の人たちに囲まれていたかっただけ」とアロノウ氏は指摘した。

暗号資産エコシステムの恐れを知らないトレーダーたちに対する「愛あるオマージュ」として作られたプロジェクトだったが、初期のコミュニティメンバーの多くは、初めてNFTを買うような人たちだった。

「誰かのためではなく、自分たちのために構築していると気づいた瞬間があった」とアロノウ氏は振り返る。

成長のための規模拡大

すぐに史上最も人気のあるNFTプロジェクトとなったBAYCを手に入れるために、アートの専門家や有名コレクター、暗号資産ミリオネアなどが殺到するようになった。

NFTマーケットプレース「オープンシー(OpenSea)」によると、BAYCの登場以来、合計取引高は当記事執筆時点で約8億4400万ドル相当の69万9831イーサリアム(ETH)にのぼる。ユガラボは2022年、クリプトパンクスやMeebits、10KTFなど、複数のNFTプロジェクトを買収し、2人の創業者が当初予想もしていなかった姿で会社は前進している。

「長い間私たちは、少人数のチームでやってきた。2022年1月には、まだ11人だった」とソラノ氏は語り、「もしかしたらあまりに長く、きわめて少人数で機敏なチームであることにこだわり過ぎたのかもしれない」と認めた。

ユガラボは、コレクションの知的財産権を保有者に譲渡し、フードトラックやTV番組、音楽グループのブランディングにキャラクターを活用できるようにしている。保有者には新しい収入源が生まれ、ユガラボに対する忠誠心は高まった。

「私達は常に、他のすべての人がストーリーの上に何かを作るための足場を構築する方法について話している」とアロノウ氏。

BAYC保有者のための音楽と人脈作りのためのイベント「ApeFest」の2022年の会場では「出会ったほとんどすべての人たちが、何かを開発しているか、知的財産を活用しているようだった」とソラノ氏は語ってくれた。

コミュニティを「Otherside」へ

2人はこの数カ月、傘下のNFTコレクションのストーリーを1つの共通のエコシステムへと統合させる方法を模索している。ユガラボは2022年4月、相互運用可能なメタバースプラットフォーム「Otherside」の構想を発表。プレイヤーは土地を保有したり、既存のNFTをプレイ可能なキャラクターに変換できる。

ユガラボはバーチャル不動産の所有権を表すOtherseed NFTを5万5000個販売。売り上げは3億2000万ドル近くにのぼった。

「手がけているプロジェクトはすべて、とても大切。そのすべてが交わるところがOtherside」とアロノウ氏。

ユガラボは7月、招待制の「First Trip」を開催。4600人を超えるプレイヤーが、Othersideを体験するチャンスを得た。このイベント直後に発表された文書によると、初期段階では、Otherdeed NFTの保有者と選ばれた外部開発者だけが参加を許される。

「将来、私たちのコミュニティがメタバースの可能性を広げるために、どのような新しい体験やゲームを生み出すことができるか楽しみにしている」と文書には記されている。

Othersideの次のステージは謎に包まれたままだが、かつて2人を結びつけたストーリーテリングとゲームという基盤の上に築かれている。ユガラボはOtherdeed NFTに組み込まれた「Koda」という新しいキャラクターコレクションを予告し、9月にはさらなる展開を約束するビデオを公開した。

やりたかったこと

ブランドの拡張だけではなく、アロノウ氏はメタバースを「インターネットの終着点のような、漠然とした決定論」を表すコンセプトとして捉えている。

「もし1日中、デジタルの世界に入り浸るようになったら、どうなるのだろうか? 平等主義的な世界だろうか? お互いの関わりを感じられるだろうか?」

「面白くないやり方でメタバースを過ごすというアイデアは、ひどくディストピア的に聞こえる」と語るアロノウ氏はOthersideを「ゲームと、神秘的なエクスペリエンスのためのプラットフォーム」と呼ぶ。

新CEOがActivision Blizzardで「World of Warcraft」などのゲームを担当した人物であることは偶然ではない。アロノウ氏はOthersideのインスピレーションの源として、World of Warcraftの名前をインタビューの中で繰り返しあげていた。

「協調することに対してインセンティブを与える方法について考え始めている。例えばWorld of Warcraftでは、主に単独のプレイヤーとしてゲームをプレイできるが、悪者を見つけて、近くに他のプレイヤーがいたら、その人のところへ行って『一緒に倒さないか? 報酬は分け合おう』と話しかけるインセンティブが生まれる」とアロノウ氏は説明した。

「真に皆で作り上げる、平等主義的で楽しいメタバース」を構築することが、現在のユガラボの「最優先事項」とソラノ氏は語り、「人々に協力し、お互いを知るように促すことが重要だ」と続けた。

「なぜ私たちがそもそも、これをやりたかったのかを示すものだ」とアロノウ氏は締めくくった。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ユガラボの創業者グレッグ・ソラノ氏(左)とワイリー・アロノウ氏
|原文:See You on the Otherside: How Yuga Labs Is Bringing Its Billion-Dollar Business Into the Metaverse